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『ドラゴン襲来』

その知らせに城の中は騒然としていた。いつも噂話の絶えない城の使用人たちだけでなく、どっかりと執務席に腰を下ろす大臣は指で机を叩き貧乏ゆすりをし、普段は寡黙な騎士も落ち着きがなく、その上官たる隊長ですら慌ただしく動き回っていた。

しかし、彼等たちの一番上に立つ人間が居るであろう部屋からは、音一つ聞こえない。それもそのはず、その部屋の主が不在であるからだ。

城で働く使用人よりも騎士よりも隊長よりも大臣よりも上の立場の人間、城の主、更に言うと王城の主、つまりこの部屋の主はこの城の・・・いや、この国の王である。

王が不在なれどこの国の経済は回っているし、この混乱の中であってもそれなりに秩序正しく物事が動いている。

それは何故か?ここの国は特殊な政治制度をしていて、政治に関する全権を大臣及び議会に任せているからだ。半民主主権とも言える。

皆さんは疑問に思うだろう。なら、王様は要らないのではないか?と。事実そうなのかもしれない、が。この国には古より伝わるある盟約があった。

それは『彼の大地の封印が解かれしとき、盟約は果たされん』という物だった。その盟約とは、おとぎ話にもなった崩壊大戦の際、龍と人類の王たちが交わした物で、その王の血が盟約において重要な役割を果たしていたのだ。

その大地が実際にあるだけに王の血を絶やす事が出来ない、だが愚王によって国が傾くのは良くない。そこで考えられたのが、この政治体系であった。

さて、この城には現在12人の王族が居るが、王と呼ばれる人物はこの中には居ない。王が居ない訳ではない、不在なのだ。

人は彼の王の事を『流浪王』と呼ぶ、民草に紛れて気ままに旅をし、己が国を巡り苦難に喘ぐ民を助けて回っている。どこぞのご老公の様な王なのだ。剣の腕は一級品、お供もつけずに諸国を巡る。そんな王様だ。






「って、こりゃどうしようもないよねこれは」


僕はそう呟いた。僕の目の前には固く閉ざされた門がそびえたっている。クイーンの所に戻るか?・・・それはそれで気まずい、だけど連絡はしなくちゃいけないだろうし・・・。


「はぁ、どうしよう・・・ん?」


門の前にしゃがみ込んで考えていた僕の目に、遥か遠くから猛然と走って来ている二匹の馬が目に入る。あぁ、ドラゴンの大群が通った訳だから、伝令かなんかかな?


「あ、そうだ!ついでに入れて貰おう!」






「すいませーん!!」


と、僕は馬に乗っている人物に声を掛ける。一人は騎士風、もう一人は旅人風の装いだ。


「なんだ?今は先を急いでるんだが?」


と、騎士風の男が答える。馬から降りる事は無かった。よっぽど急いでいるのだろう。


「今、門が閉じられてしまっていて、中に入れないのですが、大切な用があってどうしても中に入らなければいけないです。見た所、貴方は騎士の様なので、貴方から門番の方にお願いして頂けないでしょうか?」

「ふむ・・・用と言うのは?」


お、一応は聞いてくれるみたいだな。ありがたい。


「言伝を預かってるんですが・・・その、クイーン・ドラゴン様より」

「なに!?」


驚愕に目を見開く騎士の男。一方、旅人風の男は何か考えるように顎に手を当てている。そして口を開いた。


「聞こうか」

「え?あ、はい。『古よりの契約が果たされる時が来た』そう、この国の王に伝えろと」

「ふむ、やはりそうか・・・君、ドラゴンの女王にこれを渡してくれないか?」


そう言って、旅人風の男は短剣を僕に手渡してきた。


「はい?別にいいですけど」

「頼んだよ。君は冒険者だね?なら報酬が要るだろうが、生憎今は持ち合わせが無くてね。今度会った時に必ず・・・っていうのは信用できないだろうけど、まぁ、その時はギルドにでも問い合わせてくれ。報酬の不払いは重大な法律違反だからね」


そこまで言われると、逆に不安になってくる。それほどこの短剣は重要なものなのだろうか?


「王には私が直々に伝えておくよ。君は、ドラゴンの女王の元へ向かってくれ」

「へ?は、はい」


言うだけ言って、旅人風の男は門の方へ馬を駆けて行った。慌てて騎士風の男も後に続いた。


「何だったんだあの人?」






「まさか言い伝えが本当になるとはね」


そう男は呟いた。王家に続く言い伝え、『封印が解かれし時、彼の盟約は果たされん』、まさか自分の代で起こるとは。


「しかし・・・」


と後ろに続く関所の長が言う。


「あの者は本当にクイーン・ドラゴンからの言伝を預かっていたのでしょうか?」

「普段ならまぁ、笑い飛ばしているだろうね。そもそも、ドラゴンに女王が居る事すら知らないだろうし、そんなのがドラゴンの女王だとか言ったらまず世迷言だと思うだろう」

「しかし、あの者は確実にクイーン・ドラゴンと言った。と、そういう事ですな?」

「あぁ、更にあの者には加護が掛けられていた。しかも、かなり古いタイプの加護だ。それこそ古代の魔法と言われてもおかしくない位の物だ」

「なるほど。それならば、あの者は本当にドラゴンの女王からの言伝を預かっていた訳ですな」

「あぁ、生憎。王にその言伝は届けられなかった訳だが」

「ふふ、貴方様も人が悪い。貴方こそがこの国の王であらせられるのに」

「何を言っている。あそこではまだ私は一人の旅人さ、もちろん今もね」

「はっはっは、根っからの流浪人ですな。我が国の王は、いい加減席にお戻り下され」

「あぁ、分かっているさ。これから嫌でもずっと席に座らなくてはならないからな」


そう言って、旅人風の男・・・『流浪王』キャスティンデッド・ライアーム7世は笑みを浮かべた。




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