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024 歓喜と驚愕

 ミシェルが寝てからしばらくその人形のように整った顔を見ていたんだけど、さすがに飽きてきた。

 一応、目を閉じてみたんだけども眠れない。

 いろいろありすぎて、興奮的なもので眠れないのかとも思ったんだけども、時間が有り余ってたせいで発想が悪い方に転がる。

「ひょっとして、人形だから寝れないとかじゃないよね……」

 何しろ睡眠は生理現象だったはずだ。

 そして私は人形、あるいは幽霊的なクリオネだ。

「たぶんだけど、生物にカテゴリされない?」

 そう思うと背筋が寒い。

 寒いんだけど、当然汗なんてかいていないし、人間時代の感覚を引きずってるだけって感じだ。

「というか、人間時代ってなんだ!」

 ポフポフ。

 一人で突っ込みながら叩いたミシェルに掛けられた布団は、すごく柔らかい。

「じゃ、なく!」

 ガバリと体を起こして、私は肩で荒い息を……って、息出てるんだろうか?

 手を口に当てて、フゥと息を吐きだしてみた。

「何も、感じないね……うん」

 口に当てた手の平に吹き出した息が当たる気配がない。

 私の感覚が鈍いのか、吐き出せてないのかはわからないけど、きっと後者だろう。後者であって欲しい。なんか、鈍いのは嫌だし……。

 私は口に当てていた手をそのままスライドさせて目を覆うと、なんだか、表現しにくいモヤモヤが胸のうちの中にたまっているのが、感じ取れた。

 これはきっと不安とか、状況が理解できないもどかしさとか、とにかくよくない気持ちが積み重なったものだ。そう察した私は、小さな風は起こせなくても、吹き飛ばすことはできるはずと、大きく息を吐きだした。

「ふぅ」

 それだけで、少し湿って暗かった胸の内が晴れていく。

「まあ、悩んでも解決しないしなぁ」

 根っから能天気な私としては、これだけでも十分に気持ちを腫らすことが出来る。

 とはいえ、頑張ってるミシェルに心配かけるのは嫌なので、明るく振る舞えるように気分転換の方法くらいは確立したいところだ。

 というわけで、私は先ずは部屋を把握するために、立ち上がると、軽くベッドを蹴った。

 同時に客間での感覚を思い出して、暖かな流れを纏うと、体が空中に浮いたままで静止した。

「多分、これが魔力……だよね」

 より体の周囲を覆う熱に意識を集中すると、薄っすらと輝いている膜のようなものが見え始める。

 それが私の体を空中に留めている。

 でも、それよりも、私は魔法を使ってるんだ。それが一番嬉しかった。

 ここにはある。日本では憧れでしかなかった力が、確かにある。

「っっっっっっっっっっっ!!」

 寝ているミシェルを起こさないように、全身からあふれて湧き出る歓喜に、私は声を抑えて震えた。

「そ、それに、ま、魔法だって」

 先ほど展開させた魔法陣が脳裏に浮かぶ。

 結果としては予想すらしなかった大事にはなったけど、魔法を使ったのだ。

「って、あれ? この空に浮いてるのは?」

 そう言えばと今の状態を思う。

 空を飛ぶのだって魔法……じゃないな、これは魔力操作だ。

 魔法とは魔法陣を介して発動されるもので、こうして魔力を直接操ることで起こす現象は、魔操、魔力操作ていうんだった。

 私はふと思い出した知識に頷きながら、別途に着地する。

 そうして、ベッド周りを見渡せば、この部屋の隅のテーブルにも立派な装丁の本が置かれているのが目に入った。

「『回復魔法に関する総合理論』ね‥…相変わらず、12歳とは思えない本を読むわ……ね」

 違和感で、一瞬、思考が止まる。

 私は今なんと言った?

 ぼんやりと何かに気付いた私は、直前の言葉を思い出す。

 そう、私は12歳の女の子が読む本じゃないなと思ったんだ。

 でも、なんで?

 疑問のままに記憶を辿れば、ピンと張り詰めるものがあった。

 その感覚に従って、引っ掛かった言葉を繰り返す。

「タイトルが『回復魔法に関する総合理論』なんて、難しい……」

 そうだ。そうだった。

 私は本のタイトルを、読んだんだ。

 私は慌てて魔力を捜査して、本へと向かって飛ぶ。

 着地した私の目に映る本に書かれているのは、さっき読めなかった文字に似ている。なのに……。

「読める」

 川の立派な装丁の拍子に刻まれた金色の文字に触れながら、私は思わずそうつぶやいていた。

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