⑯ ダルマ卒業記念日
「オハヨウ オハヨウ」
「ガッ…?」
「オハヨウ オハヨウ」
「………………」
私は目覚めた。今は朝だ。
だが目覚めた瞬間、彼以外に何か居た。
それは女の子だった。私に… とても良く似ている。
「ガッ…グッ」
「コンニチワ コンニチワ」
彼女は何かしら連続した言葉で私に問いかける。
意味は分からない。
「フム ヤハリ キテシマッタカ」
その傍で彼がキョロキョロと辺りを眺めた後、私の方を向く。
それから、彼は跪き…?
「オハヨウゴザイマス ワガアルジ」
何かしら言い放つ。 顔はとても優しそうで楽しげだ。
「ハハハ コトバガ ワカラナイカ」
「アアソウカ カノジョハ ノドモツ ブレテイル」
「ナラ、ナラウコトモ デキナイカ」
「シツネンシタナ」
「ウーーン」
「マァイッカ」
ははは、彼は何かしら言葉を繋げた後、静かに笑った。
昨日の件といい、彼は分からない所がある。
そう、昨日の事… 昨日私達はあの要塞を抜けた。
彼は私に何かの仮面のような物を装着させ
それから、私達はそこを通った。
だが私は彼の従者により目を覆われ、そこに何があるか見せてもらえなかった。
鼻にもなぜか詰め物をされ、付けられた仮面の影響だろうか
息も少し苦しかった。 だが…
(彼は… やったの、かな?)
あの規模の要塞だ。中には多数の兵士が居た筈だ。
だが、彼はそれは突破した。
彼は敵と通じていた? いや、私には分かる。
あの要塞には、もう誰一人としてそこには居なかった。
彼は私の耳を封じなかった。そこで聞こえていた音は…
何かが潰れ弾ける音と、彼の足元から聞こえる、何かを潰す音
(………………まぁ、良いか)
考えるのを、止めよう。 私達は生き残った。今はそれで良い
彼は私を守ってくれている。今はそれだけ十分だ。
「 サァ オヒメサマ 」
「ガッ…?」
彼が私に話しかける。 笑顔で 私は彼の笑顔が好きだ。
もっと笑いかけて欲しい、なんて思う。
「サァ オヒメサマ イツマデモ ソレデハタイクツデショウ」
「イマ コウテツノ クツト ハガネノ テブクロ ヲ
ハカセテ アゲマスカラネ」
彼は私の髪を優しく撫でながら、私に何かをはめた。
それは、作り物の腕と足? でもこんな物を付けられても、私の四肢は…
「ガ… グッ!!」
体の中に何かが注入される感覚と共に訪れた圧迫感
彼に付けられた手足は私の体にガッチリと掴み、それを放さない。
そしてそれから出るジュクジュクと何かを溶かすような音と
体の中の「線」を繋ぐような感覚と共に
徐々に徐々に、懐かしい感覚が甦ってくる。
「ガッ… ゲッ!?」
ああ、そうだ… この感覚は… 私はそれを動かしてみる。
クイクイ あ、これは……
(動いた!! この手、動いたよ!?)
私は驚愕で目を丸くした。 あ、足は… 足はどうだろうか?
私は、立ち上がってみる事にした。ゆっくりと、ゆっくりとそれを行ってみる。
(ああ………)
視界が急に高くなった。 ああ、そうか 私は…
「オメデトウ オメデトウ」
私が立ち上がった瞬間、私に似た彼女が乾いた言葉でパチパチと手を叩く。
「オメデトウ オメデトウ」
(は、ははは……)
言っている意味は分からない。だが、おそらくは祝ってくれているのだろう。
パチパチパチ
「アア セイコウシタカ ヨカッタ ケイケンガ イキタカナ」
それに続いて、彼も私に手を叩く
どうやら彼の文化には他者を祝う時に手を叩いて表現する文化があるようだ。
なら、ば… 私、へへへ… 私も……
私はさっそく甦ったその両の手を使い、彼に
パチパチパチ
(へ、へへへへへへ…)
私は彼にその手拍子を返した。私は笑顔だ。
彼はそれに一瞬キョトンとした顔をしたが、しかし再び優しい顔に戻り
ニ三同じ描写を繰り返した後、私の髪を優しく撫でた。
そして私はそんな彼の手を、新しい自分の手と重ねる。
その手には、しっかりと感覚が備わっていた。
彼は魔導士なのだろうか? いやそれはどうでも良い事だ。
彼のおかげだ。勿論意味は分からない。でも、もうどうでも良い…
「ア、ソウダ 」
彼が言う。分からない。でも聞く。もしかしたら何か分かるかもしれないから
彼は私に腕を伸ばし、その手のひらをかざす
「アナタノ ナマエハ?」
分からない 私の答えは
「ガッ…」
一瞬の沈黙 そして彼は続ける
「アア ソウカ ノドガツブレテルンダッタ」
「アハハ ワスレテイタヨ」
「ソウダナ コレハ ツギデイイカ」
彼は黙って私の髪を撫でた。何となく申し訳なかった。
彼には言葉がある。しかし私にはそれが分からない
そもそも、私には喉が無い。何も言えないのだ。
「グッ………」
私はうな垂れる。そんな私の表情を見て、彼は私の髪をすく
「 キニスルナ キニスルナ 」
彼女が言う。意味は分からない。
「 スズネ 」
(………え?)
彼が言う。唐突に。聞き取れた言葉は、スズネ?
「キミノナダ ワカルマデ ソレガ キミノナ」
彼が言う、そして先程の手のひらの作業を私に向け
「スズネ」
彼が繰り返す。ススネ… もしや、彼が私に名前を付けてくれたのか?
私は人差し指で自分を指しその言葉を繰り返す。事は出来なかった。
「グ… グ… ゲッ?」
かろうじて発音だけ似せた言葉。彼はそれを見てにっこりと笑い、頷いた。
そして今度は自分自身に手をやると「 シロガ……」
シロガ? それが彼の名? そう思った矢先、彼は言葉を中断して言い直す
「ワタシハ キシ ソウ 」
「 キシ 」
「 キ シ 」
「キシ」そう言って笑った。私はつたない言葉で発音だけ真似る。
彼はそれを笑う。それならば…
(彼はキシ……) ようやく判明した彼の名前
(私はスズネ) 彼が付けてくれた名前
自分と彼の名前が揃った。
(私はスズネ 彼はキシ) 判明したお互いの名
私の名は本来は違う名だけど
彼が付けてくれたのだから、これがきっと私の新しい名前
そして彼はキシ 私は守ってくれる… 私の、王子様…
彼が私の手を引く。そして前に進む。私は、その後に続く
私にはそれに続ける足があるのだ。それは彼がくれた物
私は彼はくれたその足で彼と一緒に歩く。
この先には、街があった筈だ。そこに向かって、歩く。
彼と二人で…
「ガシャン ガシャン ワタシハ アルク ゴシュジン
ガシャーン ガシャーーン」
そう言えば彼女が居た。えっと、彼女は何なんだろうか?
っていうか前の「彼」は何処に?
…まぁ、いっか




