第5話後半 楽しい地獄の訓練
翌日。
昨日よりも、体の違和感は少しだけマシになっていた。
それでも_______
「……まだ、違和感はあるな」
体の奥で何かが流れている感覚。
完全には慣れない。
「いい傾向だと思いますよ」
隣で優奈が軽く言う。
「昨日より魔力の乱れが少ないです」
「それ、いいことなのか?」
「いいことです。ちゃんと適応してきてます」
さらっと言うけど、今やってることはよくわからない機械をつけられた状態で健康診断である。
———
「じゃあ今日は続きやりますよ」
「続きってことは、昨日の地獄の延長か……」
「地獄ってほどじゃないでしょう」
「いや十分地獄だったが?」
⸻
渡されたのは昨日と同じ魔石。
「今日は“量”と“安定”を意識してください」
「昨日と何が違うんだ?」
「ちゃんと“入れ続ける”ことです」
「……嫌な予感しかしない」
⸻
手のひらに意識を集中する。
昨日覚えた感覚。
流すように———
外へ。
じわりと魔石が光る。
「お、いけてる?」
「そのまま維持です」
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調子に乗った。
———その瞬間。
「っ!?」
魔石が急激に光を強める。
「熱っ!」
「はい欲張りすぎです」
「いや今のは自然に——」
「自然に増やしましたね」
「バレてる!?」
⸻
何度も繰り返す。
少しずつ。
少しずつ。
――そして。
「……どうだ?」
魔石が、安定した光を保っている。
「はい、合格です」
「マジか……」
昨日より確実にできている。
⸻
「次いきます」
「まだあんのかよ」
「ここからが本番です」
嫌な予感が的中した。
⸻
「今度はそれ、体に戻してください」
「……は?」
「魔石の中の魔力を、自分の中へ」
「いや待て待て」
意味がわからない。
「さっきまで出してたんだぞ?」
「はい」
「それを戻す?」
「はい」
「意味わからん」
「やってみればわかります」
「それ一番信用できないやつ」
⸻
仕方なく、魔石に手をかざす。
さっき自分が入れた魔力。
なのに———
「……なんか、違うな」
“自分のもの”なのに、外にあると別物みたいだ。
「それが普通ですよ」
「普通なのかよ」
「外にある時点で“別物”として認識されますから」
「めんどくさいな魔力」
意識して、引き戻そうとする。
その瞬間——
「っ……!」
ズキン、と頭に痛みが走る。
「うお……っ!」
体が拒否している。
入ってこない。
「それ、拒絶反応ですね」
「さらっと言うな!」
何度やっても弾かれる。
うまくいかない。
「……くそ」
⸻
「一回落ち着いてください」
優奈の声が少しだけ真面目になる。
「それ、“外のもの”として見てるから弾くんです」
「……じゃあどうすればいい」
「“元から自分の中にある”って思ってください」
「いや難易度高くない?」
「感覚です」
「またそれか!」
⸻
深呼吸。
力を抜く。
魔石にある光を見る。
あれは——
自分のものだ。
外にあるだけで。
拒絶する必要なんてない。
そう思って——
ゆっくりと、引き寄せる。
———スゥ…
「……あ」
今度は、弾かれなかった。
自然に、体に戻ってくる。
違和感はある。
でも——
さっきよりずっとマシだ。
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「……できた」
「はい、成功です」
「じゃあ次」
「まだやるのか」
「当たり前です」
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出す。
移す。
戻す。
それを繰り返す。
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途中で崩れる。
集中が切れる。
歩きながらやらされる。
「いやこれ無理だろ!?」
「はい集中切れてます」
「鬼か!?」
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それでも——
少しずつ、できるようになっていく。
「……なんか、分かってきたかも」
「いいですね」
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「じゃあ次は楽なのいきます」
「その言い方信用できない」
優奈がペンダントを軽く触れる。
「これは、補助付きの魔術具です」
「……何が変わるんだ?」
「やればわかります」
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同じように魔力を出す。
——驚くほど、スムーズだった。
「……え?」
「楽でしょう?」
「いや、別ゲーなんだが?」
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移すのも、戻すのも。
ほとんど抵抗がない。
「……なんだこれ」
「これが魔術具の力です」
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訓練が終わる頃には、体の違和感もかなり減っていた。
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「そういえば」
優奈がふと思い出したように言う。
「悪夢の方、どうですか?」
「……減ってるな」
「……」
「時間も短いし、内容もマシになってる」
「なるほど……」
少しだけ考え込む優奈。
(だんだん魔力に慣れてきてるからかな……)
⸻
「あ、そうだ」
「なんだよ、嫌な予感しかしない」
「大丈夫です。ご褒美です」
「ご褒美?」
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優奈がカバンを漁る。
「……あった」
「……何それ」
「まあまあ」
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指をパチンと鳴らす。
魔術陣が展開し――
景色が一瞬で変わる。
「うおっ!?」
気づけば廊下に立っていた。
「これが魔術……」
「先輩、この魔石に魔力込めてもらっていいですか?」
「え、いいけど……」
さっきより大きい、赤い魔石。
言われた通り魔力を込める。
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その間に優奈は――
少し離れた場所でしゃがみ込み、
どこからか大きな本を取り出した。
「何やってんだ?」
「ちょっとした準備です」
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本を開き、壁に手を当てる。
すると――
魔術陣が次々と展開されていく。
「……すげえな」
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「終わったぞ」
「あ、早いですね」
「そこの空洞に魔石はめてください」
「ここか?」
カチリ、と嵌める。
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——光。
魔術陣が輝き、
そして。
そこに“扉”が現れた。
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「……なんかできたんだけど」
「開けてみてください」
ゆっくりと開く。
中には——
ベッド、机、家具。
シンプルだが整った部屋。
「……なにこれ?」
「今日から使ってもらう部屋です」
「……は?」
「そういえば、昨日の部屋って誰のだったんだ?」
「うちのですけど?」
沈黙。
「……え」
「客室なかったので」
気まずい。
ものすごく気まずい。
———こうして俺の神書界生活は、少しずつ本格化していくのだった。
Q.熊川先輩が優奈のベットを使っていた時、優奈はどこで寝ていたの?
A.優奈は工房で魔術具作成や調べ物でオールか椅子に座って机に突っ伏す形で寝ていたようです。ちなみに優奈は元からそんな感じで寝ているのでよく「ちゃんと寝なさい」と阿道先輩によく怒られたらしいです。




