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機械じかけの私とお父さん  作者: ブラックサレナ
姉妹1 宗教好き
33/40

地球最後の日

「あ、長女さん。こんばんわ!」


「ああ香住さん、今日もよろしく」


「はい!あ、それと例のゲーム、反響凄いですね!」


 仕事場についてすぐ、彼女がまくし立ててくる。


「タダゲーであのクオリティは凄いって、結構話題になってる感じなんだろうね」


 私はその言葉に続く。とりあえずは、付き合うつもりだ。


「はい!でもあれ私プレイしましたけど、普通に最新のゲームよりグラフィック凄いんじゃないですか!?」


「街の住人の反応も病的なまでにあるし、それと、夜になったら部屋で皆寝るんですよね!」


「株も出来るし物件も買える、洋服コーディネートして、ファッションリーダーにもなれる!その上その事に関してしっかり街の住人が反応して、それも声付きで!」


「ゲーム中で私が作った服が流行って皆それ着てたりとかも細かくて!」


「本当、何でも出来ますよね!」


「それと近世時代の、この国の街並みが凄かった!」


「その時代の資料、パパと一緒に沢山調べたからね」


「近世時代のゲームってあんまり無いから新鮮でした!それで、それで私がその主人公で!」


「あのゲーム、海外でも凄い好評で!私の声も世界デビューな感じで!」


「多言語版も結構出したからね」


「もう個別のキャラスレなんてあるし、画像投稿サイトでも人気上昇してるし!」


「私、あのゲームのお陰で最近すっごく名前覚えられて、仕事も増えたんですよ!」


「作中で歌っていうか、童謡も歌って、歌唱力も評価されて、CDも出さないかって!」


「他のアニメの主役も決まるし!もう私あの作品のお陰で最近!」


「香住さん、仕事、しましょ」


「あっ……」


 私の言葉を聞いて、少し落ちつく彼女。


「へ、へへへ、す、すいません」


「と、とにかくあのゲームのお陰で!私最近順調なんです!」


「しかも、お給料も良かったですからね!事務所に渡す分とは別にお給料くれるんだから助かりました」


「それと自社スタジオもあるなんて凄いですね!事務所もすっごい綺麗でびっくりしました」


「あと食堂も良かったです!白銀さん、料理上手なんですね!私、本当に長女さん達に会えて!」


「香住さん、そろそろ仕事だから、ね」


「あ、あ、は、はい。へへへ」


 営業時間前、彼女が出勤してきた。

 最近の彼女は本業の仕事が順調なのだろう、かなり上機嫌で、今日もその事について私に話している。

 正直少々疎ましいが、自分達が作ったゲームで彼女の人生が上向くなら、自分としても鼻が高い。


「それと、白銀さんって格好良いですよね」


「実は私、もっとオタクっぽい人想像してました」


「身長も高いし、格好良いし、なんであんな人が」


「あんな人が?」


「あ……なんでもありません」


 おそらくネットで検索でもしたのだろう。

 父の事を話してしばらく、私の返しを聞いて彼女が黙った。

 父の外面は確かに素晴らしいけれど、まぁ、ネットでのその素行を知ればあれこれ言いたくもなるだろう。

 私も、最近の父はちょっと分からなくなる時がある。


「あ、長女さん」


「うん?なにか?」


「それでゲームの新作、声優さん、誰か考えてるんですか?」


「考えてるけど?」


「わ、私とか……どうです?」


「他にも知り合い紹介してくれたら良いよ?」


「も、勿論です!!」


「ぜ、是非紹介させてください!」


「なら、もっとランク高い人知ってる?」


「え……?」


「うーーん、知ってますけど…」


「○○○さんとか知ってる?あの特徴的な渋い声出せる人」


「あ、はい知ってます。事務所も同じですし」


「ランク報酬の5倍出すから、出演お願いできない?」


「5倍!?、ですか?それなら……」


「どうかな?呼べる?」


「でも、お金とか大丈夫なんですか?あのゲームも結構喋ったし、あの人のランクなら、もっとかかりますよ?」


「その為のこの店だから」


「ええ!そうだったんですか?」


「そうよ、その為のこの店」


「はぁー、そうだったんですね」


「父は、趣味には本気出すタイプなのよ」


「結構厳格そうで、静かな方でしたけど、意外です」


 父の外面は割と物静かだ。

 家では私達に結構喋るけども。


「とにかく、色々紹介してよ」


「はい、分かりました」


「なら長女さん」


「うん?」


「これからも、よろしくお願いしますね」


 彼女が笑顔で、そう宣言した。

 だが私は聞きたい事があったので、それを無視して、彼女に尋ねる。


「貴方は」


「はい?」


「貴方はロボットに雇われて」


「なんか、感じる事はない?」


「は?」


「は?って、どういう事?」


「あ……」


「あ、そういえば長女さんはロボなんでしたね」


「最近、すっかりその設定忘れてました」


「…………………」


 父が言っていた言葉。

 人は慣れる。

 そう、そうなんだろうな。

 人は慣れる。

 この世界でもあちらでも。

 そう、だから。


「アップルンルンルン!!」


「ひゃっはぁああああああああああ!!」


「僕はアップルンだよ!!」


「林檎の世界からやってきた、林檎の妖精なんだ!!」


「林檎の妖精、アップルンだよ!」


「林檎の世界から、この世界を救う為にやってきたんだ!僕は悪いビョウキーンをやっつける為に来たんだ!」


「皆、林檎を食べようね!!」


「林檎は食べれば医者要らず!」


「林檎は美味しいし、健康に良いよ!」


「ひゃっはぁあああああああ!ひやあああああああああ!!おっふうぅううううう!ふぉぉおおおおお!!もるさぁあああああああ!」


「もももももももあっふうううううううう!」


「…………………」


 とある大手の動画投稿サイトに投稿された、林檎の妖精、アップルンの自作動画。

 林檎大名が存在する県庁の前で、謎の林檎の着ぐるみを着た、140センチくらいの手作り感溢れる顔をした何かが、飛んだり跳ねたりしていた。

 しかも動画時間は3時間。

 同じような事を言いながら、様々な動きでダンスを続ける。

 時折市職員から追い出されそうになる映像も流れるが、しばらくしたら戻って来て、同じ動きをする。

 そんな事を、動画内で父は3時間続けていた。


「………………」


 そして私達姉妹はその様子を父に見せられ、全員で眺めていた。


「え、パパ……」


「え、えっと……」


 動画を一通り見終えて、妹達が言葉を詰まらせながらあたふたしている。

 そんな妹達の慟哭を貫いて。


「どうだ、凄いだろう」


 父が言う。笑顔で。


「パパ、これ……えっと」


「パパ、本当に愚かになってしまったの?」


 様々な事を心配するかのような視線で、父を眺める妹達。

 私は父の過去を知っている為、そこまでではないが、そういった面を直接見た訳ではなかった妹達には、かなりショキングな映像だったようで、父の顔をまじまじと眺めながら、その正気を疑う発言を繰り返す。

 しかし父はそれに動じた様子を見せる訳でもなく、あれこれ煙に巻くような発言をして、妹達を黙らせる。


「でも、インパクトがあるだろう」


 様々な言葉が飛び交い、議論され、そして結論がこれである。


「言っただろう?人は慣れるけど、インパクトがある物は記憶には残る」


「俺のネットの悪評が残り続けるように、この馬鹿な行為してるアップリンもまた記憶には残るのさ」


「でも、残っても結局は悪評じゃない……」


 私の言葉。


「それでも、利用出来るものは利用すりゃ良い」


「どうせ、俺が失う物は皆硬いんだ」


「なら、安心だろう?」


「だから、世界でもっとも硬い俺達が、柔らかい連中にその硬さを見せてやれば良い」


「アピールだよ!アピール!それに大丈夫、市庁舎で騒ぐのはもう辞めるさ」


「だから、今度は地方局の報道に勝手に潜り込もう!」


「インタビューとかしてる所を狙えば良い。祭りとかのな」


「目立てば良いんだよ!目立てば!!」


 そうやって笑う父。

 それから父は地方局の報道の邪魔をするようになり、祭りやイベント会場で派手な行動して、注目を浴びるようになった。

 それからは父の思惑通りの展開。

 父は大手のテレビ局での出演を果たし、そこで今まで隠していたアップリンの戦闘用のモードだとされる形態を表わしに、茶の間の度肝を抜いた。

 アップリンの着ぐるみの中で体育座りをしていた父が、モード開放で立ち上がり、例の[銀の騎士]の形態を表ざたにする。

 そう[銀の騎士]だ。

 アッチの世界で全てを征し、あらゆる物を破壊しつくした文字通りの戦闘モード。

 こちらの世界の者達ではない者達の血と涙と怨念が、その鎧には刻まれており、そしてそれはこちらの技術とあちらの魔法技術により、もはや[騎士]を破壊するのはどちらの世界にも出来ないだろう。

 [銀の騎士]として召喚され、その任を全うしていた筈の父だが、だがもはやその任で守るべき筈の[召喚師]の姿も、実は無い。

 父は、もはや全てを達成してしまっている。

あちらの世界の住人は、もはや父に従うだけだ。

 あちらの世界ではソウル練成による魔法で作り出されたゴーレム達が闊歩し、人々を支配している。

 あらゆる生物が父により陵辱、利用され、そう、文字通り悪魔のような所業で、世界を支配している。

 異世界から召喚された勇者は。

 その世界をぶち壊す、立派な悪魔になったのだ。

 あちらの世界はもはや父の実験場。

 あらゆる物を殺し。

 あらゆる物で実験する。

 泣こうが関係ない。

 死を望もうが無意味だ。

 ただその生を利用され、それを拒否する術がない世界。

 あちらの世界はもはや地獄そのものだ。

 父の全ての知的欲求を解消する為の、箱庭にすぎない。

 もし、あちらの世界が本当の世界だったのだとしたならば。

 こちらの穏やかな世界は、所詮はまやかし。

 だが、この世界が私達にとっては紛れも無く現実。

 だから、普段の穏やかな世界が、私達の本来の姿なのだ。

 だが、父がこちらで出したあの鎧は、本来この世界にはあってはならない物。

 人の魂を弄び、そしてそれ以外も弄ぶ。

 もはや、何で汚れたか分からない癖に。

 何も、どこも汚れず、通り過ぎる鎧

 そんな鎧は着て、父は人目にその姿を晒している。


「あれ、パパだよね?」


 父がスタジオの撮影に行って、居ない。

 そんなお昼の居間の空間。

 私達は父が出演しているテレビを見ている。


「うん、あの鎧、見た事ある」


「でも、あまり着てるのは見た事は無いね」


「パパ、あの鎧を着て、何をするつもりなんだろう」


「かっこいいね。パパ、ああいう感じの姿になって、私達の[仲間]になれば良いのに」


 唐突な、妹の言葉。


「パパが、私達の仲間に?」


「そう、だってパパは私達のパパなんだよ?」


「パパは……私達のパパなの、ずっと……」


「だから、下等な人間と同じ仲間なんじゃない」


「だからいつかパパは、そんな人間を辞めて」


「いつか、私達と同じ所に帰って来てくれる」


 一番変わった風な妹が、その心中を吐露する。

 今にして思えば、彼女は父の心理を代弁していたのかも。

 なら、父はあの姿を[本来の自分]にしたいのだろうか。

 父が、私達と同じになる?

 私達と父が、同じ世界を……

 私は、彼女の言葉が聞きたくなった。

 その言葉を聞いて、気持ちよくなりたかったのだ。

 そして、私は彼女に尋ねる。


「なら、貴方はパパが[私達]になって、どうすれば良いと思っているの?」


「それは………」


 彼女が言う。が、彼女がその後の言葉を発する前に。


「今帰ったぞ」


 父が帰って来た。


「あ、パパおかえり!」


 彼女の言葉が聞けなかった。残念がる私。

 だが冷静になれば、父が[そういう]事をするのは、もっと先になるだろう。

 だからこれまでと変わらずに、私達はこの世界で、穏やかな日々を過ごす。

 しかしそれも、いつか壊れるかもしれない。

 でも、いや、それでも良い。

 父と、私達との、この穏やかな生活を私は。


「お父さんな」


「え、何?パパ」


 私だけが居間に残り、父は娘達に囲まれている。

 そんな状況の中、父が何かを言おうとしているようだ。


「お父さんな」


「お父さん」


 お父さん、それ、で?

 私は遠くの空間から、その後の言葉に耳を傾ける。


「お父さん、やっぱり寄り道するの飽きたよ」


 聞こえる、父の言葉。

 飽きた?父は飽きた?

 何に?もしかして、人で居る事に……?

 それなら、父は……?


「お父さん、この世界を滅ぼそうと思う」


 娘達に対して、そう笑って言う父。


「繋がりを保って、何とかそうならないようにと思った」


「だから声優集めてゲームしたり」


「飯屋を始めたりした」


「ゆるキャラなんて始めたり」


「だけど……」


「順序が、悪かったな」


「俺は、やっぱり」


「俺はやっぱり、狂っているんだよ」


「もう、繋がりなんてどうでも良い」


「お前達を作ってしまった」


「繋がりなら、もう、あるもんな」


 父は、何を言っているのだろう。


「だから、もう全部良いかなって」


「世界を滅ぼす」


「この世にある全てを、ソウルへと変える」


「そして、見つけるんだ」


 見つける。それは……?


「見つけるって何を?」


 私は尋ねる。


「神を」


 父が答える。

 あまりにも唐突な、その言葉。


「神?」


「そう、この世に神が居て、宇宙を作ったのなら」


「それを創造した神って奴がいる筈だ」


「よく、宗教家達も言ってただろう?」


「神が、全てを創造したって」


 確かに、そんな事、聞いた事がある。


「だから、見つけるんだよ」


「神様を?」


 妹が尋ねる。その目は、心なしか輝いてる。


「そうだ」


「神を見つけて、どうするの?」


 妹が尋ねる。その妹の目は真剣だ。


「倒す」


 父が答える。即決で。


「なら、その後パパは?」


 妹が尋ねる。その妹は他とは違う、例の妹。その目は、爛々と輝いている。


「神を倒した後、そう俺は」


「世界を無神の世界にしてやるのさ」


「この世に神は居ない」


「俺がそれを証明してやる」


「だから、俺は好き勝手に生きる」


「もし神が居るなら、それを止める筈だしな」


 私が訪ねる。私の目がどうなのかは、自分では分からない。

 だけども尋ねる。


「この世界の、全てを捨てるの?」


「ああ、そうだ」


 父の、何の迷いもないその一言。

 恐れていた事が現実になった。

 そう、あちらの世界を滅ぼしたのなら。

 次は……


「俺は、俺とお前達だけの国を作る」


「そして、それ以外を奴隷として」


「この全宇宙を支配するのさ」


 父は、この世界を滅ぼすと言っている。

 そして、その次も、どうやらあるらしい。


 なら。


 あはは。


 そうか。


 もう、良いんだ………


 実を言えば……


 私も内心では……

 

「パパ」


「なんだ、お姉ちゃん」


「私達は、いつだってパパに着いていくよ」


「だから」


「だから、全部壊しちゃおう」


 私の言った言葉。


 その言葉の20時間後、世界は壊れた。

 大きな、魂の塊となって。

 それは星の形も捨て、宇宙に漂っている。

 私達は。

 それから本当の家族になった。


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