お家は幽霊屋敷
「ここが私達の新しい家?」
妹達が言う。
「ああ、そうだ」
「狭いね」
新居に着いてそうそう、妹達が言う。
「土地が高いからな」
狭い新居。妹達の言葉。
確かに前の住まいよりは圧倒的に小さいものの、これでも父が億の位を出して買った新居である。
都心にしては極めて大きな庭を持つ、洋館風の豪邸。
中古で手に入れた物件だそうだが、内装も綺麗だし、かなり物は良いと思う。
前々の住居に比べたら、月とスッポンくらいの違いがあるだろう。
ちなみにこの家では前に一家心中があり、その後も自殺、殺人などが相次いだ。
所謂いわつきの物件だそうだ。
だから安い。
つまりそういう事らしい。
「ここ、幽霊が出るんだってね」
「沢山人が死んでるだって」
ネットで得た情報。都市伝説。
でもこちらとしては好都合だ。
幽霊の殺し方なら心得ている。
だから問題ない。
むしろ居るなら出てきて欲しい。
幽霊であるならば。
楽しんでもバチは当たらない筈だから。
「丁度、皆の分の部屋がある」
父が言う。
「皆、別々なの?」
妹達の言葉。
「不満か?」
「どうして別々なの?」
「それが良いかなと思って」
「皆、一緒が良いよ」
「そうだよ、一緒が良い」
「どうして分かれる必要があるの?」
「そっちの方が、個性があって良くないか?」
「個性って、そんな必要な物?」
「ふむ………」
考え込む父。
ならばと、妹達は一緒の部屋になった。
「パパも、私達と寝ない?」
「いや、俺はお姉ちゃんと一緒に寝る」
状況が状況であれば、何かを勘違いされるような発言。しかし妹達は慣れている。
「はーい」
妹達はそう素直に呟くと、父に指定された部屋へと向かった。
新築ではないにせよ、見慣れない部屋の匂いが私のセンサーをくすぐる。
ここが、私達の住まいになるのだ。
「パパ、今日はどうする?」
「今日はゆっくりするよ。疲れた」
「なら行動は明日から?」
「そういう事だな」
そう言って、父はリビングのソファーに体を埋める。
高級感のある革のソファーが、父の疲れた体を包んでくれている。
しかし、そんな父にとって憩いの一瞬であったろう空間に[何か]が近づいて来た。
父もそれに気付いたのだろう、一言。
「ああ、この世界にも居るんだ」
そう短く呟くと、先程ホームで使用した背中のアームを取り出し、蝿を叩くかの勢いでそれを掴んで、まじまじと眺める。
捕まえたそれは、父のアームの中でじたばたと暴れていた。
「[霊体]か」
[霊体]それはあちらの世界でも存在する人であった者の名残。
あちらで父が特殊な儀式を受けた事で、私を含め、それを見たり触れたりする事が出来るようになっていた。
その霊体を見る。
それは目は血走り、歯茎は真っ赤で、髪はボサボサ、手入れされている様子は無い。
そして父に掴まれて尚、その戦意は失っていないのか、人らしからぬ奇声を上げ、今にも父の首元に掴みかからん勢いで暴れている。
つまり、それは典型的な正気を失った悪霊そのものだった。
「ここにもこういうのが居るんだな。あっちだけだと思ってた」
父が慣れた手つきで悪霊を撫で回すように眺め、その感想を洩らす。
父のアームで掴まれた悪霊は宙に浮いた状態でその愛撫を受け入れている。
「クラスは、どれくらいかな?」
「そんな概念、こっちには無いだろう」
「そうなのかな」
父は私の言葉を一蹴すると、その悪霊の首を掴み、そのまま引きちぎって成仏させる。
「噂は本当だったのかもな」
「結構な量の[ソウル]が入ってきた。」
「こいつが幽霊屋敷の正体か」
「他にも居るかな?」
「どうだろう?でも見た感じ、直接危害を加える程の力はなさそうだった」
「なら精々取り憑いて、自殺に追い込むくらいだろうな」
「都市伝説の話と一致するね」
「そうだな、でももう退治した。が、まだ居るかもしれないから、後で屋敷を見て回ろうな」
「何かの実験に使ったりしないの?」
「そういうのはアッチでやる」
「はーい」
それから私達は家の中を探索し、残りの悪霊を探した。
すると出るわ出るわ。
風呂場、寝室、地下室その他。
部屋中を隈なく探し、20体以上の霊を駆除する事に成功した。
相場の半分以下の値段。
その値の安さに負けず劣らずの殺人屋敷。
だが、その安値の理由もこうして解消された。
ならばつまり、ここは買った値以上の価値が出る事になるのだ。
「飽きたら転売して、金儲けするか?」
父は全てが終わった後、笑いながら呟いた。
あっちの力の話だが、父の対魔能力はもはや悪霊程度ではどうする事も出来ないくらい強い。
父を倒したいなら、[幽鬼]クラスの奴を100体くらい用意して貰わなければならないだろう。
もっとも、それだけの奴を使役するくらいの実力者がこの世界に居たらの話だが。
「こんな奴が放置されてるって事は、この世界はこいつ等を退治する組織が無いのかも」
「こんな奴ってどんな奴?」
一通り施設を周っていた私の前に妹が現われる。特に特徴の無い妹だ。
「悪いお化けだよ」
父が言う。
「ここ、お化けが居たの?」
「そうだよ、悪いお化けが居た」
「お化けって食べれる?」
「ん?んーそうだな……」
「確かに、お化けが食べれたら便利かな」
「お化けが食べれたら、カロリーも無いし、
良い食材になるかも」
「お化け食材の商品化かー」
父は何かしら考えているようだ。
「……うーーん」
父の悩みは深い。
いったいどんな考え事をしているのだろう。
「そうだな」
父が顔を上げる。そして言った。
「なぁ、俺は声優を雇いたいって意思で、この首都に来た訳だ」
「そうだね」
私が言葉を返す。
「なら、流石に無職のままで、声優さん雇いなんて、警戒されるかもしれないよな」
「なら、何か仕事に付くの?」
それはそれで社会復帰だろうと思う。
だが、父の性格を考えたら……
「今更、人様の下で働けないさ」
「それに、俺には経歴はあれど前科持ちだし、思うような仕事にはもう就けないだろう」
確かに、父は大層な前科持ちである。
「なら、何か経営してみるのが筋だろ」
「パパ、社長さんになるの?シャチョさん?」
妹が問う。これと言って特徴の無い妹が。
「社長さんと言うより、店長さんだがな」
「なら、どんなお店経営するの!」
妹が問う。とても嬉しそうに。
「そうだな」
「まぁ、言うならば……」
「お化けご飯のお店、かな」
「お化けご飯?」
「うん、そうだ」
「お化けご飯って、お化けを雇うって事?」
「いや、違う」
「お化けを調理して、出すんだよ」
父が彼女にそう笑って返す。
その答えに対して、彼女は訳が分からなそうに、首を回していた。




