表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/115

025 推理のお時間

「これは『統一の』こっちは『理論』」

 表紙の文字を指で名乗りながら、はっきりと単語が読みとれているのを確認する。

「だから『総合理論』か……」

 ニュアンスで分かるのとは違う。単語それぞれの意味を理解した上で、熟語に構成している。

「それにしても、何で読めるようになったんだろう?」

 そう思って首を傾げても、予測はまるで立たない。

 なので、そっちの推理はさっさと諦めて、本の中身も確認してみることにした。

 ギシッと、分厚い表紙を持ち上げて開くと、本のそこかしこからミシミシと軋みが音になって漏れてくる。

 破れたり、傷つけたりしないように気を付けながら、最初のページを見る。

「『この書は王国歴708年における回復魔法の研究成果をまとめたものである。願わくば、この研究を継ぐ若人の手によってこの先に新たなページが刻まれることを願う。一級魔術師ルーヴェンス・クロフォード』」

 これ、ルーヴェンスの書いた本か……。

 そういえば、直接渡された時も『是非この先を』って言われてたのを思い出した。同時に『私も書くつもりですがね』とも……。

「そりゃあ、回復魔法で若返ったなんて聞いたら目の色が変わるよね。この本には書かれていない……」

 スラスラと出てくる記憶と、それを自然と受け入れて展開する自分の中の思考に驚いた私は思考を止める。

 ゴクリとならないはずの喉が鳴った。

 そして、私はゆっくりとした動きでミシェルを見た。

 ベッドの上で規則的に胸を上下させている彼女こそ、この記憶の持ち主に違いない。

 何しろ、私はルーヴェンスの本なんて、そもそもこの世界の本なんて読んだこともない。渡された記憶もなければ、言葉を交わしているはずもない。

 それでもルーヴェンスとのやり取りはあったのだろう。

 だとすれば、この記憶には持ち主がいて、それが誰かと想像すれば、答えはそこに至る。

 そう考えると次々とほったらかしにしていた疑問同士が結びついて仮説が組みあがった。

「どうしてかはわからないけど、私はミシェルの記憶を自分の記憶のように読み出せるってことね」

 これは間違いないと思う。

 だから、喋れるし、読めるのだ。

 でも、この部屋に入った時はまるで文字は読めなかったのに、急に読めるようになった理由は推測できない。

「でも、あれ……なんかなかったっけ?」

 何か引っ掛かりを、解決に繋がりそうなきっかけをつかみかけている気がして、慌てて行動を振り返る。

「最初はそう、アレクだ」

 私が……ミシェルに憑りついていた時に最初に目にしたのはアレクで、次にアン、ルーヴェンスと会って、それからオズワルドさんの登場で、ミシェルと私の意識が分離した。

「なんだか、クリオネ時代が懐かしいわ」

 ほんの少ししか時間が経っていないのになんだか懐かしい気がする。

「それにしても衝撃的な体験だったなぁ」

 何しろ魔法を見て喜ぶよりも、ルーヴェンスバリアに閉じ込められて、アレクビームに焼かれかけたからねぇ。思い出すだけでドッと疲れる。

 それから、ミシェルに天使様とか言われた挙句に、のせられて契約しちゃったんだっけねぇ。

 すやすやと可愛い寝顔を見せるミシェルの方が天使だと思う。

「でも、意外と小悪魔?」

 つい疑問が漏れたのは、強烈な笑顔の印象と恐ろしいほどの頭の回転の早さを目の当たりにしたからだろう。

「もはや、12歳っていうのが設定の上だけの話なんじゃないかと思うよね」

 でも、ミシェルに助けて貰ったのは事実だし、私も彼女を守れたらいいと思ったのは本心からだ。

 あれ……契約の影響でとか……ないか、主従契約に洗脳効果は無いから……。

 疑問に、記憶が蘇り、答えを得る。

「やっぱり、これは、疑問や興味を抱くと関連して、記憶を引き出してると思って間違いないね」

 今一度、ミシェルを見る。

 記憶の主はミシェルだとして、どうして私は彼女の記憶を覗けるんだろう。

 クリオネになる前は、ミシェルに入り込んでいたからわからなくはないけど今は違う。

 でも、ミシェルとは『主従契約』が結ばれているのだから、それが関係しているのはたぶん間違いない。

 とはいえ、今回は関連する記憶が浮かんでこなかったことからして、この記憶の読み出しが契約と関係あるかどうかについては、ミシェルも知らないってことだろう。

「ルーヴェンスなら、わかるかしら?」

 そう考えると、自然とルーヴェンスの情報が脳裏に浮かぶ。


 ルーヴェンス・クロフォード。

 この侯爵家で最も優秀な魔術師で、国家認定により一級に叙されている。

 一般に魔法を使うことを職業とするものを魔法士と呼ぶが、魔術師は国家資格であり、その功績などで等級を定められる。一級と言えば魔術師の最高ランクだ。

 更にルーヴェンスは医師と薬師の資格も有し、治癒魔法、回復魔法の研究者にして、第一人者で、私……ミシェルの魔法の家庭教師でもある。そのため、魔法に関する疑問なら、ルーヴェンスに聞くのが一番だが、主従契約の魔法についてはどの程度の知識があるかはわからない。


「だとすると、やっぱり自分で推測するのも必要よね」

 人に教えてもらうのも学びには大事なことだけど、せっかく時間があるのだし、思考を巡らすのはすごく楽しい。

 本当は魔法についていろいろと試してみたいんだけど、アンの件でやらかしたばかりなので、さすがに自重しなければとは思う。なので、今の私にとって、ミシェルの記憶との繋がりを推測して思考して推理するのは、とても興味深い作業であり、魔法への衝動を抑えるには十分なほど手応えのある難題だった。

「ふふふ。眠れないなら眠れないで、色々と考えるのもいいわね。ふふふ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ