初めての「街」 宿泊
「えーーっと、それで?」
「泊まるの?」
カキカキ 「泊まる」
「………… そう」
カキカキ 「部屋は一部屋」
「ああ、そう…」
カキカキ 「泊めて お願い」
「………………」
「二階部屋 一泊、銅30枚だよ…」
カキカキ 「ありがとう」
グッと手を握って彼に振り返り、喜びの表情で勝利を伝える。
10件近く回ってようやく泊まれそうな宿を発見した。
最初は私の言葉が出ない事や彼が言葉を理解していない事で
宿泊を断られてばかりだったが
彼が紙とペンを取り出した事で状況は少し変わる。
筆談で意見を伝える事で交渉も何とか出来るようになった。
が、それでも断ってくる宿や吹っ掛けて来る宿があったりして四苦八苦だった。
そしてようやく10件目 一泊銅30枚のそこそこの宿を発見した。
銅10枚程度の安宿と違い、宿の作りもしっかりしていて
一階に飯場もある為、情報収集には持って来いだ。
まさに隠れた穴場、掘り出し物だ!
(本当はもう少しグレードが上の所が良かったけど…)
が、道中彼が物乞いなどにあれこれ施しをしてしまい
そのせいで財布の中身が減ってしまった。
この財布には結構入っていて、私も最初は
「彼はなんて優しいんだ」と思って景気良くそれを見ていたが
しかし道中、物乞いに銀貨3枚を施すなどの奇行も目立ち
流石にそれには私も参ってしまった。
銀貨は銅100枚の価値はあるのだ。そうホイホイ他人に施したら困る。
彼にはどうも正常な金銭感覚が無いらしい
それから財布は私が預かる事になり、今に至る。
「食事は夜に一回 あ、食べる時は注文してね 紙に書いて良いからさ」
私は先程のありがとうの札を顔の隣に置いてニカリと笑う。
店主であろう妙齢の女性はそれに呼応し少し笑い
「言葉が分からない大男とそれに付随する姉妹
まぁ、たまにはそんな変な客を預かるのも良いさね」
彼女はそう言って笑う。どうやら結構懐の深そうな女将のようだ。
私は女将に例の紙を見せると、そのまま二階へと上がり部屋を確認する。
そこは木造の落ち着いた良い部屋だった。ベッドは一つ…
(まぁ、三人で寝れば良いか…)
私はもはや生娘ではない。それに彼が望むならそれも望む所だ。
しかし彼は部屋に入ると床に座り、例の寝袋を敷いた。
(一緒でも良いのに…)
そんな事を物理的にも言えず、私は彼の行動を見守る。
彼は非常に大きな背負い鞄を背負っていた。
そこから彼は例の黒いアレ
通称「チョコ」と呼ばれていた物が入っていた箱を取り出すと
中から何やら瓶のような物を取り出した。
その瓶は青色の蓋で栓をされている透明の物で
彼はそれから蓋をポンと取り出すと
中に入っていた玉石が瓶の中にポロリと落ちる。
それからシュワシュワという音が辺りに小さく響き
その音が鳴る水を私に差し出した。
ああ、何か新しい奴だ!!
私はそれを飛びついて受け取り、ゴクゴクと音を立てて飲み込んだ。
「グッ!」」
しかし途端に枯れた筈の喉にシュワシュワとしたジガジガが広がった。
続き口内に広がる甘い甘味料混じった水の味
(びっくりした… でも、これもまた新感覚!)
もしこれが彼が初めて私に出した物なら吐き出してしまったかもしれない。
でも今は彼が出してくれた物には結構慣れた。
その中でも、チョコとプリーは特に美味な品であろうと思う。
甘い物は美味しい。それは世の真理である。
(でもジガジガはちょっと趣味じゃないかな)
そんな事を思いながらそれを飲み干し、備え付けの家具に置く。
中の玉石がカランと響いて、清清しい音を鳴らした。
(でも美味しかった)
彼の方を見る。彼は先程の紙とペンを持っていた。
そしてそれを例の箱の上に置き、トントンとペンで音を鳴らす。
これは… もしかして?
彼は文字を習いたがっている?
そうだ、彼とは話す事は出来ないが、筆談であれば意思疎通出来るかもしれない。
彼とはもうしばらく居るが、どんな考えを持っていて、何者なのか
もし彼が私の言葉を理解出来るのなら、それを知る事が出来るかも…
私はそんな事を期待して、しばらく彼と一緒にあれこれ試行錯誤するのだった。
(キシ、貴方がどういう人物か、しっかり教えてもらうからね)
私はそう心の中で思いながら、彼と夜になるまでそこで過ごした。




