木場隼人の場合
親が離婚して父親とその再婚相手に引き取られるという在り来たりで最低な家庭環境を理由に何にでも苛立っていた中学時代の俺に、担任はあの腹立つ笑顔で図書室への荷物運びを頼んできた。
「お前の人生、案外簡単に変わるかもな」
何か企んでやがる担任に悪態ついてダンボール1箱分の重い本を図書室へ。
ドアを開けて最初に見えたのは、貸出カウンターで本を読んでいた女子。
何が面白いのか、その目と口元は笑ってやがった。
「…あ、木場君…?」
図書室に持っていくように言われた事を伝えるとその女子は、目を輝かせて礼を言い、ダンボールを受け取ろうとした。
「…結構重てぇけど」
「…………」
「…貸せよ。
どこに置けば良いんだ」
「あ、ありがとうございます木場君」
俺が重いと感じるくらいの荷物を、そんな細い腕で持てる訳ねぇだろ。
そう言おうとした時、俺はようやく気付いた。
敬語ではあるものの、コイツは俺に怯えず普通に話している事に。
「(確かクラスで見た事ある奴だな…)」
少し他の奴とは違う、本好きで変わったその女子の名前は上本由奈。
その後俺が図書室に通う理由になり、俺が10年近く恋をしている相手の名。
「――――上本!?」
隣に座っていた上本が、急に倒れた。
烏龍茶とウーロンハイを間違えて酔ったらしい。
揺り起こそうと手を伸ばす時坂を押し退け、上本を抱えた。
「…送ってくる。
そのまま俺も帰るから」
「え、ちょっ、木場!?」
自分と上本の分の参加費を時坂に渡し、唖然とする名前も知らない元クラスメイトとニヤニヤ笑う担任を横目に、俺は会場を後にした。
「……んん……」
上本が起きたのはそれから数分後。
駅へ向かっている最中の事だった。
抱き上げたまま歩くのは可哀想だからと、背中に変わった重みがモゾモゾ動く。
「あれ…私…」
「…ウーロンハイと烏龍茶を間違えて飲んだんだ」
「え、木場君…!?」
混乱してんだろうな。
まあ、無理ねぇか。
「お前家どこ」
「あ、え、この近く、です…」
「歩けそうか」
「はい、大丈夫そうです」
我ながら愛想のねぇ聞き方だと思いながら、上本を下ろした。
「ありがとうございました木場君」
「別に良い。
…今、仕事って忙しいのか」
「仕事ですか?
いえ、今は特に…」
「…なら今日の続き、しないか」
今日は上手く話せなかったから。
「勿論、上本が良ければだけど」
「わ、私は木場君とお話したかったので、是非行きたいです!!
でも、木場君もお仕事忙しいんじゃ…」
「駄目なら俺は誘ったりしない。
俺も、上本と色々話してみたかったから」
上本は、真っ赤になって笑った。
悔しいけど、元担任で義理の叔父が昔言った言葉は、本当になりそうだ。




