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機械じかけの私とお父さん  作者: ブラックサレナ
姉妹1 宗教好き
35/40

セカンドコンタクト


 大騒ぎなど無かった。

 もはや慣れ親しんだような与太話。

 そのニュースを、世界の人々は好奇心と、そして疑いを持って迎えた。


 国際宇宙ステーション、その艦外で、謎の宇宙人が壁をノックしていた。

 そして、飛行士の宇宙服には、掴まれた時の指紋がべっとりと付いていて。

 それから……


 そんな情報が、世界に流れた。

 だがしばらくして、人は忘れていった。


 国際的なテロ。そして紛争。

 人種間の問題も、いまだ世界で止むような事は無い。

 人はその文明も利器を進化させ、世界中の人々がインターネットで繋がり、そして争う。

 あらゆる情報が行き交い、そして消えていく世界。


 古い、まだ発展途上だった世界の夢は。

 世界が繋がり、その情報を共有する世界になった現在では、もや古臭い古典でしかなく。


 [宇宙人]という存在は、もはやオカルトの部類へと追いやられ、様々な否定理論や、現実の宇宙開発の目に見える成果の無さから、もはやマトモに議論される問題ではない。


 それは凄いね。居たら良いね。


 それだけ言って、みなが全てを忘れ、そして新しい話題に現を抜かす。

 そして、それが世の正常なのである。そうして、現実の世界は流れて行く。

 それが世界の正常の姿。夢ならば、見たい奴が見れば良い。


 そう……彼女も思っていたのだが。




 彼女は見る。 彼女には名はある。

 しかしそれはあまり重要ではない。故に彼女の国籍だけ告げる。

 彼女はアメリカと呼ばれる国家の女性。世界最強の国に居る女性である。

 

 年齢は45。夫と息子が二人居る、一般の女性。

 だが、彼女は繋がれていた。

 

 何に?


 それは手術台に似た、何かの台。そこに、彼女は繋がれている。

 手足の自由は利かない。声を出す事も出来ない。

 そもそも、体が動かないのだ。


 ならば、手術台で縛られる理由もないだろうが、彼女はそれを思う余裕は無い。、

 なぜなら、縛られているから。声を出す事も出来ないから。

 そもそも、体が動かないからだ。

 彼女は、唯一見る事が出来る、天井を眺める。


 そこには、小さい豆電球が、一つぽつんと明かりを灯しているだけ。

 小さく揺らめくその光が、彼女の不安をより大きな物へと変えて行く。


 彼女の精神に何ら異常は無い。だが、異常が無い故に揺らいでいる。

 様々なシナリオを頭に過ぎらせる彼女。


 マフィアの襲撃か。

 それとも子供のいたずか…

 それとも……身代金目的の誘拐か…


 真ん中に、一番そうあって欲しい安置を置いて、彼女は考える。

 最後に、これは夢なのではと考えたが。

 夢とは、こんなはっきりしているものではない。

 もっと曖昧なものだ。


 彼女は、冷静だった。

 だが、冷静であるが故に恐ろしい。

 自分の運命がこれからどうなるのか、彼女は何一つ分からなかったからだ。

 突如、音が響く。重い鉄の扉が、苦しそうな音を出して開く音。


 何が、来る。


 彼女はその呼吸を荒くして、これから起こるであろう事の顛末を祈った。

 突如、彼女を拘束している手術台が動く。


 その手術台は彼女の上半身を徐々に立たせ、病人が見舞人と会うような位置に着くと、止まる。

 その格好は仰向けより楽だったので、彼女はそこで少し安心した。

 そして彼女はその後、声を聞く。

 フォフォフォ、それだけが連続して聞こえて来る声。


 声の感覚は、若い。

 若い、それも女性の声で、その声が聞こえて来る。


 フォフォフォ、声は続いている。


 彼女は声の出所を探す。

 そしてその声の主が、目玉を動かせば見える位置に居るのだと気付いて、それを動かし、それを見る。


 そして一瞬の沈黙、後、彼女は眺める。

 それはセミ、だろうか?

 そして、それは…ソフトビニール、だろうか。


 それは子供のおもちゃに似たような質感で、明らかに偽物なのだろう。

 生気が感じられないその外面から、人の形をした何かが、蟹のハサミのような二本の腕を上下させて、声を出している。


 フォフォフォ、声は続く。


 彼女はそれを見て、どうすれば良いか分からない。

 銃を突き立てられ、脅されている訳ではない。


 だが、それだけに不気味な光景。


 一瞬、友人の悪戯だろうかと頭をよぎったが、こんな悪趣味な事をする友人とは、そもそもそんな関係になっていないだろう。


 彼女は言いたかった。

 何者なのだ、っと。


 しかし、彼女は口が聞けなかった。

 しばらく目の前のセミのような蟹の独断が続く。

 それから、彼女の記憶は途切れた。


 そして、また世間が少し賑わった。

 例の宇宙人騒動から続く、ちょっとした話題。

 勿論、それをまともに信じる者など居ない。

 よくある与太話。

 宇宙人騒動に便乗した中年女性のお小遣い稼ぎ。


 誰もが、その話題を流した。

 信じる者も居ただろう。

 だがそれは所詮与太話。

 少し賑わって、少し終わる。


 だが、遠く日本と呼ばれる国の人々は、それを大いに訝しんだ。

 なぜなら、彼女が宇宙人の姿だと写した、それの似顔絵は。

 あまりにも精巧な形で、国内の某特撮の怪獣、そっくりであったからだ。


 だから、その事実を知った者達は、より彼女を罵った。

 彼女を嘘つきだと。そして笑うのだ。

 そして流れて行く。


 だが、それはそれを許さなかった。


 フォフォフォ


 本日30人目の彼女が、初代彼女と同じ地で、初代彼女と同じような処遇で、同じ待遇を受ける。

 そして、それを受けた者は次々とペンを取り、書くのだ。


 それを。


 そして、それは100人に届く一歩手前くらいで、ぴたりと止んだ。


 それから、世界は少しこの事に注目するようになる。


 


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