天城千尋の場合
気にならない訳がなかった。
彼は昔の俺にそっくりで、彼女はどこか危うい雰囲気の持ち主だったから。
両親が離婚し、どちらも引き取ろうとしなかった俺に唯一手を伸ばしてくれたのは、高校を卒業したばかりの実の姉だった。
せっかく受かった大学を辞め、生活費や俺の学費を稼ぐために働き出した姉は、辛いはずなのに笑っていた。
そんな特殊な経歴や女のような名前をからかわれ、元が短気な俺は高校入学してすぐに不良としてデビューし、毎日喧嘩に明け暮れた。
転機は高2の冬。
屋上で1人授業をサボっていた俺に、当時の担任教師が話しかけてきたのだ。
サボりを注意するでも、俺に怯えるでもなく、ただの普通の生徒に話しかけるように。
彼は俺に、どうせ一度きりの人生なら自分らしく生きろと教え、道を示してくれた。
俺はサボりを止め、喧嘩を止め、勉強を始めた。
俺は、教師になった。
姉は一回り近く歳の離れた男と結婚し、男の連れ子を紹介した。
その隼人という少年が後に生徒になり、俺と同じ道を歩むとは、その時は思いもしなかった。
初めて受け持ったクラスは個性豊かな生徒が多かった。
美形の双子兄妹やストライクゾーンの広い女好き男子。
それに義理の甥や、孤独を進んで選ぶ冷めた女子も。
正直やっていけるかどうか不安だったが、どうにかなるもんだ。
俺が気になったのは、義理の甥と孤独女子。
恩人の先生が俺にしてくれたように、彼らを救いたいと思った。
「――――おーおー、やるじゃねぇの…」
義理の甥の突拍子もない行動に思わず笑う。
アイツはもう大丈夫だろう。
どうなるかはアイツ次第だ。
「先生ー、こっちこっちー」
女好きの時坂が俺を呼ぶ。
奴の周りには相変わらずのように女子がいた。
畜生、羨ましい。
俺なんか暫く女と2人きりで食事すら行ってねぇんだぞ。
「先生グラス出して。
ビール注がさせて頂きます」
「敬語なのかそうじゃねぇのかはっきりしろよ。
…ああ、そんくらいで良い」
「先生知ってる?
悠哉つい最近フラれたんだって」
「藍那何で今言った?
ねぇ何で今言った!?」
「気にすんな時坂、いつかお前にも良い人が現れ…ブフッ」
「笑ってんじゃん!!
慰めるふりして笑い堪えきれてないじゃん!!」
小さな鞄を持ったアイツが立ち上がり、会場から出て行くのが見えた。
めんどくさい絡みの時坂にトイレに行くと誤魔化して、俺も後を追う。
「――――蓮田、もう帰るのか?」
蓮田泉水。
俺の元生徒で通称、氷の女王。
いつも1人で誰かと一緒にいるところを見た事がない、俺が気にかけていた女子。
顔は九十九にも負けねぇくらい綺麗なのに、彼女には同級生など興味がないらしく、話しかけられても冷たい態度か無視を徹底していた。
「はい。
特に私がいる必要もありませんから」
コイツは昔と変わらねぇな、ったく。




