風呂キャン界隈の幽霊
でろりと床に溶けている液体がいる。
先ほどまで愉快そうにテレビを見ていたが、それはもう影となっている。
「……おい、ちゃんと入ってリフレッシュして寝ろ」
「嫌や、今日はそういう気分とちゃうねん」
「じゃあ私と一緒に入る?」
「それこそあかん奴や」
ここ最近元気くんがお風呂に入るのを嫌がるのだ。
そのたびに私がお風呂を共にすると言って振られ続けている。
「そろそろ一緒にお風呂はいろーよー」
「裸見られたいんやったらええで」
「嫌に決まってるでしょ」
「そんなまじな声で言わんでいいやん」
「元気振られたな」
そういいながら元気くんの背中に腰を下ろす。
「……椅子ちゃう!!!どけや!!!」
「入るんならどいてやるよ!!!」
「じゃあ無理かもしれん!」
「私も乗るー!!!」
「ぐふっ!!!」
私が重いみたいな反応してる。失礼だなぁ。
「……誤った方がいいぞ、元気」
「ちょっ待ったっ!!頭の上に乗ろうとせんでくれつむぎ!!!」
「やっぱり華と一緒に入った方がいいと思うの」
やれやれと芽衣が視線を落とす。
元気くんは相変わらず私たちの椅子にされている。
「なんか気持ち上がらへんねん。ここ最近」
「暑いし汗かいてるんだから、お風呂入った方がいいと思うよ」
「つむぎ!上で体揺するんやめてくれ!」
「それよりな、私の中では卵かけご飯ばかり食べるやつに卵知らねぇうちに使われる方が大問題なんだよ!」
「わーもっと揺らして!」
「二人とも俺の体なんやと思っとんねん」
間髪入れずに答えた。
「椅子」
「揺れていいモノ!!!」
「風呂に入る動機を作ってくれ」
真剣な顔だなぁ。
体は相変わらず床に溶けてるのに。
元気くんと目を合わせるために視線低くしなくちゃ。よいしょ。
「簡単だよ、体動かせば汗かいて、自然と風呂入りたくなるぞ」
「それいい!私と今から外に行って遊ぼうよ!」
「……何して遊ぶん、あとつむぎ顔近いんやけど」
あ、ちょっと興味もってくれた!
そうだなぁ、鬼ごっこがいいけど二人で鬼ごっこじゃ楽しくないよね。
どっちが先に坂の上に行けるとか?
どっちが?
「あ!じゃあさ、私と同じ動きしてよ!鏡みたいに!」
「……ええやん」
「うまくできてるかどうかは芽衣に確認してもらおうよ!」
「じゃあ、いくよーせーの!」
右、左、前、後ろ。
「へへ、簡単や。ちょろいもんやな」
私は体を動かすことがそこまで得意じゃない。どちらかといえば芽衣のほうが得意だ。
「前回り!」
「よっ!」
「待った」
え?何?
まだ途中なんだけど。
「元気、つむぎとずれてたからやり直し」
あ、確認してくれてたのか。
「先に右足を地面から離せ」
「そんなに厳しいん?」
「芽衣の言うことは絶対だよ!もう一回後ろ回り!」
これは立派な何かができる予感!
「はぁ~、はぁ~…」
汗が顎を伝って床にぽとりと落ちる。
呼吸がものすごく深くなってる。集中しているんだろうな。
鏡のバディとなった私も気を引き締めなくては。
「はあ、はあ、げほっ」
洋服が汗で背中に引っ付く。
ところで芽衣はいつOKをくれるんだろうか。
「さっきも言ったろ!指先があってねぇんだよ!」
いったい何分経ったのだろうか。
疲れ…いやバディたるもの、片方が倒れるまでやらねば。
元気くんはもうヘロヘロだが、私はまだ少し元気だ。
「芽衣、もうそろそろ風呂入りたいんやけど」
なっ…!
「それは逃げだよ元気くん!最後までやりきるべきだよ!」
肩を揺らし、元気くんを正気に戻す。
「寝れると思うなよ!」
「はい!もう一回後ろ回り行きます!」
「最初の目的忘れとんねん!」
「一旦休憩!」
芽衣が両手で大きく音を鳴らした。
芽衣満足そうに微笑む。
「…はあっはっつむぎ、これ、めっちゃ楽しいやん」
「だよね、はっはあ…すっごく楽しいよ元気くん」
時間は測ってないけど、30分くらいかな?
ずっと体を動かし続けて気持ちいい汗が流れている。
目の前にタオルと麦茶が差し出される。
「ほら、いい動きになってきたな」
「ありがとう芽衣」
「おおきに」
熱を持った体に冷たい麦茶を注ぐのはそれはそれは気持ちが良かった。
コップについた水滴が指先をなぞる。
「…私俄然やる気出てきたよ!もっとやれるよ!」
「俺もや!完璧になるまでやり続けるで!」
「あ、悪い。見たいテレビあるからもうやめてもいいか?」
「………」
「「だめ!!」」
びっくりして目を丸めている芽衣を真っ直ぐに見つめる。
「これは3人だからできる競技なんだよ!ミラーリング!…使い方あってる?」
「多分あっとるで!」
たくましい腕をがっしりと掴む。
テレビの前で座ろうとしていた芽衣を元気くんの隣にずるずると引きずる。
「早くスタートちょうだい!」
「つむぎと心まで繋がったる!」
「それはなんか気持ち悪いよ」
「さっきからなんやねん、つむぎ」
芽衣はテレビと私たちを何度も視線を忙しなく往復させる。
「テレビの方が見たいからさ」
「芽ー衣ー!!!やだやだやだー!」
許されることじゃないよ!
「もっと私の事見てよ!そんな番組より素敵だと思うよ!」
テレビに負けるなんで悔しい。
「いつも見てるから腹膨れてるよ」
「俺のことももっと見てや!」
そうだよね、元気くんもそう思うよね!
「………」
「みて!芽衣!私たちがひとつになるまで!」
「一心同体や!」
テレビの前でミラーリングをしてみた。
これで芽衣は私たちと見たい番組を一緒に見られるという幸せな時間を過ごしているはずだ!
「………」
あれ?そうでもない?
「元気くんストップ」
「ん?どしたん」
汗を腕で拭いながらテレビの光で青白く光る芽衣の横顔を見つめる。
「芽衣の顔が変」
芽衣の方をじっと見つめたあと、元気くんとアイコンタクトをした。
「…つまり私たちの質の問題だよね!」
「せや!この滑らかなミラーリングを見たくないなんて芽衣が言うわけないやん」
片方がもう片方を補う感覚…。
同時に右に。
同時に左に。
ついには呼吸まで一緒になって….。
これがもしかして一緒になるっていうこと!?
「おい、変なこと考えんなよ」
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