殺生。
嗅いだことのない程の血の匂い。
多くの死体も見たくない。
それでもこれがこの世界、現実だ。
「な……何故防げる?」
目の前の暴漢が驚いている。
「こんなもん屁でもない。もう終わりか?」
「チクショウ、こんな奴聞いてないぞ!」
「じゃあ今度はこっちの番だな。」
そう言い終わると同時に暴漢の腹めがけてパンチした。
暴漢の腹を拳が突き抜ける。
嫌な感触だ……
暴漢はそのまま項垂れてやがてピクリともしなくなった。
「……気分が悪いな。」
『ハル様……』
「会長、大丈夫か?」
「……」
どうやら気を失っているようだ。
「困ったな……サクラ、この中に生存者は?」
『先程生体スキャンをしましたが、反応はありません。』
「そうか……とりあえず帰るか。」
……
……
……
「うっ……あれ、私は……」
「お、会長が起きたっすよ!」
「ここは……」
「うちらの部室っすよ。ハルさんが連れてきたんす。ハルさん、怖い顔してたんすけど何があったんすか?」
「あの人はっ?どこにいるの!?」
「ちょっと一人にさせてくれって出てったっす。会長はもう少しゆっくりして下さいっす。」
「そうか……やっぱりあれは夢じゃなかったのね……でも私だけ……生き残ってしまった……」
「一体何があったんですか?ハルちゃんも会長さんも……その、血塗れですし……」
「……アナタ達には関係ない話よ。」
「そんな言い方ないっす、教えて下さいっす。」
「一般人には関係ないでしょ!」
「な……自分文明人っすよ!」
「だから何なの!あなた達さえいなければ……」
「何言ってんすか……?」
「……なんでもないわ、じゃあね。」
バタン
「……なんなんすかね、アイツ。」
「彼女の心の中にたくさんの死体が見えた。」
「そうか、マクシルは心が読めるんすね!って死体!?」
「絶望と光、両方あった。死体が絶望、ハルが光。」
「わけわかんねーっす……」
……
……
……
『ハル様、こんな山奥ではお身体が冷えますよ?』
「……」
『ハル様……』
「……俺さ、あの男がやった事が許せなかったんだ。あれだけ多くの人を殺してさ。つい本気で殴っちゃって……人ってあんなに簡単に死ぬんだな。」
『ハル様……』
「覚悟してたんだ、いつかはこういう事が起きるって。でも俺は……俺……」
『……申し訳ありません、ハル様……』
「なんでサクラが謝るんだよ。」
『ハル様を選んだのは私なんです。私がハル様をこの世界に連れてきたんです。』
「えっ?」
『ヒロ様の研究により私だけ平行世界に飛ばす事が20年程前から可能でした。ヒロ様からはプロトタイプに相応しい魂を見つけてくるようにと。屈強な者、頭の切れる者、無差別に人を殺せる者、様々な人を見て探していました。』
「そうだったのか……もっと強い奴を選べば良かったのに。」
『……ある日見かけた小さな男の子は大泣きをしていたんです。何故かと思い見てみると、彼の手の中で小鳥が死んでいました。気になってその後も観察してみました。彼は自分の血を吸う虫を殺さずに逃したり、水たまりに浮かんでいる虫を助けたり……捨てられている動物は必ず連れてきたり。辛いニュースを見ては自然と涙が流れる、そんな男の子でした。』
「……」
『彼は他の人間と決定的に違う所が1つありました。彼はどんな生物に対しても、どんな命であろうと平等に見ている事。そんな彼に私は見惚れて……私はその日から彼を追い続けています。』
「サクラ……」
『力があるわけでもなく、頭が切れるわけでもない。殺生など以ての外。ただ誰かの為に涙を流せる優しい人。今だってそう、あの暴漢の事を考え悲しんでいる。』
「……」
『人工知能の私が何を言うかと思われてしまいますが……これは私の我儘です。ただアナタに会いたかった。アナタと共に過ごしたかっただけなんです。ごめんなさい。』
「……ありがとう。サクラの思い、ちゃんと受け取ったよ。」
『ハル様……』
大丈夫、出来る。
やるしか無い、俺がやる。
出来る、出来る、出来る。
俺は一人じゃない。
「……俺は春、お前は桜。俺がいる所には必ずお前がいるんだ。二人で一つだから……この先どうなろうと俺がくたばるまで見届けてくれ。」
『ハル様……もはやプロポーズですね……』
「何言ってんだ、全く。」
『うふふー♪』
「……サクラ、俺やるよ。どう転ぶか分かんないけど……俺を選んでくれたサクラの為にも。」
『ダーリン……』
「誰がダーリンだ。」
大丈夫、二人でなら出来る。
「よし、いつものハルちゃんに戻ったぞ。とりあえず行くか。」
シュンッ
……
……
「ハルちゃん大丈夫かな……」
シュンッ
「あれ、会長は?」
「ハルちゃん!」
「ハルさん、気になってたんすけどその血って……」
「ん?」
やべー、返り血そのまんまだった。
……でもコイツらに嘘はつけないよな。
「あのさ、俺──」
「すげー量っすね、生理っすか?」
「……ん?」
「やっぱハルさんクラスだと量が凄いっす。ね、ルイさん。」
「う、うん……そういうデリケートな話は……」
「いや俺は──」
「ハル、生理。これでいい。この話お終い。早く着替えて。」
そう言われて見てみると可愛らしい服が机の上に置いてあった。
「私の服なんだけど今日はそれでいいかな?」
ルイの服……
取りあえずその場で服を脱ぎ始める。
「うひょー、ハルさんの生着替え堪んないっす!」
「ゲス君、それ以上見たら許さないよ?」
「ルイさん顔が笑ってないっす、怖いっす……」
「ゲス、嫌い。」
「くー、男は辛いっす。」
「ん、どう?ちょっと女っぽすぎない?」
「めっちゃ可愛いっすよ!素が良いから完璧っす!」
「うん、凄く可愛い。羨ましいな……」
なんか恥ずかしい……
今まで私服はズボンにシャツだったからな。
「ハルさんコーヒーでいいっすか?」
「えっ?あぁ……」
……みんな俺に気を使ってくれてるんだな。
恵まれてるな、俺は。
「みんな、ありがとう。」
……
……
「じゃあ今日はこれで解散っすね。」
「また明日な。」
「ハル、バイバイ。」
「自分にはないっすか?」
「無い。」
「ガーンっす……」
「?どうした、ルイ。」
「あのね、もし良かったらなんだけど……」
「?」
「ううん、なんでもない!また明日ね。」
「おう、バイバイ。」
……
……
テレポートで部屋に戻って一息ついていた所だった。
俺の端末に中身のないメッセージが入ってきた。
「なんだろう……ルイから?……。」
シュンッ
「ハルちゃん……」
「どうした?」
寮の前でルイが待っていた。
「あのね、もし良かったらなんだけど、今日私の部屋に泊まってくとか……ダメかな?」
「ルイ……勿論、俺なんか上がっていいの?」
「その、何にもないけどね。」
「お泊りかー、楽しみだな。」
『ハル様、夜ふかしは女性の敵ですよ!』
「はいはい。」




