初めての都会
最近、ずっと夢を見る。
少女に召喚されて、違う世界を見る夢。
だがあれはやはり夢では無いのだろう。
父は、あの世界に召喚された悪魔。
それは、何らかの必然で起こされた事。
あれはゲームではない。
あれは現実であろう。
しかしそれも目覚めれば夢。
朝になったら全て無くなる。
あそこで殺した者も。
あそこで救った者も。
目覚めれば全てそこには無いのだ。
異世界の騎士となる夢。
あれはゲームではない。
夢。
なら、いつか醒める日が来るのだろう。
あそこで、交友を持った存在も居る。
こちらの世界を父の言葉から知る者も居る。
だが、それはどうしようもない事。
どんな事を語ろうが。
どんな事象が起きようが。
目覚めて無くなるのなら夢だろう。
ならば、私は父と現実を生きよう。
夢の事は、どうでも良い。
あちらは夢。
ならば、好きに殺し。
好きに生かせば良い。
私はロボット。
そして、父の娘である。
「パパ」
「なんだ、娘達よ」
「首都って人がいっぱい居るね」
「そうだな」
「これが全部人間?」
「そうだな」
「ふーん」
「ロボットは居ないの?」
「お前達のような精巧な奴はまだ存在しない」
「でも私達はここに居るよ?」
「それは俺が作ったからな」
「ならパパって凄いの?」
「うん、そうだな」
「パパって只者じゃない?」
「そうだな、こう見えても昔は権威だった」
「偉いの?」
「雇われの身だったから、偉いかと言われたら、ちょっと微妙かな」
「今は誰にも雇われていない?」
「誰にも雇われてないな」
「じゃあパパは世界で一番偉いんだね!」
「………そうだな」
「ママ、あの子達、声が変」
「は?声が変ってどういう事よ下等生物!」
高速鉄道の駅のホーム。
そこで合成音声ではしゃぐ妹達。
近くの子供が妹達の声に関して疑問を呈す。
それを憎憎しげに睨む妹達。
そそくさとその場から立ち去る親子。
そんな一幕。
あれから、ゲームの声優を雇うという事で、私達は首都に降り立った。
山中のログハウスしか知らない妹達から見れば、初めての都会は心躍る物があるだろう。
私も実は都会には入った事は無い。
私が居たのはいつも住宅街。
そこで父の世話をいつもしていた。
あの頃の私は父の騎士。
いや、悪く言えば召使だった。
だが、今は娘という立場でここに居る。
大勢の妹達に囲まれ、今はこうして首都に降り立って、その一歩を踏み出そうとしている。
「パパ」
私は父に問う。
「なんだ、お姉ちゃん」
最近出来た私の名前。
「それで、これからどうするの?」
「とりあえず、買っておいた物件に向かう」
「新しい私達の家?」
「んん?まぁ、別荘みたいなもんだ」
「元の家、しっかり戸締りした?」
「犬が警備してるから、大丈夫だろう」
「パパ、犬お留守番で、可哀想じゃない」
妹達の言葉。
「まぁ、犬ってのは留守番するもんだ」
「そんなもんかな?」
「そうだ。それ犬の本懐だ」
「たとえその犬が機械であってもな」
「なら良いか」
納得する妹達。
「うん、じゃあ行こうか」
それから父は背中に生やした二本の鉄腕で自分の体を持ち上げ、蜘蛛のように歩き出す。
その瞬間、ざわざわと辺りがざわつく。
「パパ、なんか目立ってるよ?」
「いずれ慣れる。それも都会だ」
「ああ、そう」
父が良いならそれで良い。
私達は父と同じく鉄椀を出し、同じように歩き出す。
と言っても私達は四つんばいで、体も完全に蜘蛛の形へと変化させている。
先程より大きなざわつきで周囲が騒ぎ立てるが、別に悲鳴が上がったり、逃げ惑う人々が居る訳ではなかった。
(なんだつまらない………)
あちらの世界でこれを出した時は、もっと大騒ぎされたものだ。
これをして、敵兵の体を串刺しにし、その死骸をブンブンと振り回すのが楽しかった。
泣き叫び、泣き喚き、あたふたと逃げだす人々の姿を見るのが楽しかった。
子供が泣く姿は良い。
命乞いする母親の嘆く様は圧巻だ。
そして命乞いしてなお、殺される子供達の悲鳴、怒号。
それは聞くのは、本当に面白くて楽しかった。
泣き叫ぶ子供の親の前で、殺した子供の死骸を絞り、その液をかける。
そうすれば叫ぶのだ。
そして笑う。
失禁する。
それからしばらく遊んだ後、その母親も送る。
幸いにも生き残った者は、父の玩具となり、その体を父に差し出す。
そのお陰で、例の召喚師の彼女も喉を取り戻す事が出来た。
しかし、それも所詮は夢だから。
この世界は現実なのだから、勿論そんな事は出来ない。
子供の足をその先から齧り、食らい尽くす。
人とは違う者と交配させ、キメラを作る。
薬剤の実験台として皮膚病を発症させ、苦しみの内に悶えさせる。
そんな事も、この世界では出来ないのだ。
ここでは人は弄れない。
ここでは私は遊べない。
それはとても寂しい事だけど。
ここには人が居るのだ。
ならば、夢で遊ぶ事とは違う。
礼儀はしっかり示さなければならない。
「ねぇ、パパ」
純粋な妹達が父に問う。
「なんか、蜘蛛形態になった途端、人がパシャパシャしたり、ざわざわしてるけど」
「もしかして、蜘蛛で歩く事って悪い事?」
妹達が問う。
どうやら周囲の反応に戸惑っているようだ。
「大丈夫」
父が言う。
「ここは都会だ」
「だから、いずれ皆も慣れる」
父はそれから蜘蛛で歩き出す。
警官らしい者達が近づいて来た。
父がそこで止まる。
「法律では違反されてないですよ?」
父の言葉。
「皆さんの迷惑になります、止めて下さい」
警官の言葉。
父はそれを聞いて、すごすごと体を地面に下ろす。
「世間は蜘蛛で歩く事を許してくれない」
「まだ蜘蛛で歩く時代じゃないんだ」
そう言って、地面に足を立て歩き出す。
「都会は蜘蛛が嫌い」
「都会は蜘蛛に厳しい」
「都会、蜘蛛駄目、絶対」
「都会は蜘蛛の迫害社会」
「愚かな下等生物め、私達を迫害した事、思い知るが良いわ!」
妹達が思い思いの言葉を述べ、その後に続く。
周囲の者達が端末でその様子を抑え、好き勝手言っている。
彼等を殺す手段ならば沢山あるが。
これは現実なのだから。
それは選択する事は出来ないのだ。
それが。
私には少し不満だった。
だけど。
きっとここではそれで良いのだろう。




