二人のご飯が好き
「俺やって得意料理くらいあるわ!」
「私のほうが料理全般得意なんだよ」
二人が言い争ってるところなんてみたくないよ。
車校が終わって、すがすがしい気持ちで帰り道を歩く。
「今日の料理当番私だよね?おいしいもの作れるようにがんばるね!」
朝確認したときはほうれん草、鶏の胸肉、ニンジンが残っていた。
鶏肉をゆでてほうれん草とにんじんをスープにしたらいいかな?
「よくあの壊滅的な料理からそこそこに成長したよな」
「それは芽衣の基準ですぅー、まぁまぁできますぅー」
芽衣はいつもおいしいご飯を作ってくれる。
「俺はどうや!幽霊歴長いし、うまいやろ!」
「おいしいよ!漢ってって感じのごはんだよね!」
「揚げて焼いてるだけだろ」
空気がぴりっとした。
リュックサックが服とこすれる音。
まばらな靴の音。
私たちが出している音が大きく響く。
「確かに芽衣のご飯は定食屋みたいやけど、俺のご飯やって魅力的やろ!」
「よく火加減間違えて焦がしてんのは誰だよ」
「た、たまに間違えるけど、こげこげにはしてへん!」
「こげこげはつむぎだろ」
急に話を振られ、姿勢をぴんとただす。
「俺が作る唐揚げとか絶品やない!?さくっさくかりかりやん!」
「私の作る唐揚げとどっちがうまい、つむぎ」
ぴんと伸ばした背筋が徐々に丸まっていった。
「どっちも好き」
「味付けだって目分量がへたくそなんだよ。味薄かったり濃かったり」
「むきー!食べられへんものやないやん!」
「どうだか。特にこの間の魚の煮物、次の日くった缶詰のほうが味しみてたぞ」
ひええええええ!
この空気はだめだよ!
「私、二人のご飯どっちも魅力ありありだよ!?」
狭い台所からカチャカチャという音が聞こえてくる。
ちらちらと台所に目を移すが、覗いたらしばらくかまってくれないという罰が待っているらしい。
台所には当番ではない二人が並んでおり、もくもくと食材に手を伸ばしているっぽい。
今日に限って食材が少ない。
明日宅配で食材が届く予定だ。
「つむぎ、悪いが元気のぶん毒見してくれ」
「毒見ってなんやねん!火ぃ通っとれば立派な料理や!」
思わずテレビに目を移し、聞かなかったことにした。
「こっちみんなよ」
「そっちこそ俺が恐ろしいんやろ」
テレビに集中しようとしていても、自然と二人の会話が目に入ってしまう。
タイミングよく30分クッキングが流れている。
画面に映る作る人と助手役の人は仲良さそうにクッキングをしていた。
「ね、ねぇふたりとも、一緒に楽しく作ったほうがおいしいんじゃないかな?」
「なめたらあかん。めっちゃうまい飯作ったるからな」
やることがない。
いつもならかまってくれる人がかまってくれないから。
「……散歩行ってくる」
靴を履き、玄関の扉をゆっくりと開ける。
補修で先生が連れて行ってくれたところ、気持ちよかったなぁ。
二人と一緒にいきたいなぁ。
今二人は料理対決とか言って競い合ってる。
二人のご飯、私は大好きなのに。
夜の冷たい風が全身を冷やしていく。
私、二人に言いたいことあるよ。
「ただいまー」
リビングの扉を開けると、ふわりといい香りが鼻をくすぐった。
「おかえり」
「おかえり!」
あれ?
てっきり芽衣と元気くんの作ったご飯があるのかと思っていたんだけど。
食卓として使っているテーブルには、芽衣が作ったかのような山盛りのから揚げと、元気くんが作ったであろう漢らしいスープが並んでいた。
「一応聞くけど、どっちがどっちのお料理?」
問いかけると、少し言いづらそうに話してくれた。
「つむぎが一人になりたがるなんて珍しいやん。やから芽衣と話し合ってな」
「つむぎは最初っから、私たちのご飯が好きって言ってくれてただろ」
「うん」
そう、大好きなのだ。
誰かのためにっていつも作ってくれるご飯がたまらなく美味しい。
「そう考えてたら対決とかしょうもなく思えてよ」
そうだよ。
「二人でつむぎのために作ったらめっちゃ喜んでくれるんやないかって話し合ってな」
「私、二人のご飯大好きだもん!対決とかどうでもいいよ!」
そういうと二人は顔を見合わせ照れたように笑った。
「じゃ、冷めないうちに食べるぞ」
「おいしいおいしい!」
「わかったからちょお落ち着けや」
言葉だけ聞けば呆れているように聞こえるかもしれないけど、その声は優しくて。
「おかずのおかわりはないけど、ご飯のお変わりはあるからな」
「食べる食べる!」
「誰も取らへんよ」
ご飯、おかず、スープ、おかず、スープと忙しい。
いつもより速く噛んでいるから顎が痛い。
「しょうがねぇから私の分少しやるよ」
「俺の分もええで」
お皿に幸せが積みあがっていく。
頬袋はパンパンだ。
二人が笑いあっていて、私もそれがうれしくて笑って。
ゆっくりと流れる穏やかな空気。
今、私すごく
「幸せ!」
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