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仕様が変わりましたね。
さて翌日、今日こそはドラゴン退治に向かおうと思い親父の武器屋へ向かった。
ついでにエリッサの様子を窺う、お、ついに長物も打ち始めたのか。いい事だ。
しかし、親父は居なかった。どこに行ったのだろうか?
「こんにちはー。親父は?」
親父の所在をいつも店番をしている弟子に聞く。
「親父は素材の競りに商人ギルドに行ってますよ。何か言伝でも?」
「いや、特に。またドラゴン狩りに行くから素材に期待しといてって位かな。それよりどう?エリッサは」
「まぁいいんじゃないか?何かやりたい事があるみたいだがな、まずは基本だ」
「ふーん、そうですか。分かりました。じゃあ取り敢えず、そこの大物一式下さいな」
「おう。毎度あり」
ドラゴン戦という事もありそれに適した装備を買う。値段は張るが、仕方のない事だ。ショボい物を買って無駄にするよりも、値段が高くとも良い物を買ってドラゴンを倒すのじゃ全然違う。ドラゴンを倒せば元を取れるのだから、確りと準備をして挑む方が良い。
「じゃ、親父によろしく」
「ありがとうございましたー」
ドラゴンドラゴンと言っているが、ドラゴンは一匹ではない。そりゃあもう沢山いる。今まで倒してきた数で言えば四桁じゃ足りないぐらいだ。大小様々、種類豊富なドラゴンが居るが、基本的にこのSAをプレイしている人間がドラゴンと呼んでいるのはほんの数種類のドラゴンだけだ。火山に住むレッドドラゴン、森に住むグリーンドラゴン、海に住むブルードラゴン、天駆けるウイングドラゴン、大地を揺るがすアースドラゴン、機械仕掛けのメタルドラゴン、叡智司るエンシェントドラゴン。どれも他のドラゴン達とは別格の強さを誇り、その現象や物の化身とも言われるほどだ。メタルドラゴンは正確にはドラゴンとは言えないが、それでも隔絶した強さを誇る。中でもエンシェントドラゴンは他のドラゴン達からも畏敬の念を持って扱われていて、時折人間とドラゴンとの衝突の間に現れては諌めて帰って行く。プレイヤーのあいだではもっぱらこの世界を調停するシステムの一部ではないかと言われている。まぁ、あくまでも噂の域を出ないが。
そんな事より、情報収集だ!!
え?今更になって情報収集だって?ノンノン、今だからだよワトソン君!!
道を馬?ロバ?っぽい動物を引いて歩くおじさんに声を掛ける。
「こんにちは、最近何か変わった事ありましたか?」
「ん?あぁ冒険者かい。いやぁ、大変な事になったねぇ、あと三か月で世界が滅ぶかもしれないって?ワシは直接見た訳じゃないんだが、王都の方じゃえらい騒ぎになっとるらしい」
「へぇ、そうですか。王都ねぇ、そうですよね。国どころか、世界が滅ぶかもしれないですもんねぇ」
「その日は、おっかぁと一緒にいるさ」
そう言って、おじさんは笑った。
そう言えばそうだった。僕たちプレーヤーにとってはこのゲームが出来なくなるだけだが、NPCたちにとっては世界滅亡と同じことなんだな。すっかり忘れていた。最近、AIに人権を認めるか否かで世界中で問題になっているが、その問題が出るのも頷けるほどにSAの住人達は感情豊かだ。笑いもすれば泣きもするし、怒る。
「冒険者さんは王都には行くかい?」
「はい?まぁ、多分」
「この手紙を、王都に居るワシのせがれに渡して欲しい。王都で騎士をやっとるんだが」
「ふむ、いいですよ。っと、そうだった。聞きたいことがあったんですよ」
「なんだ?」
「あの山にこれから向かおうとしてるんですがね、何か変わりありましたか?」
そう言って、遠くに見える延々と煙を吐き続けている山を指さす。
「・・・もしやあんたは!!下手な事は言わん。止めといた方が良い。最近あそこの山には馬鹿でっかいドラゴンが住み着いたって噂だ」
ふむ。いつもと変わりない反応だな。ドラゴンは倒しても倒してもどこからともなく飛んで来て所定の場所に居つく。ゲーム的に言うならリスポーンというやつだが、おじさんのセリフはあながち間違っていない。もしかしたら、別の所にドラゴンの巣と言われる様な場所があって、あそこにいるドラゴンが倒されたらその巣から新たに飛んで来るのだ。
「そうですか。ありがとうございました」
「おい!話を聞いてたのか!?」
「えぇ、聞いてましたよ。しっかりと、この耳でね」
「かっこつけている所悪いが違う!!ほら手紙!紙だから!!燃えてしまうわ!!」
「・・・・そうですね」
僕は手紙をポーチの中にしまった。これで安心だ。




