空気飯
「いらっしゃいませー!」
「え……子供?」
「いえ、子供ではありません。ロボだから、そういうのは超越してるんです」」
「……え?」
「はい、そういう訳で」
「こちらがメニューになります」
「………………」
「うわっ」
「えっと……」
「何でしょうか?」
「いや、このメニューの紙、分厚いって言うか…」
「書いている物、全部美味しいですよ!食材が全部[空気]ですから、カロリーも無いです!」
「確かに、空気飯って店名だけど……」
「…………………」
「……え?」
「えっと、ここは食べ物屋で良いんですよね?」
「はい、食べ物屋です!」
「出す物は?」
「空気です!」
「………………」
「えっと……」
「ご注文をどうぞ!」
「………………」
「空気は食べられないんじゃ……?
「ここは食べられる空気を出す店です!」
「………………」
「あ、値段は安い、ラーメン一杯五百円か」
「ボリュームもありますよ!」
「からあげは、30個300円?」
「空気だから、量は多いですよ!」
「おまけに、カロリーは無いからヘルシーです!」
「………………」
「ご注文をどうぞ!」
「……えっと、なら」
「からあげと、醤油ラーメンで」
「はい、喜んでーー!」
「はい、出来ました!」
「えっ?」
「まだ、10秒も経ってないけど…」
「って、えっと量が……多いですね」
「空気ですから!採算なんてどうとてもなります!」
「それに、空気を練って作ったそれ風の空気だから、手間もかかりません!」
「えっと、味は……?」
「美味しいですよ!ゆうれ、空気ですけど!」
「…………………」
「……あっ」」
「普通に美味しい……」
「ええ、真心がこもってますよ!」」
「………これ、空気なの?」
「はい、空気です!」
「空気です」
「誓って空気です」
「空気だぞ、かとう、人間!」
「……からあげ、30個は流石に食べられないよ」
「空気だから、食べてもお腹一杯になりませんよ!」
「空気だから、沢山食べても平気です!}
「空気だから!」
「………本当に空気?」
「空気ですよ!」
「…………………」
初めて来た客。
その客は二度と来なかったが、携帯端末で写真を取り、その顛末をSNSに投稿した事で、店の事は多少知られたようだった。
それから私はやって来た保健所の職員に。
「ウチが扱ってるのは空気ですから」
「空気は食品じゃありませんから」
「嘘だと思うなら、商品の成分でも調べてみたら良いと思います」
などと言って追い出し、後日商品を送り、
実体が無い物だという事を証明させたり。
そして警察には。
「怪しい物は何も入っていません」
「これは空気。空気は麻薬ではありません」
「だから、これは合法です」
「合法空気です」
「空気イズ合法です」
「そんなに疑うなら、成分でも調べたら良いと思います」
と言って調べさせ、怪しい物では無い事を証明させたり。
児童相談所などには。
「私達は未成年ではありません」
「ロボットは未成年ではありません」
「彼女達は父の、えっとー父のロボットであり、未成年ではありません」
「その証拠に」
「あはは!ほらほら、首が回るよ!」
「変形も出来るよ!ガシャンガシャン!」
という事でロボットである事を証明させ、
児童虐待では無いと証明させたりした。
その甲斐あってか、最近では結構人も来て、店も中々繁盛している。
「え?これ全部空気って本当?」
「食べても太らないの?」
「どれだけ食べてもお腹が減らないって凄くない?」
「それなら、私はケーキを沢山頼もうかな」
「ビール飲んでも酔わないの?でも、それはそれで、ちょっと寂しいけど」
「俺、糖尿病なんだけど、栄養無いから食べても平気なの?」
「はい空気ですから!大丈夫だよ!」
「君、ロボットって本当?」
等々、様々な質問はされるけども、それを丁寧に返し、店を円滑に運営している。
あれこれ言って来る客もたまに来るけども、脅迫などを繰り返す輩以外は黙ってそれに耐え、問題が起きないように心がけている。
営業時間体は夜の5時から8時まで。
短い営業時間で文句も来る事も多いが、元手もかからないという事もあり、結構な儲けは出ている。
「店長代理」
私のこの店での称号。
そう、私はお姉ちゃんであり、店長代理だ。
「店長代理、今日もお疲れ様です」
「はい、お疲れ様です」
「じゃあ私、別のバイトありますからこれで」
「これからもバイト、なんですか?」
「はい、まぁ人生色々ですよ」
「将来の事もあるし、貯金、もっとあった方が良いかなって、そう思うし……」
「人じゃないからそんな事言われても、知らないけども」
「あはは、そうですか。羨ましい、私もロボットとなりたいです」
「パパに頼んでみようか?」
「あ、結構です……」
「そう」
彼女は店で雇った人間のバイトさん。
後のチェーン展開の事も考えて、人を雇う経験をすべきと採用した、声優事務所に通っている21歳の女性だ。
時給5千円と言う店のドアに貼られた広告に釣られて、ノコノコやってきた警戒心が薄そうな女性。
顔はそこそこ。
父の遺伝子情報を練って作り出された私達と比べて、彼女はそう綺麗ではないが、愛嬌はわりとあるので、ブスでは無いだろう。
「でもここの仕事、助かってますよ」
「3時間ちょっと働いて、5千円だから」
「おかげで、結構バイトも休めます。声優修行も、最近は結構余裕持って出来るんです」
「それでもバイトするの?」
「まぁ、世の中何があるか分からないし、貯金は多い方が良いですしね」
「ふーん」
「あ、店長代理」
「なに?」
「営業時間、もっと増やしません?」
「なんで?」
「だって、もっと営業した方が稼げますよ?」
「ここ、SNSでも人気になって来てるし、行列だってあるじゃないですか」
「でも、3時間以上働いたら、面倒じゃない」
「いや、普通はもっと働いてる人も居ると思うんですけど……」
「私達はパパが3時間だけ働ければ良いって言ってるから、3時間労働なの」
「あーえっと、店長は、優しいんですね」
「うん、パパは優しいわよ」
「えっと、でもですね。もっと営業時間延ばしたら、もっとこの店人気出るっていうか」
「それはパパが決める事だから」
「………………」
「そう、ですか……」
ここで働き始めて3ヶ月。
彼女は隙を見ては店の営業時間を延ばすべきと主張してくる。
父になぜわざわざ長い時間、彼女は働きたがるのかと尋ねたら、高い時給が魅力なのだろうと答えた。
店で調理をする訳でなく、注文をただ取り、それを運ぶだけで5千円は破格だと言う事で、長く働きたいようだ。
ちなみに運ぶ商品に重さは殆んど無い。
それもまた、魅力なようだった。
「ここ繁盛してるから確かに大変だけど、時給良いから、もっと時間欲しいんですよね」
「お金ってそんなに必要?」
私は問う。
「そりゃそうですよ。お金が無ければ何も買えないし、人生もつまらないですしね」
「好きなキャラのグッズも買えません」
「物欲って、人間には大事なんだね」
「ロボットには、大事じゃないですか?」
「うーーん」
お金の重要性。
それはあちらの事もあり、重々承知している事なのだが。
現実のこの世界でもやはり重要なのだと考えると、色々と考えさせられる。
「ロボットには、お金は大事じゃないかもね」
「欲しい物は無いですか?」
「パパだけが居れば良い」
「………………」
「(ファザコンの幼女型ロボって…作った人は絶対変態だなぁ)」
「(でも、これも萌えの一種かな)」
「(可愛い、店長代理さんだ)」
「とにかく、営業時間は増やさない」
「そうですか、残念です」
「でも将来、パパは店のチェーン展開を考えてるから」
「え?」
「そうなったら営業時間が延びるかもしれないし、その時は紹介するわよ」
「本当ですか!絶対ですよ!」
彼女はそう言って笑う。
最近では、彼女とも随分打ち解けてきた。
パパは言っていた。
そろそろ、話してみなさいと。
「ねぇ、バイトさん」
「はい、なんです?でもいい加減香住さんって読んで欲しいです」
「じゃあ香住さん」
「はい!」
「声優の仕事、してみない?」
「え?」
ある種、これを言う機会を探る為に選んだ彼女。
この後の返答次第だが、彼女が乗り気になれば、その後はランクが高い商品を購入する機会も……
「えっと、声優のお仕事って」
「何を、すれば良いんですか?」
どうやら、かかった様だ。
それから私は父から言われた事を語り、彼女を自作ゲームの声優へと誘う。
通常の報酬の3倍を出すという条件で、彼女は私達に雇われた。
ついに声優というユニットを手に入れた。
だが。
だが結局、それでどうなると言うのだろう。
「(まぁ、私が決める事ではないか)」
私はそう思考しながら妹達と共に、自宅へと向かう。
これからどうなるか、なんて分からない。
でも。
こういう平和で、大人しい毎日も。
これはこれで楽しいものだと思う。




