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お久しぶりです。ブリの美味しい季節です。
さて、やってきました冒険者ギルド。三日って言っても結構暇だからね。何か依頼をこなそうと思ってきたのだが、うむ。
「混んでますね・・・」
「だね・・・」
滅茶苦茶混んでいた。スクランブル交差点張りに混んでいた。更に怒鳴り声が飛び交っているのだから始末が悪い。
「全く、落ち着きって言葉の意味を知ってるのかね、彼らは」
「あなたが言いますか、あなたが」
「僕は連れてこられただけですー、あのドラゴン達にー」
「うわぁ・・・」
「とまぁ、冗談はさて置き。凄いね、全く。王都ってこんなに人居たっけ?」
「確かに、ちょっと前まではそうでしたけど、ここ最近増えてるんですよ」
「へぇ~、ちなみに理由は?」
「・・・出るんですよ」
と言ったアレックスさんの声は小さな物だった。お化けか?お化けが怖いのか?スケルトンとかゾンビとか、まんまゴーストとかがモンスターとして出てくるのに?
「あ、ゴーストとかじゃないですよ?怪盗ですよ、怪盗」
あ、そうですか。まぁ、人間も怖いものね。
「怪盗かぁ、聞いたことはあるけど、実際に見た事は無いかな」
噂に聞く所によると怪盗は、「曰く、仮面を着けているらしい」「曰く、人の心を盗むらしい」「曰く、金持ち・悪人以外からは盗まないらしい」「曰く、殺しはしないらしい」「曰く、盗みで得た金銭・財宝等は困った人たちにばら撒くらしい」と言う、いかにも義賊と言ったものだ。
「ちょうど一週間前ですかね、その怪盗から予告状が届いたって言う貴族が居ましてね。私達衛兵隊にその事を相談してただけだったら良かったんですけど、冒険者ギルドの方にも依頼を出しちゃってたみたいで・・・しかも結構な額の報酬付きで」
「成程ね・・・しかしその貴族も不用心だね。冒険者を自分の屋敷に入れるなんて」
「そうですよね。・・・よっぽど盗まれたくないものなんでしょうか?」
「それとも何か隠してるのか・・・よし、面白そうだし受けてみようか、その依頼・・・っと、その予告の日っていつ?明後日だったら駄目だよね」
「予告はちょうど今日の晩なんで、大丈夫ですよ。捕まえられれば、ですけど」
「まぁ、捕まえられるかは別として。受けてもいいんだね?」
「はい」
「じゃ、受けてくるから」
「おっと、私も行きますよ」
「・・・逃げはしないんだけどね」
全く、少しぐらいは信頼してほしいな。・・・まぁ、出会って間もないのだから、仕方ない事でもあるか。
アレックスさんを連れて、受付カウンターの前に並ぶ列の一つに加わる。列に並ぶ幾つかはパーティなので、人数の割に回転はそれなりに速い。いつも思うが、カウンターで働くギルド職員の人はかなり優秀だ。ここの様な大きなギルドであればカウンターが幾つかに分かれていて人数や受け持つことが分散されるが、田舎にある小さなギルドでは基本的に一人か二人の受付職員がその全てをこなしているのだ。その優秀さを買われて、国に引き抜かれたりするギルド職員も居るらしい。そんな事を思いながら、自分の番を待っていると、ふいにアレックスさんが口を開いた。
「凄いですね・・・」
「何が?」
「これだけの人数の人が居るのに、きっちりと列に並んでいるなんて・・・しかもよく聞いてみれば、さっきから時々聞こえる怒鳴り声は横入りしようとした者に対するものか、整理する職員のものなんですね。冒険者の方々って皆さんこうなんですか?」
「あぁ、それはこの辺の地域柄と言うかなんというか・・・まぁ、他の所に行けばそうでもないよ」
SAは謎の多いゲームだが、一つ分かっている事も有る。SAと言う巨大なゲームの世界そのものを一つの巨大なサーバで運営しているという事だ。最も、そのサーバがどこにあるのか?と問われれば、不明だ。都市伝説ではサーバ自身が意思を持って移動し続けているだとか、宇宙にある人工衛星の中に組み込まれているだとか言われている。ちなみに僕はあのブラックボックスが怪しいと思っている。
さて、その一つの世界で全世界の人間がプレイしているのだが、プレイしている場所によって初めの街が変わるざっくり言うと、アジアなら東、ヨーロッパは中央アメリカなら西といった具合だ。そして、この辺りは日本人が多く規律と言うか、順番待ちについては結構厳しかったりするのだ。遠くからこの辺りにやって来た人たちは結構この順番待ちの光景を見て驚いていたりする。
「次の方どうぞ」
「はいー。この街の貴族から出されたって言う、怪盗関連の依頼を受けたいんですけど」
「はい。それでしたらこちらの、『エメラルドのの王冠の防衛』になりますね。依頼の方はパーティーで受けられますか?」
「いえ、ソロ・・・で、いいんだよね?アレックスさん」
「そうですね。私は冒険者ではないですし」
「でしたら、同行者登録を行うとよろしいですよ」
冒険者ギルドでの依頼は冒険者しか受けられない様になっている為、僕はソロで依頼を受けようとしたのだが、受付の人が一つの提案を出した。
「なにそれ?」
「パーティーは本来、冒険者同士で組む物ですが、依頼によってはその道の専門家がどうこうする必要があります。しかし、専門家が冒険者であるとは限りません。その為に発案されたシステムで、冒険者ではない者でも簡易的な物ではありますが、一時的に冒険者と同じ恩恵が受けられるという物です」
「恩恵?」
とアレックスさんが聞き返す。
「はい。冒険者に与えられる恩恵は様々ありますが、同行者登録で扱える物は、パーティの登録及びパーティ間での通話、通行税の減税、宿泊施設及び飲食店での割引といった所になります」
「飲食店での割引・・・?それは・・・どこでも?」
あ、食いつくとこそこなんだ。いや、確かに結構いいな、とは思うけど。
「はい。勿論屋台等は除きますが、殆どのレストランで割引がありますよ」
「そうなんですか!します!同行者登録します!」
「畏まりました。・・・ですが、その前に注意点を一つ。同行者登録の期限は依頼達成やキャンセルから一週間までとなっております。それ以上経ちますと自動的に解約されますのであしからず」
「分かりました」
「では、身分証を・・・」
「はい!」
「承りました。登録に少々時間が掛かりますので、そちらでお待ちください」
その後しばらく経ち、脇に避けた所で待っていた僕たちの所に先程の受付の人がお盆を持ってやってきた。そのお盆に乗っているのは、アレックスさんの身分証と何やら黄色い宝石の様な物が付いた細い腕輪だった。
「お待たせいたしました。まずは身分証を返却いたします。そして、こちらの腕輪が同行者の証です。これをしている間は先ほど述べた恩恵が受けられます。もし紛失された時はペナルティとして銀貨五枚を払って頂きます」
「ばっ」
「こちらの腕輪には使用者の身を守る加護が施されています。これもまた、冒険者が受ける恩恵の一つ・・・という事になります」
「・・・分かりました」
銀貨は一枚で大体一万円位の価値があるので、結構な値段の罰金が科せられる事になる。それに見合った能力を持っているのだから仕方ない。
腕輪と身分証を受け取ったアレックスさんはブツブツと小声で罰金、罰金と呟いている。別に失くさなければいいのだから、そこまで気にする必要はないだろうに。
「さて、依頼も受けた事だし、ご飯食べに行こうか」
「ばっきん・・・ご飯?」
「ご飯だよ。割引使えるじゃん。やったね」
「割引!すぐに行きましょう!!」
気分を立て直したのかアレックスさんは勢いよくギルドホールの出口へと向かって行った。放っておくとまた何か言われそうなので、僕も急いで付いて行くことにしよう。




