背中。
浴場の入口でルイに呼び止められる。
「ハルちゃん、そっち男の人用だよ?」
長年染み付いた行動はなかなか消せない。
「そ、そうだった。女湯だもんな……」
入った事もないし……みんなタオルで隠すのかな?
……分からん。
とりあえず行くしかないか……
女に生まれ変わった訳だが心は男のままである。
何かいけない事をしているみたいだ。
「昔の人はお湯に入って体を温めてたんだって、なんか変な感じだね。」
ついこの前までそれが当り前だった。
不思議なもんだな。
なるほど、タオルを垂らして胸と股を隠すのか。
これならいけそうだ。
隠す程の物も無いが……
「ハルちゃん色白いね、いいなぁ。」
「そう?ルイも綺麗だよ。大体俺なんかぺったんこだし。」
「ふふっ、可愛いと思うよ。」
「なんか敗北感を感じる……」
浴場に入ると見慣れた景色がそこにあった。
湯船。そう、湯船がある。
「この中に入るのかなぁ?なんだか熱そう。」
「先に体を洗うんじゃないかな?ほらこっちで。」
「えっ?これ手で洗うの?わー原始的……」
原始的……なんだか悲しくなってくる。
「昔の人は大変だね。背中どうやって洗うんだろう?」
タオルもスポンジもない。
仕方ない……
「ほら、俺が洗うよ。前向いてて。」
手で背中を洗う。
……綺麗な背中だな。
「ふふっ、なんだかくすぐったい。ほら、今度はハルちゃんの番だよ。」
ルイに背中を洗ってもらう。
確かにくすぐったい。
「ハルちゃん、背中小さいんだね。いつも立ち向かってる姿はとっても大きく見えるのに……不思議。」
「……頼りなく見える?」
「ううん、いつも頼ってばかりだから……重荷になってないかなって心配になっちゃって。」
「大丈夫だよ、このハルちゃんにお任せ──」
言い終わる前にルイが後ろから抱きついてきた。
「ル、ルイ?」
「……どこにもいかないでね。」
言葉が出なかった。
どうしてそんな事を聞いてくるのか。
なんて言えば良かったのか。
「……ルイ、その、周りの人の目が……」
クラスの子達が白い目で、あるいはその逆で俺達を見ていた。
「ごっ、ごめんね……」
「いや全然……風呂、入ろっか。」
背中の温もりと感触がまだ残っている。
胸が締め付けられる。
「ふー、温かいね。なんかいい気持ち。」
「そうだな、いい湯だ。」
普通の暮らし、普通の女の子。
全てが片付いたらそんな生活が出来るのだろうか。
あるいは……
「……大丈夫?その、難しい顔してるから……」
「えっ?あぁごめんごめん、大丈夫。」
何も言わず湯船の中でルイが手を繋いできた。
あれっ……そういえば手袋をしてないのに力が暴れないな。
なんでだろう。
……まぁ、いいや。
「なんか落ち着くな、こうしてると。」
「ね、私も思ってた。」
二人の間で笑みが溢れる。
「のぼせる前にそろそろ出るか。」
……
……
部屋は二人で一部屋。
学生相手ならこれで十分だろう、といった感じだ。
「さっぱりしたなー。」
「ちょっと面倒だったけど楽しかったね。」
「……ゲスとマクシルは何してるのかな。」
コンコン
部屋のドアを叩く音がした。
「誰だろう、俺見てくるよ……はいはーい。」
「ハル見つけた。」
「おっマクシル。なんだ同じ所にいたのか。ちょうどマクシルどうしてるかなって思ってたんだ。」
「ハルいい匂いする。」
「お風呂入ったからかな?マクシル入った?」
「無理。部屋でボタン一つ。」
あぁ、洗体機が部屋に付いてたのね。
「せっかくだから飯食ったら一緒に入るか?」
「入る。ハル、今日は力が弱い。なんで?」
「あぁやっぱりそうか。サクラも出てこないしなんでだろうな?」
その時俺の手袋に亀裂が入った。
「ん?なんだコレ……」
『あーもう限界です!ごめんなさいハル様!』
「サクラ、今までどうしてたんだ?」
『ハル様時間がありません早く場所を──』
その瞬間建物全体が揺れ近くで爆発音が聞こえた。
「な、なんだ?何が起きた?」
『説明は後です。ルイ様、ハル様の鞄からターバンを。ハル様、ベルトはしてますか?』
「あぁ、してるけど……」
2回目の爆発音。
音が近づいている。
「はい、これでいいのかな?」
『ハル様、それを着けて上空にでもテレポートして下さい。』
「……なんだか分かんないけどやるぞ?」
刹那、建物が揺れ停電が起き窓が割れる。
風の流れと共に窓際に人影が。
「なっ……お前は……メールクリオルス……」
【目標発見。再度捕獲します。】
「チッ、これでどうだ!」
奴の周辺だけ圧力をかけ動けなくさせる。
さらに防壁で奴を囲む。
奴の力を抑え込むだけ圧力をかけると建物が崩れ始めた。
「マクシル!ルイの事頼むぞ!俺が出来るだけ奴を離す。それまで離れて防壁でもなんでも張っといてくれ!」
「分かった。ハル、気をつけて。」
「ハルちゃん!」
ルイが泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「……大丈夫、お前達は俺が必ず守るから。いくぞ、サクラ!」
『よっしゃー、ボッコボコにしてやんよ!』




