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左側恐怖症

「この人元気くんに似てるかも!」

「どれどれ…一番人気ないって言われとるメンバーや!他にしてくれ!」

テレビの画面に映っているのは今旬と言われているアイドルグループだ。

「バラエティー担当って言われてる人でしょ?元気くんそっくりだよ!」

「内面まで似とる言われたら否定しづらくなるやん!」

「元気くん、私はどの人に似てるのか教えてよ!」

「おー…んー…」

私に似てる人を真剣に探してくれてる。

「つむぎはこの人に似てねぇか?」

さっきまで本を読んでいた芽衣が横からひょっこりと顔を出す。

「どれや」

「左から二番目。今後ろに下がった奴」

「んーカメラ抜いてくれないなぁ」

それからしばらく見続けたが、カメラがその人を抜く回数はめっぽう少なかった。

「まさか、元気くんと同じであんまり人気ない感じかな」

「人気ない人指しとったって自覚あんのか」

「私は似てる人を指しただけだよ。決して元気くんが人気ないというわけじゃないから」

「わかった。肯定に聞こえてくるからそろそろやめてくれ」

元気くんは私の肩をげしっと叩く。

叩かれたので叩き返した。


私に似ているという人はそれからもワイプにもあまり映っていない。

「妙に赤ばっか映ってへん?」

元気くんの視線でテレビに穴が開きそうだ。

確かに赤とピンクの人よく映ってるなぁ。

「私水色だよ」

「水色もっと映せよ」

あ、芽衣がげんなりしてる。

…すう。

「もっと水色映せー!!!」

私は高々とこぶしを上げながら叫んだ。

「うおっなんやそういう感じか!俺も叫んだる!水色もっと映せやー!!」

「あっ映った!!!」

「ほんまや!!!」

「タイミング良すぎだろ」

これは、私たちの気持ちでワイプが変更する魔法がかかっているのではなかろうか。

「赤とピンクばっかり不公平だー!」

「せや!黄色の子かわいいで!」

元気くんの頭を強くはたいた。

「なんでや!事実やん!」

「それはつまり私が元気くんのタイプではないということがわかるからなんか違う!」

「ただの推しとか、そういうんじゃねぇの?」

あ、推しか。ならいいや。

「芽衣はこのクールビューティな青色とか似てるんじゃないかな?」

「……こんなにこにこせんやん」

私はとっさに元気くんの頭を左側だけ守った。

これから訪れる悲劇がなんとなくわかったからだ。


「右側だけごっつ痛いんやけど。いっそのこと守ってくれへん方がよかったわ」

「ひっどーい!なら私が左側コテンパンにしてあげる。それでいいよね?」

「あかんあかんあかんあかん!!!」

逃げ惑う元気くんを追いかける。

抱きかかえようとしたがうまくいかなかった。

腕の中をするりとすり抜ける。

「足なら私のほうが早いんだから!」

そばに置いてあった芽衣の本を綺麗とは言えないフォームで大きく投げてみた。

「おい!」

はずれた。

「はぁっはぁっ…。…どこまで来るん!?」

「どこまでも!」

「元気!早く残りの半分の顔を差し出せ!」

「俺はパン分けるヒーローやないねん!そないな器用なことできるか!」

靴を履き、外へ逃げ出したしまった。

逃がさない!

「せい!!!」

「それは私の靴なんだよ!」

今度こそあた…ったのは右側か。

芽衣の靴のもう片方を投げると同時に扉がぱたりとしまった。


「元気くーん?出ておいでー?」

大きな声で呼びかけるけれど呼んでも呼んでも出てこない。

最後に見えたのは路地裏に入る姿だった。

こっちで合ってると思うんだけどなぁ。

「……つむぎ」

「あっ元気くんみっけ」

軽い足取りで駆け寄る。

「地獄の果てまで追いかけますとも」

おもわず鼻歌がこぼれる。

「ひとおもいにやれやぁぁぁぁぁ!!!」

「うん」

差し出された元気くんの左頬を軽くつねる。

「よし!満足!」

あっけにとられたような顔してるなぁ。

私変なことしたっけ?


「ただいまぁー!」

「……」

「おう、おかえり。長かったな」

「そう?」

味噌汁をふつふつとさせている芽衣のもとに駆け寄る。

「な、なぁ芽衣、俺つねられただけやったんやけど、あの流れならどえらいどつきするんやないかと思っとったんやけど」

「何ぼそぼそ話してるのー?」

「元気がつねられただけじゃ納得いかないってよ」

え?何してほしいんだろう。

「ちゃうちゃう!あれだけでいいんやけどな!!なんもないで!」

「私はわかってたから静かに片方差し出せって言ったんだよ」

「はよ言ってやぁ……」

どうしたことか頭を抱えてうずくまる。

そんなに芽衣の両手ビンタ痛かったのかなぁ。

私が片方は守ってあげたのに。


「あ、私が告知してるよ」

「ややこしいな、水色な」

「CDの宣伝のために温存されとったんやない?」

元気くんの運んでいる食器が傾いて倒れそうだ。

左側から腕を持ち上げるとびくりとし、入っていた味噌汁をこぼしてしまった。

「うっかりさんだねぇ」

いそいそとタオルを取りにキッチンへ戻る。

「……俺、左側恐怖症になりそうやわ」



ここまでお読みいただきありがとうございます!

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