父の社会復帰計画
「なぁ、お姉ちゃん」
「なに?パパ」
「異世界って、結局何だと思う?」
「え?」
朝目覚めて、唐突に父の質問。
密室に父と二人。
今日、あの世界から二人で帰って来た。
「俺はこことは違う世界で違う関係を築き」
「しかし、それはここに帰れば何もない」
「確かに、そうかもね」
「俺は、この現実では既に友人も居ない」
「全てを断って、ここに居る」
「そう、だね」
「あそこの俺は、確実に物語を持っている」
「でも、この世界の俺の物語って何だろうな」
「機械の娘達と、ゲームを作る、とか?」
「それも、一つの物語だろうな」
「でも」
「でも?」
「結局描写するなら、あっちの方が楽しんだんだろうな」
「…………………」
「そう、かもね」
「しかし結局あちらの事はこちらでは全て夢として判断される」
「体験させなきゃ、誰も信じない与太話だ」
「うん」
「人ってのは結局、英雄譚が好きだ」
「そうかも」
「それで感情移入の言葉と共に物語に入り込んで、色々と空想に浸る訳だ」
「そう、なんだ…」
「だが」
「この現実での俺の物語に、どんな憧れる英雄譚がある?」
「ちょっと賢いロボットが作れて、ゲーム作ってるだけ」
「…………………
「歳も、取った。俺は中年だよ」
「うん……」
「俺の人生って、つまらないよな」
「…………………」
「アッチは…」
「アッチの世界、楽しい?」
「…………………」
「どう、なんだろうな」
「あっちでは確かに俺は英雄になれるかもしれないが」
「だが所詮」
「インフラも整っていない発展途上国に」
「こっちの製品や知識を披露して」
「粋がってるだけだ」
「こっちで目覚めるとお前一人」
「ドアを開けるとその姉妹」
「そして、パパと呼ばれる」
「それは嫌な事?」
「…………………」
「嫌、じゃないさ」
「だが」
「パパーーーーー!」
「パパ起きてるーー!?」
話を裂くように妹達がドアの前に立つ。
妹達は私達が覚醒する時間を心得ている。
故にこうして時間になると迎えに来るのだ。
「ああ、起きてるよ」
父が言葉を返す。
はっきり言って父は気分が暗くなっていた。
妹達の登場は私達にとって渡りに船だと思う。
「パパ、朝だよ!体操体操!」
「ラジオ体操しよう!」
「夏休みごっこだよ!}
「夏休みごっこか…」
父が短く呟く
「よし、ラジオ体操しよう」
「体操カードは持ったか?」
「うん、持った!」
「なら、外に行こうな」
父が部屋を出て妹達と共に外へ向かう。
今は夏という事でネットで見つけた情報を頼りに、妹達は父にラジオ体操をねだった。
「子供の夏といえばラジオ体操だよ」
どこから仕入れた情報なのか分からないがそういう事らしい。
私としても父が外で運動するのは悪くないと思う。
確かに父はあちらで運動しているが…
いや、あちらの話は止めよう…
「お姉ちゃん」
「あ、はいパパ」
「お姉ちゃんも早く来なさい」
「うん」
父に呼ばれ、私も妹達に続く。
そして体操後、一緒に朝食の席に着く。
「頂きます!」
妹達の元気な声が聞こえて来る。
私達は機械ではあるが、食事を取る事が出来る。がまだ消化器官は存在しない。
その為、食べた食物は全て体内で堆肥に変化させた後、家の隣の菜園の肥料となる。
「これはこれでクリーンで良いかもな」
父はそう言っていた。
「それで皆、ゲームの方はどうだ?」」
食器片付けも済んだ頃、父が私達に問うた。
「ゲーム?プログラムはもう打ったよ」
「パパのシナリオも全部打ち込んだ」
「後はテストプレイして、投稿するだけ」
「なら、パパやって良いか?」
「いいよ!」
「今回のも面白いと思うよ!」
「シナリオは苦手だけど、システムは得意なの!」
父の言葉に嬉しそうに答える妹達。
それから父はPCの前に立ち、ゲームを始める。
あれから父は起床後、妹達が作ったゲームをプレイし、その一喜一憂を私達に晒している。
妹達が作ったゲーム。
もう5作目になるだろうか。
妹達が作ったゲームはそのクオリティからネット上でもすぐさま反響を呼び、現状ではカルトゲームとして定着し今に至る。
カルトゲームという言葉の意味は父の事を意味している。
父はネット上ではマッドサイエンティストまたはカルト親父などと呼ばれている。
それ故だ。
だが現在は高クオリティのフリーゲームを量産する父の事を好意的に見る動きもあり、
父の経歴の事も関した上で、その才覚を認める事も大きい。
カルト親父は趣味を見つけた。
元から頭の良い奴だからこういう事には向いていたのだろう。
新しいゲーム楽しみ。早く投稿して。
など、一時期の父の不評は大分落ち着き、そして父が現住所では特に問題を起こしていない事もあり、現状、父の評は。
フリーゲームの開発者。
それで現在落ち着きつつある。
「な?ゲーム作った方が薄れるだろ?」
その事実を知った父はニカリと笑った。
それから、父と私達のゲーム作りは続いた。
だか昨今の父は目的を忘れ、現実ではゲーム作りに熱中しているように思える。
夢では環境を作る為の策謀を繰り広げ暗躍している父である。
もしかしたら、色々とストレスが溜まっているのかもしれない。
「あっち飽きて来た。正直こっちでゲームやってた方が良いな」
少し前、父がそう呟いた事を覚えている。
「あはは、良いなこのゲーム。流石お前達が作ったゲームは面白いな!」
「あ、パパが褒めてくれた!」
「やった!制作は成功だ!」
「だけど、なぁ:」
ゲームをプレイしていた父の手が止まる。
「でも、今回も声優無しは寂しいな…」
声優、父がまたそれを言う。
「私達の声じゃ駄目なの?」
妹達の言葉。父の言葉は。
「お前達って結局は合成音声だからな」
合成音声。それが父の言葉。
確かに私達の声は父が機械で作り出した合成の音声である。
私達は慣れているが、聞いた者からすれば私達のそれは人工物と看破される。
そういう事らしい。
「声優さんかぁ」
「確かにネットでは声があった方が良いって意見あるけど、でも私達の作品に下等な人間の音声なんて要らないと思うけどなー」
少し違う妹がそれを隠しもせず言い放つ。
だが別に私もそれを止めない。
だってそれはもう普通になってしまったから。
父はその言葉を咎める事なく続ける。
「でもやっぱり俺は声優さんが欲しいなぁ」
「じゃあどこかで安いの探す?」
「うーん。安いのはなんか安そうだな」
「じゃあ高いのを雇う?」
「高いのは…事務所所属だからなー」
「俺は前はあれだし、警戒されるかも」
「前はあれなんて、しなければ良かったのに」
妹の一人が確信を付いたような事を言う。
「あはは、そうだな…」
その言葉に父もバツが悪そうだ。
父に助け舟を出さねば。
そう思い、私は意見を述べてみる事にした。
「なら高い中でも新人で実績を求めている原石を探してみては?」
「ああー」
父は興味を持ったようだ。
「なら報酬は三倍くらいだして釣ってみよう。
それで安心させて高いのも使えるよう信頼を得るんだ。」
「声優を雇うって事はつまり社会と接点を持つって事」
「なら俺の社会復帰も、一つ形が出来上がる事になるな」
「………あはは!」
社会復帰。その言葉を言って、父は笑う。
「お前達も、俺と一緒に社会を認知しよう」
「いつまでもこんな場所で姉妹だけってのもあれだ」
「音響に関する知識を加えてやる」
「ああ、音響スタジオ用の物件も用意しなきゃな」
「首都のどっか空いてる土地を改築して音声スタジオに変えよう」
「あはは、楽しくなってきた!」
「そう、もう社会と接点を持つべきだよな…」
父が静かに笑う。その様子をキョトンと眺める妹達。
私が父に問う。
「なら、引越しするの?」
「いや、俺達が帰る家はここだ」
「でも首都だよ?結構距離ある」
「高速鉄道を使えば良い。そうすれば往復8時間で付く」
「寝る時間になったら、どうするの?」
「………………ああ」
「そうだな、うーん」
「なら、あっちで土地を買うか」
「お金、無くならない?」
「まだ蓄えは沢山あるさ」
「でも使えば無くなるよ?」
「そうなったら………」
「稼ぐ方法を探すさ」
父はそう言って今まで見せた事がないようなとびっきりのニヤケ面の私に見せる。
「ここは、現実だよ?」
「だから、それに適した稼ぎを見つけるんだよ」
父は笑う。
その笑みは、とてもとても嬉しそうだった。
「パパ」
「なんだ?」
「これからも頑張ろうね」
「ああ」
「そうだな」
父は、また嬉しそうに笑った。




