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それから、第二関門も第三関門も突破した僕たちは塔の最上階の部屋、今回の攻略の目的の部屋にたどり着いた。
古そうな本で出来た扉を押し開くと、そこには一人の人間と一冊の巨大な本があった。
「よっす。来たぜ司書君」
「やっほー」
眼鏡で黒髪、無精ひげ、更におまけは不健康な白い肌という四コンボが決まっているその人物は、僕ら『オプサラス』のメンバーの一人でこの図書館迷宮によく籠るので司書と呼ばれている。キャラクターネームはビブリオマニア、名前からも本好きが滲み出ている。
その本好きが幸いしてか、ここ最上階に直通する専用経路を使う事を許可されている。
誰に?と言ったらここに居るもう一人の・・・人物と言うか、なんというか物である所の巨大な本に、である。
この巨大な本、何を隠そう先にも言った賢者たちが作った意思を持つ本の初版本であり、名をアカシャという。賢者たちが持っていた最重要機密の管理もこの本が担っている。初版本という事で、この塔が出来た当初より存在していてその老獪な知性と莫大な知識量は他の追随を許さない。
このアカシャと司書は茶飲み友達であり、また師弟の関係でもある。
司書の職業は<賢者>、司書のステータスはもっぱらその知識量に偏ってはいるが、様々な魔法を使いこなすことの出来る魔法職総合型の最上位クラスである。
「うーん?あぁ君たちか、どうかしたかね?」
「おや、ビブマニ君の友達かい?」
永き時を経て存在している本は随分と軽い口調で問いかけて来た。
「ビブマニ君・・・いや、はい、彼とは同じクランの仲間なんです」
「ほぅ、それで?こんなところまで何の用だね?ふむ・・・関門を突破してきている様だね、褒美をやろう」
図書館迷宮は運に左右される場面も大きいが、その分クリアした際の報酬が大きかったりする。ゲーム攻略において、最も重要なものを得られるからだ。
「はい。『魔大陸』についての知識を・・・そして、その行き方をお聞きしたい」
そう、情報だ。アカシャである彼は、この世界全てを知っていると言ってもいい。例え最新の物であるとしても、それについての書き物があるならば、この図書館迷宮の一部として取り込まれるからだ。
勿論、この事が明らかになった時は多大な反発があった。図書館迷宮をクリアしさえすれば、知りたい情報がすぐに知れるからだ。今では失伝した伝説の霊薬の製法、謎の星の運行ルート、あの家のレシピ・・・等様々な事をだ。
しかし、その反発は以外にもすぐに収まった。ようは知られないようにすればいいと分かったからだ。知られないようにする方法、それは物に書かない事だった。
ここに無い知識も当然多数存在している。それは、一子相伝の武術であったり、自転車の乗り方の様な体で覚える物や、なんとなく思い浮かんだメロディ、特に口伝えで伝わるものの知識はこの図書館迷宮には無い。
万能ではあるが全能ではない、それが図書館迷宮の主アカシャであった。
ちなみに、正規ルートでしかこの場所にはたどり着けないようになっている。幻惑の魔法の応用だそうだ。裏ルートでは書庫にたどり着くようになっていて、そこにもそこそこの品がある。図書館迷宮にとっては大量に蔵書のある内の一冊であるのだが、地上に出ればそこそこ値段がはるアイテム、魔道書やレシピといった物が手に入る。
正規ルートでは情報(魔法の呪文も含まれる)が手に入り、裏ルートでは書物関係のアイテムが手に入る。結構旨みのあるダンジョンである。
「ふむ、ついにこの時が来たか・・・これは今は亡き我が主人、エクレール様より聞いた話なのだが・・・」
そうして、アカシャは語り出した。
古の賢者たちが暮らしていたより遥か以前、この世界も地球と同じように一つの大陸であったらしい、特に名前は無かったらしいが便宜上『原初大陸』と呼ぶようにする。原初大陸には、今と同じ様に様々な種族が暮らしていた。この時はまだ、機構族は存在していなかった。その時は、今の様な国による種族の棲み分けと言うかそう言うものは無かったらしい。まぁ、今でもこの国はこの種族が多いと言うだけで、完全な棲み分けがなされている訳ではない。平和な時代である今だからこそこうだが、文明が滅んだ崩壊対戦とも呼ばれる戦争直後はそれはもう酷かったらしい。長命種であるエルフやドワーフと言った種族は今でもその対戦の事を引っ張っている者も、多少、存在している。が、今は関係ない。
その原初大陸では好き勝手に集まり会い、好き勝手に集落を作って暮らしていたが、ある一つの種族が一つの土地に棲み付き、他の種族を追い出し始めた。その土地は他の土地と比べ豊かで、その種族は多く増えた。増えたからには住む場所も広がる。しかし、その方法が悪かった。他の種族を攻撃、征服するような仕方、更には捕えた者達を労働力、更に言うなれば奴隷とするような事をしたのだ。
それに反抗した他の種族たちは、原初大陸よりその土地を切り離しその種族をその土地から出ないように結界を張ったのだった。
その後、残った資源で他の種族たちは発展を遂げ、様々な思想や文明が産まれ、それに伴う戦争その時、更に大陸は分かれ、その後崩壊戦争で一度文明は滅びる。機構族は崩壊戦争時に産まれた比較的新しい種族であった。
「それで、その種族っていうのが魔族って訳か」
「そうだね。『魔大陸』の持つ力は現存しているみたいだね」
「豊か豊かって言うけど、そんなに違うもんなの?ここらでも十分豊かだと思うけど」
「ふむまぁ簡単に考えて、この図書館迷宮がある浮遊大陸とアスペンがあるユーラス大陸と砂漠広がるアメーリ大陸を足して5倍の産出力があると思ってもいい」
「それがこちらのように文明が滅びる事無く育っているという訳ですか・・・」
「いや、そこまでは分からん。なんせ、魔大陸に入った者が居ないからな」
「結界、ですか」
「うむ」
「その結界を越える方法は分からないのですか?」
「分からないな。私もそこまで年寄じゃないという事さ、はっはっはっ」
「分かりました。ありがとうございました」
「あぁ、それともう一つ。龍の所へ行ってみると良い」
「竜、ですか?分かりました。では、失礼します」
竜?ドラゴン?・・・うぅん?いままでそんな伏線の様な物あったかな?と、首を捻りながら僕たちは図書館迷宮を後にした。
「いいんですか?勘違いしているみたいですよ」
「ふふ、まぁいいさ。その内辿りつくだろう」
「ま、仲間を見守る私としては面白いからいいんですけどね」
「司書よ、お主もなかなか悪よのぉ」
「ふっ、アカシャほどではございません」
「「ふっふっふっ・・・・あーはははははは・・・・・!!」」
一人と一冊の高笑いは暫く続いたという。




