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“界”の残響(リフレイン)  作者: 黒っぽい猫
魔術基礎入門

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第7話 魔力の器となる原石

翌朝。


目を覚ますと、窓から柔らかな光が差し込んでいた。


……昨日よりは身体が軽い。


頭痛も少しマシだ。


「お、起きましたか」


部屋の扉が開き、優奈が顔を覗かせた。


「おはよ」

「おはようございます。今日も天界へ行きますので準備してくださいね」

「準備?」

「はい」


そう言いながら優奈はベッドの側にあるサイドテーブルに服を置いた。


昨日買ってもらった深緑と黒を基調にした服だった。


長めの外套に、動きやすそうなズボン。どこか中世ヨーロッパの狩人のような雰囲気がある。


「……なんかゲームの装備みたいだな」

「狩猟服ですからね」

「狩猟?」

「今日は洞窟へ行きますので」


嫌な予感しかしない。


「ちなみに普通の服じゃダメなのか?」

「絶対ダメです」


即答だった。


「これから向かう場所は寒暖差もありますし、魔力濃度も高いので普通の人間用の服だと色々危険です」

「魔力濃度ってなんだよ……」

「空気中に漂う魔力の濃さですね。濃すぎると人間や魔力の少ない住人は酔ったり倒れたりします」

「怖っ」

「大丈夫です。先輩はもう普通の人間ではありませんので」

「それ安心できないんだって」


優奈はケラケラ笑った。


「では着替えてきてくださいな」


——


着替え終わって聖堂へ向かう。


今日の優奈はいつも来ている普通の服ではなく、白を基調にした狩猟服だった。


腰には小さなポーチ。


胸元には赤い魔石のペンダント。

 

そして青いリボン。


だが、いつものハーフツインスタイルではなくリボンで長い髪を一つにまとめていた。


「なんか今日は本格的だな」

「まあ洞窟ですから」

「洞窟ってそんな軽いノリで言う場所か?」

「人によります」


そう言いながら優奈はテーブルの上に小さな箱を置いた。


「その前にこれを渡しておきます」

「ん?」


中には銀色のペンダントが入っていた。


中央には淡い赤色の魔石。


「綺麗だな」

「魔力調整具です」

「また物騒そうな名前きたな……」

「簡単に言うと、先輩の魔力を安定させるための道具ですね。あと多少のお守り効果もあります」


優奈はふと思い出したようにこちらを見た。


「そういえば前のお守りあります?」

「え?…あぁうん。あるよ」


ポケットから小さなお守りを取り出す。


優奈はそれを受け取ると軽く眺めたあと、ポーチへしまった。


「じゃあ行きましょうか」


——


界巡の扉を抜ける。


目の前に広がったのは、巨大な白い山脈だった。


「……うわ」


思わず声が漏れる。


空はどこまでも青く、雲が近い。


風は冷たいのに、不思議と寒すぎる感じはしなかった。


「ここが天界の北部山岳地帯です」

「天界ってこんな場所もあるのか」

「ありますよ。結構広いので」


優奈は慣れた様子で歩き始める。


「ところで今日は何をするんだ?」

魔成杖(ませいじょう)の原石を取りに行きます」

「…ませい?」

「魔成杖。魔力から成り立つ杖って書きます」


山道を歩きながら優奈が説明を始めた。


「魔成杖っていうのは、魔術師にとってとても大事なものです。魔力を安定させたり、魔術を補助したり、自分の魔力を形として固定したり」

「武器?」

「武器でもあり、身体の一部でもありますね」

「………?」

「普通の杖は材料を加工して作ります。でも魔成杖は違うんです」


優奈は前方を指差した。


山肌に巨大な洞窟が見えてくる。


「あの洞窟には特殊な原石があります」

「へぇ」

「その原石を取り込み、自分の魔力と融合させるんです」

「融合?」


「はい。一晩から一日ほどかけて原石が溶けて、魔力と一体化します」

「怖」

「その後、自分が思い描く形を魔力で作り上げると魔成杖になります」


「鍛冶とかじゃないのか」

「魔力で作ります」

「ファンタジーすぎる……」


洞窟へ入る。


内部は驚くほど広かった。


壁や天井には青白い結晶が大量に埋め込まれていて、ぼんやりと光っている。


「綺麗だな……」

「魔力の結晶ですね」


歩く。


ひたすら歩く。


十分。


二十分。


「……まだ着かないのか?」

「先輩の魔力量が多いので奥ですね」

「それ関係あるの?」

「あります。原石は持ち主の魔力が大きいほど魔力濃度が高い奥のほうにあるんです」

「ゲームのダンジョンみたいだな……」


さらに進む。


気づけば周囲の空気が変わっていた。


空気が重い。


身体が少し熱い。


「……なんか変な感じする」

「魔力濃度がかなり高いですからね」


優奈がこちらを振り返る。


「無理ならすぐ言ってくださいね」

「今のところは大丈夫」


その時。


低い唸り声が響いた。


「……あ」


洞窟の奥から現れたのは巨大な魔物だった。


岩のような皮膚。


鋭い牙。


赤い目。


「でっか!?」

「原石付近を縄張りにする魔物です」

「それ早く言え!?」


魔物が突進する。


だがその瞬間、優奈の周囲に魔術陣が浮かび上がった。


「……………」


半透明の障壁が現れる。


轟音。


魔物の突進を受け止めた。


「うぉ……!」

「先輩!」


優奈が叫ぶ。


「この奥です!原石を取ってください!」

「え!?俺が!?」

「本人じゃないと意味ありません!」


障壁の向こう。


洞窟のさらに奥。


そこには赤く輝く巨大な結晶があった。


鼓動のように脈打っている。


「早く!」

「うおおお!?」


半ば叫びながら走る。


後ろでは魔物が暴れている音が響く。


怖い。


めちゃくちゃ怖い。


でも不思議と足は止まらなかった。


原石へ触れる。


その瞬間。


ドクン


心臓とは違う鼓動が響いた。


「……っ!?」


赤い光が溢れる。


だが吸収はされなかった。


原石はゆっくりと光を弱め、小さくなっていく。


「……これでいいのか?」

「はい!」


優奈の声。


「それを抱えてください!」

「抱える?」

「卵みたいに温めるイメージです!」

「は?!卵!?」


意味がわからない。


だが言われた通り抱えると、原石はじんわりと熱を持っていた。


まるで本当に生きているみたいだった。


「それが先輩の魔成杖になります」

「これが……」


優奈は魔物を見据える。


「先輩は下がっていてくださいね」


次の瞬間。


大量の魔術陣と魔導書が空中へ展開された。


洞窟全体が青白く染まる。


無数の氷柱が魔物へ降り注いだ。


轟音。


凍結。


粉砕。


数秒後には、巨大な魔物は跡形もなく消えていた。


「……いや強すぎだろ」

「まあ慣れてますので」


優奈はケロッとしていた。


———


その夜。


俺はベッドの上で原石を抱えていた。


優奈に「絶対離さないでくださいね」と念押しされたからだ。


赤い原石は昼より柔らかくなっている気がする。


ほんのり暖かい。


「……本当に卵みたいだな」


眠気がやってくる。


そのまま目を閉じ、意識を手放した。


——同時刻。


神書界、ユナの工房。


机の上には大量の工具と魔石、それから魔術陣の描かれた紙が散乱していた。


うちは椅子へ座り、古いお守りを見つめていた。


「……やっぱり変」


お守りに魔力を流す。


すると内部に刻まれていた術式が浮かび上がった。


保護術式。


移動術式。


簡易防御。


そこまでは普通だった。


だが。


「……かなり消耗しているな」


普通ならありえないほど術式が削れていた。


まるで。


“何か”を必死に防いでいたような。


「……先輩に注がれたあの魔力と関係ある?」


灰色の魔力。


属性を持たない異質な力。


優奈は小さく眉を寄せた。


「んーもしかしたら……」


確証はないから断定はできない。


もし可能性があるのだとすれば……


「どうするかなぁ」


うちの独り言が工房へ静かに響いた。

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