夏になると扇風機は権力を持つ
扇風機とは、夏になると急に権力を持ち始める家電製品である。
「あ~」
この頃妙に暑い。
来ている洋服をパタパタと仰ぎたくなるもので。
けれど家の中で仰いでいたらはしたないと芽衣に叱られてしまった。
そんなことを言われても心の中が叫んでいる。
「芽衣―?洋服パタパタしてもいいー?」
「扇風機で我慢しろ」
「ぶー」
反抗の意味を込め口をすぼませる。
しかし芽衣にはノーダメージのようだ。
「一人で扇風機独占はやめぇや。俺にもあたるように首まわしてくれへん?」
ソファでだらりと横たわっている元気くんに扇風機を持って近づく。
「……近いねん」
「元気くんが言ったんだよ。あたるように首まわしてくれって」
「なんでつむぎが首まわしとんねん!扇風機の首まわしてってことや!」
私は元気くんの言うとおりに自らの首を回している。
やっていることは正しいはずだがなにかおかしいのか。
「扇風機は私にあたってるし首は回ってるしウィンウィンの関係だね!」
「俺結局涼しくなってへんねん!扇風機の風あててくれ!」
扇風機に手を伸ばしてきた元気くんからひょいっと距離を取る。
と同時に背中が何かとぶつかった。
「そろそろ、人間扇風機はやめとけ。首痛くなるぞ」
確かにそうかもしれない。
芽衣から言われたことを頭に入れ、右、左と動いていた人間扇風機を止めた。
「ちょっと外行ってくる」
「すぐ帰ってくる?」
「30分くらい軽く走ってくるよ」
「扇風機で涼んで待っとるな!」
「……なんで増殖してんだよ!」
「おかえりー」
ランニングから帰ってきた芽衣に声をかける。
「人間扇風機増やすためにランニング行ってきたんじゃねぇんだよ!とまれ!」
「なんか、つむぎと一緒に首動かしとったら楽しなってきてな」
私とは違う速度で動いている元気くん。
作っている工場が違うらしい。
「芽衣左の親指押してー」
頬を少しピクリと動かしながら私の左親指を押す。
「ぶるるるるるるるるるるる!!!!!!」
「うお!!!」
「芽衣そこはあかんねん、つむぎはそこ押されたら壊れかけの扇風機になってまうねん」
「首動かしながら言うなよ、絵面きもいことに気づけ!」
「ぶるるるるるるるるる!!!!!」
心底呆れたような、焦っているような声が返ってきた。
「芽衣いいいいいいいもう一回おしてぇぇぇぇぇぇぇ…ふう」
満足。
「……そこまでやるんなら、360度回る扇風機やってみろよ」
そっそれはっ……!!!
「なんてすばらしい扇風機なの…!」
「ほんまや…!」
「……」
でもどうしよう。
私の頭は180度くらいしか回らない。
元気くんも。
頭もげちゃうよ!
「元気くんどうしよう」
不安になりながらも隣にいる心強い味方に声をかける。
「大丈夫や、二人おればいい案も浮かぶやろ」
「ちなみに体を動かすのはなしな。扇風機らしく体は固定しろよ」
な、なんてこった。
それだけ言い残すと芽衣はシャワーを浴びに行ってしまった。
「大変だよ元気くん!超ハイスペック扇風機になれちゃうかも!」
「ちょお待てぇ。考えれば名案も浮かんでくるはずや…」
「なんで成功してんだよ!」
シャワーを浴びてきた芽衣を視界の端でとらえる。
呆れながらタオルで髪を拭いている。
「二人だからできることもあるってね!」
今私は元気くんと背中合わせで首を回している。
「完璧でしょ!」
「どうや!」
元気くんと腕を組めば、簡単にはがれない!
「涼みに来てもいいんやで!…ここ、風が勝手に巻き上がっとって気持ちええよ」
まるで草原にいるかのように遠い目で芽衣を見つめる。
「もっと近くにおいでよ!」
「結構だね」
そういうと家電扇風機を近くに置き、テレビを見始めた。
「な!何やっとんねん!!」
「私たちの努力を無下にするつもり!?」
少し涙目になりながら訴えかける。
「……人間扇風機も悪くはねぇけど、みんなで風にあたるっていうのもいいんじゃねえの?」
「つまり芽衣は私たちと一緒に扇風機の風にあたりたいの?」
「……」
そういうことなら。
元気くんに頭をごっつんこして人間扇風機の終わりの合図を伝える。
「いひひひ、芽衣も寂しがり屋さんだねぇ」
「気味悪いから止めるための口実だよ」
「素直になればええのに!ほら!一緒に涼めて楽しいなぁ!」
扇風機の前でみんなでぎゅうぎゅうになって風にあたる。
それだけですごくすごく
「幸せだねぇ~」
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