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“界”の残響(リフレイン)  作者: 黒っぽい猫
魔術基礎入門

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第5話前半 はじめての魔力操作

 翌朝、俺は目を覚ました。


 ――また、あの夢だ。


 熱い何かに包まれる感覚。


 体の中を、異物が流れているような違和感。


 だが昨日よりはマシだ。


「……ん……」


 体を起こすと、少しだけ頭が重い。


 けど動けないほどじゃない。


「あ、起きました?おはようございます」

「おはよ、優奈」


 いつも通りの声。


 それだけで妙に安心する。


「……ちょいと失礼」

「え?」


 優奈はそう言って、額に手を当ててきた。


 ひんやりした感触。


 そのまま首筋、そして___


「ちょ、何してんの」

「ちょっとした健康チェックですよ」


 下まぶたを軽く引っ張られる。


 完全に医者だこれ。


「ふむ…熱は若干高いですが平熱の範囲内。高熱の影響で軽い脱水、それから貧血気味ですね」

「細かっ」

「脈も少し早いですが問題なしです」

「……優奈って医者かなんか?」

「魔力関係の体調は私が担当なので、あながち間違いではないですね」

「冗談だったのに……」

「天界や魔界では病気を判別する魔術や治療魔術などの医療魔術と多少の知識があれば誰でも医師免許は持てますよ」

「へぇー」

「ちなみにユナも持ってますよ」

「サラッと言うな」

「ところで、他に体調の変化は?」

「……悪夢、くらいかな」

「ふーむ……」


 少しだけ真面目な顔になる。


「もしかしたら無理やり魔力を注がれた影響かもしれませんね」

「……やっぱそれ関係か」

「でも、ちょっと気になりますね」


 そう言いながらも、すぐにいつもの調子に戻る。


「とりあえず着替えと水は用意してありますので、それ使ってください」

「……用意周到すぎない?」

「聖堂で待ってますね」

「……聖堂?」

「地図もあります」

「いや完璧すぎて怖いんだけど」


 優奈が出ていった後、部屋に一人残される。


「……てかこれ、俺の服だよな?」


 見覚えのある服。


 なんでここにあるんだよ。


(あいつ、昔からこういうとこあるよな……)


 必要なものが、考える前に用意されている。


 そういうやつだった。


 着替えを済ませ、部屋を出る。


 地図を頼りに廊下を進み___


 大きな扉の前にたどり着いた。


「……でか」


 扉を開く。


 ____思わず息を呑んだ。


「うぉ……」


 そこは、巨大な聖堂だった。


 高い天井。


 差し込む光。


 色とりどりのステンドグラス。


 そして____


 正面にある、巨大な十字架。


 圧倒される空間だ。


「こっちですよ、先輩」

「うおっ!?」


 いつの間にか後ろにいた。


「近くない!?」

「お腹減ってます?」

「……減ってるけど…」

「朝ごはんありますけど、食べます?」

「いただこうかな」

「よかったです」


────────────────────


「………サンドイッチ?」

「はい」


 一口食べる。


「……え、うま」

「普通のですよ?」

「いや、めちゃくちゃ美味いんだけど」

「おばあちゃんに教わったやつです」

「ああ、料理上手なんだっけ?」

「そうです」


 なるほど、納得だ。


「……ところでさ」

「なんでしょう?」

「なんで俺の服あるの?」

「ああ、弟くんに頼みました」

「は?」

「弟くんに『お兄ちゃん、起きたから着替えとか持ってきて欲しい』ってお願いしたら持ってきてくれました」

「……優秀すぎるだろ」

「でしょ?」


 ドヤ顔。


 なんか悔しい。


「食べ終わったら魔力練習ですからね」

「……何するんだ?」

「それはお楽しみです」

「不安しかない」


────────────────────


「まず魔術っていうのはですね」


 優奈は指を三本立てる。


「“出す・動かす・形にする”の3つが基本です」

「……シンプルだな」

「シンプルです。でもこれが一番難しいです」

「嫌な予感しかしない」

「まずは“出す”からいきましょう」


 優奈は小さな透明の石を取り出した。


「それは?」

「空の魔石です。これに先輩の魔力を一度移します」

「……できる気しないんだけど」

「大丈夫です。こっちで補助するので」


 優奈が魔石を俺の手に乗せる。


「じゃあいきますよ」


 次の瞬間___


「っ!?」


 体の中から何かが引き出される感覚。


 血とは違う、もっと重くて熱い何か。


「な、なんだこれ……!」

「それが魔力です」


 魔石が淡く光る。


「……今のが、流れです。覚えてください」

「いや無理だろこれ」

「んー、感覚ですよ感覚」

「雑!!」

「じゃあ次、自分でやってみましょう」

「いや今の絶対無理だろ」

「できますって」


 軽い。


 この子軽すぎる。


 手に意識を集中する。


 さっきの感覚を思い出す。


 体の奥___


 違和感の正体。


「……これ、か……?」


 じわっと熱が集まる。


 でも___


「っ!」


 バチッ、と何かが弾けた。


「いてっ!」

「力みすぎですね」

「今の俺悪くなくない!?」

「文句は受け付けません」


 即答。


 何度も試す。


 集めて、失敗。


 出そうとして、暴発。


 うまくいかない。


「はぁ……はぁ……」

「いい感じですよ」

「どこが!?」

「ほら、もう一回やってみてください」

「鬼か」


 深呼吸。


 力を抜く。


 “流す”感じ。


 さっきの言葉を思い出す。


 体の中の流れを―


 そのまま、外へ。


「……っ」


 じわり、と手のひらが温かくなる。


 逃がさないように。


 押し出す。


 ゆっくり――


 魔石へ。


 ――ふわっ


 石が、淡く光った。


「……え?」

「はい成功です」

「……マジ?」

「マジです」


 しばらくその光を見つめる。


「……これ、俺がやったのか」

「そうですよ」


 現実感がない。


 でも確かに___


 “できた”


「……難しいね、魔力操作」

「ちなみに今日やったのは、子供達がやる訓練です」

「まじか」

「まじです」

「初心者どころじゃねえな」

「明日からも続けますからね」

「……はい」


 逃げられないやつだこれ。


 でも___


 少しだけ思った。


 この力。


 ちゃんと扱えたら_____


 何かが変わるかもしれない。


「……頑張ります」

「その調子で明日も頑張りましょう」

「やっぱり怖くなってきた」

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