サクじゃり柏餅
「今日は二人と一緒に柏餅を食べたいと思います!」
昨日届いたばかりの柏餅。
二人と一緒に食べたいと思い前から目をつけていた。
「冷蔵庫で一日寝かせたから餅が少し硬くなってるかもしれないけど、電子レンジでチンする?」
「しなくていいよ。つむぎはどれ食べる?」
「芽衣先に選んでもいいよ!」
残り物には福があるってね!
「俺も一緒に食べてもええか?」
その目には私は映っておらず柏餅だけが目に入っている。
「もっと私を見てよ!元気くんの馬鹿!4個入りの柏餅だから一緒に食べよう!」
「ちゃんと見とるでー。ほなこの一番大きいのいただくわ!」
「私はこれ」
各々好きな柏餅を手に取り葉をはがして口に運ぶ。
「ん~!!!」
「甘くてもちもちでめっちゃうまいやん…」
「絶品だな」
あまりの美味しさにほっぺが落ちそうだ。
「あんまり和菓子買う人我が家にはいないもんね~」
口をもごもごさせながらしゃべる。
喋りたいけど、口の中が忙しくて焦ってしまう。
「急いで飲み込むなよ。ちゃんと嚙んでから…」
「もう食べてもーた」
「はえーよ」
「いやー、食べるのに夢中になると喋るの忘れちゃうね!」
芽衣が入れてくれたお茶を口に含ませ柏餅の余韻を味わう。
二人も満足してくれているようでよかったよかった。
「なあ、粒あんとこし餡どっちやった?」
柏餅の葉っぱがぺたりと指に張り付く。
どっちだっけ。
ざらざらしていたような、つぶつぶしていたような。
「粒」
「あちゃー!俺こしあんやった!粒あんどうやった?」
「うまかったぞ。触感もあったしな」
どっちか気にせず食べちゃった!
「つむぎはどっちやった?」
「まっまっ待って!!!」
この話に参加できないよ!
視線があっちこっちに動き回る。
「……お餅はもち米とお米どっちだった?私お米だったんだけど!」
これなら私も参加できる…
「……ほーう、俺もち米やったんやけどご飯ってどんな感じなん?」
…はず。
「私ももち米。気になるな。ご飯でできた餅」
妙に二人がにやにやしているような。
いやいや、今はそんなことより!
話に私も混ぜてくれないと疎外感あって嫌!
えーと…。
「なんの質問だっけ?」
「ご飯でできた餅がどんなんか教えてくれっちゅう話や」
…どんな感じなんだろう。もちもち、とは少し違うよね。
ならむちむち?
「どうした?答えられねぇの?」
芽衣が口の端を片方上げながら微笑む。
頭ぐるぐるだ!
早く答えなくちゃ…
「……サク?」
「サクって何や」
………。
「表面がサクッとしてて…」
「サク!?ほな中はなんやねん」
中?うーんと…。
「えっとー、すっごいサクサクしてて、なんか、こう、ご飯!みたいな!」
「それは外の話やろ。話かみあってへんで」
「つむぎが食べたのはスナック菓子かよ」
ぎくりと背筋に冷たいものが走る。
「い、今までは外の話ね!中はうーんんんん…」
「嘘やろ。サクサクしとる柏餅なんて聞いたことないで」
「えっあの!!チラシにも書いてあってね、サクサクですよーって!」
チラシという言うのも嘘だけど。
「中はじゃりっ外はサクってね!」
「中はじゃり!?なんやそれ!」
「それはもう天下一品の味わいで…」
見たこともない空想を交えながら語りつくそうとしたその時
「4個入りだったよな。これ」
元気くんとの会話に芽衣が割って入った。
「……?うんそうだけど」
「確率的に言えばもち米が2つ入ってたから、残りはご飯だろ」
芽衣がにやりとし柏餅に手を伸ばす。
「だめーーーーー!!!!!!」
ぺちりと小さい音がリビングに響く。
「…なにすんだつむぎ」
「悪気はないのよ悪気は!でもこれはダメなの!」
芽衣の圧がすごいけどそんなことかまってられるか!
お皿をひょいっと持ち上げリビングの隅に逃走を図る。
「柏餅の残りは全部私が食べる!」
「一口よこせよ、ほら」
手でひょいひょいと柏餅を探す。
「おれもサクじゃりの柏餅むっちゃ食べてみたいわ!」
隅に逃げるんじゃなかった!
逃げ道ないよ!
うまく芽衣と元気くんの腕をすり抜け…
「どこ行くんだよ」
「笑顔が邪悪だよ!」
芽衣に肩を抱かれ逃げ場がなくなってしまった。
柏餅の葉っぱのにおいが妙に青臭い。
「見た目じゃわかんねぇな」
「どこがご飯なんやろ」
嫌われたくないよう。
ただ会話に混ぜてほしかっただけなのに。
「食べてみたらええやん」
「毒見は元気に任せるか」
「毒ってなんやねん」
どうか柏餅ではなく別の何かに興味を移してくれると助かる…。
別の…。
「……お腹痛くなってきたからそれ食べない方がいいよ」
にやり。
これで私の前では柏餅の話はしなくなるだろう。
その間に残っている柏餅を胃袋に入れてしまえば…
「大丈夫か!お腹痛いて、トイレまで背負ったろか!?」
「え?」
ただ粒あんなのかこしあんなのかわからなかっただけなのに。
「幽霊専門の病院とかこの辺にはないやろ!どないしよ!」
「落ち着け元気。休ませて調子見るぞ」
いつ嘘だって打ち明ければいいんだろう?
柏餅どころの騒ぎではない。
「つむぎ、なんか食べたいものとかあるか?夜になってまうけどコンビニまで行っておっちゃんに勝って買うてきたる!」
「えっと…サイダーとか?」
「そうだよなあ、サイダー飲んで胃をすっきりさせたいよな」
「そ、そうそう、胃!胃がね!!」
「ストレスとかやないん!?それ!!誰かになんかされたか!?」
「た、食べ過ぎ!」
「大食いが柏餅一つでなに言ってんだよ!頭までおかしくなったか!」
も、もう無理だ。
「……さい」
「さいって言ったぞ!ちんげんさいだ、元気!」
「そうか!葉っぱや!」
「ごべんなざいーーーー!!!!」
芽衣の膝を借りながら涙をぬぐう。
「だって、私、粒あんかこしあんか、わからなくて…」
ことを大きくしてしまった申し訳なさと、事実を言えたことへの安堵で涙が止まらない。
元気くんは頭をよしよししてくれた。
「つむぎが元気やったらそれでええねん」
「見ててなかなか愉快だったぞ。どこまでいくもんかと思って聞いてた」
ちらりと芽衣のほうを見ると薄く笑っていた。
「悪魔だ!!!」
「元気くん、芽衣、柏餅食べていいよ。私、粒なのかこしなのかわからないくらい味音痴だし」
「まだいじけとんのかいな。ほな芽衣と半分こや」
さくさくさく。
「……ん?」
じゃり。
「……」
…?
ふて寝していた机から頭を上げ、みんなで顔を見合わせる。
「さっきのごめんなさいやっぱり取り消しで!」
「あほか!!!」




