アップルン爆誕
「霊体の料理を食べて、平気かだって?」
「ああ、うん。食べても大丈夫だよ」
「どういう根拠で大丈夫だって?」
「霊体ってのは、元々この世に存在していない訳だ」
「でも、体積自体はなぜかある」
「そしてその体積の殆んどが気体で構成されているんだ」
「まぁ、他の難しい事を省いて言えば」
「それは屁となって、尻から出ていく」
「だから大丈夫」
「幽霊を食べても、屁になるだけだ」
「人体に直ちに影響はない」
「ただ、もし空気飯を素人が自宅で食べるってなったら、色々と不味いかな」
「店の施設には、屁となった霊を吸い込んで、ソウルに再利用する換気装置が設置されているが」
「だが、一般に勿論そんな装置は無い」
「だから、空気飯を自宅で食べたら、その出した屁によって部屋に霊が溢れる事になり」
「……とにかく、直ちに影響は無い」
「だから、安心して料理を売るように」
「大丈夫、食中毒なんて無いさ」
「ただ、ちょっと窓に何か写り込むようになるとか、そんな害があるだけ」
「直ちに影響は無い」
「直ちに」
私が空気飯の事を尋ねた時に、父が言った言葉。
直ちに影響は無い。
そう、直ちに影響は無いのだ。
そして開業から半年を過ぎた頃になっても、健康上の問題は何も起きなかった。
つまり、空気飯の事に関しては甚だ順調。
そして、昨今は声優さんを雇うなどして、ゲーム作りにも積極的に取り組んでいる。
それから声優付きゲームを一本作成して、かなりの好評を得る事に成功した。
だが。
そんな順調な毎日だったある日。
「パパ、ゆるキャラになろうと思う」
「え?」
空気飯屋での仕事を終えて、家族全員が集まる空間の中、父が唐突に言った言葉。
「パパ、ゆるキャラになろうと思う」
「………………」
「パパ、ゆるキャラって何?」
突然の父の発言に驚く私。
しかし、そんな中でもしっかり応答できる方の妹が、父のその言葉の本質を尋ねる。
「声優作ってゲーム作ったし、それも結構ネットでは評判だった」
うん、そうだ。で?
「だから俺はちょっと、ゆるキャラを目指そうと思う」
………うん
「え?なんで?」
妹が尋ねる。
「最近、地方で流行ってるじゃんか」
「……はぁ」
「だから俺もゆるキャラになって、スクリーンデビューをしようと思って」
「………………」
「え?なんで?」
妹が尋ねる。
「昔、地方でそういう広報を見たんだ」
「でもパパ、あそこのゆるキャラ、林檎の大名、林檎大名ってキャラに決まったんじゃ」
「ああそうだな。でも非公式でもう一匹くらい居ても、バチは当たらないと思わないか?」
「………………」
妹が黙る。
「え、でも……なんで急に?」
私の言葉。そうだ、父はなぜ急にゆるキャラをやるなんて言い出したのだろうか。
「だって声優集めてゲームしても、ずっと黙ってるだけだから暇じゃないか」
「う、うん……」
「それに、あそこ女性が多い職場だから、チラチラ見られるしな」
「パパ、かっこいいからね!」
それは私も気になっていた。
父は正気を取り戻しているし、父の外面だけ見れば、そこらの俳優となんらスペックは変わらない。
おまけにその他のオプションも実は良く。
なら……いや今はそんな事はどうでもいい。
「とにかく、どうしてそこでゆるキャラなの?」
それが本題。
「なんとなく」
本題が終わった。
「なんとなく、やってみようかなって」
「………………」
「ほら、最近わりと地方紙見ても、結構色々どこも作ってるじゃないか」
「だから、俺も本家がある家がある所で、ゆるキャラとして活動してみようと思って」
「……なんで?」
「いやなんとなく」
「ゲーム作り、どうするのパパ?」
「シナリオは渡しておく」
「だから、作っておいてくれ」
「空気飯は?」
「勿論続ける。だが、そろそろ妹達を増やすべきだと思うんだ」
「……妹、増やすの?」
妹達の顔が不安げだ。
「ああ、家族は多い方が良いだろう?」
「それって本当に家族?」
「ああ、家族だ」
「だからお前達は今度からお姉ちゃんになる」
「一番大きいお姉ちゃんが長女。お前達が次女。そして次生まれる子が三女達だ。
「10人くらい増やそうと思う」
「……形はどんなの?」
「もうちょっと大きいのを作ろうと思う」
「一番大きいのに、三女なの?」
「経営とか、そういうの特化したシリーズにしようと思って」
「じゃあ私達、旧型になるの?」
「スペック自体は変わらないさ、ただ。経営特化って事で、副腕も使えないし、身体的スペックはお前達より低い」
「じゃあ、スペック的には私達が最強なんだ」
「ああ、そうだ」
「ふふふ、そっかそっか」
「………妹か」
「私はお姉ちゃん……」
妹の一人が不敵に笑う。他の意見は様々。
そして私は。
「あまり沢山作ると、不安に思う人も出るんじゃない?」
そう、最近は海外の方でも父は有名になり、空気飯屋には怪しい外人が写真を取りに来たり、誘拐してきそうになったりしている。
後者に関してはいつのまにか居なくなるが、流石にその数が増えると、違和感が出るかもしれない。
「最近はテレビ出演の依頼も増えて、断るのが大変なのに」
「でも、それも全部断ってきたから、最近はそういうのも無いだろう?」
「それに、人ってのは慣れるもんだ」
「それが問題無いって分かったら、また違う新しい物を見つけて、それで騒ぐのさ」
「その証拠に半年過ぎた今は、お前達も当たり前になった」
「そりゃあ、未だ異常ではあるが、だがそれも溶け込んでしまえば、皆慣れるもんさ」
「鉄道電話、電球だって、結局人は慣れた」
「それに、俺達の国は元々物には魂が宿ると考える国さ」
「なら、ロボットのお前達が意思を持って、その疎通が出来るのであれば」
「慣れるし」
「慣れる」
「同じ事二回言ってるよ」
「ああ、大事な事だからな」
「だから、今度はゆるキャラになるの?」
「ああ、そうだな」
「今度は何を慣れさせたいの?」
「反重力、そして外骨格」
「………はぁ」
「残念ながら、俺の経歴は汚れている」
「それに外骨格はともかく、反重力に関しては、こちらだけの技術では実現できない」
「だから学会に発表なんて出来ないし、仕組みを説明する事も出来ない」
「だから、ゆるキャラ?」
「うん」
父が笑う。
「ゆるキャラになって、自然な形で自分の技術を宣伝するんだよ」
「………はぁ」
「キャラ名も決まった。そうだなあそこは林檎が有名だから」
「アップルンなんてどうだ」
「アップルン?」
「ああ、公式の林檎大名は全部漢字で硬いからな」
「そう、俺は林檎の国からやってきた林檎の妖精アップルンだ」
「妖精なんだ……」
「ああ、戦闘妖精だぞ」
「…………そう」
「とにかく、俺はやるからな」
ははは、父は笑う。
「パパ、計画するのは良いけど、もっと説明してね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、俺の素晴らしい計画を、お前達にもっと詳しく聞かせようじゃないか」
そうして、父の話が始まった。
突拍子の無い父の発言。
でも。
まぁ、それに付き合うのも悪くない。
どうせ私達の存在は父の余生。
ならば。
どこまでも付き合ってあげようと思う。




