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旅行から帰ってまいりました。
決勝戦と、初心者スキルに対する説明回です。
会話文少し追加しました。
さて、どうするか・・・。ヤツの武器は基本に則った片手剣と盾、防具は白銀色の金属、ミスリル製の鎧。ミスリルは軽く強い、更に言えば魔法とも親和性が高い。ミスリル鉱石の出土数は少ないが、金を掛ければ揃えられない事もない。逆に言うならそれだけ金が掛かっているという事だ。装備にそれだけの金を掛ける余裕があるという事だ。
防具がミスリル製なら、剣と盾もミスリル製と見てもいいかもしれない。いや、早まるな。まだ分からない。もっと別のモノかもしれない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
僕と奴は睨み合いながら、じりじりと距離を縮めてゆく。僕は汗で滑りそうな剣とナイフの柄を強く握りしめる。『ファストアップ』はもう既に発動させている。恐らくヤツも何らかの『スキル』を発動させている事だろう。いや待て、汗だと?
「くっ!?」
僕はその場から飛び退く。あ、あぶねー。目を焼かれる所だった。
「ちっ、気付かれたか!!」
ヤツが使用した『スキル』は『レーザーライト』。指向性の光をぶつける『スキル』だ。地味だが使い方によっては凶悪な『スキル』だ。そう、目潰しとか。少し狙いを付けるのが難しい事に助けられた。手に光が当たっていたから熱で汗が出たのだ。
顔に似合わず中々にエグい事をする。だが、コイツの職業は分かった。
「お前、パラディンか」
「ふ、そうさ。でも分かったからってどうなるんだい?僕を倒せるとでも?」
「さぁ?それは分からん」
パラディンは光属性の魔法と騎士系『スキル』のレベルをある程度上げる事でなれる職業だ。光属性魔法と防御力に上昇補正が掛かる。
「まぁいいや。どんどん行くよ!!『ライトボール』『ライトニードル』『ライトエッジ』!!」
僕に向かって飛んでくる三種の魔法。さて、どうする・・・?
■■■■■
それは大衆ひしめくコロシアムの観客席での一会話。SAで最大規模を誇るクラン『赤羽旅団』のリーダーとメンバーの会話。
「解析は進んでるか?」
「団長。はい、一応」
「どんな感じだ?」
「そうですね・・・。メルセデクは前の大会の時より二三スキルレベルが上がってる程度ですね。しかし問題は・・・」
「あの初心者か・・・。いや、なんだよあれ?」
「『解析』を掛けているんですが、使って居るスキルは初心者三種のみです。『スラッシュ』『投擲』『ファストアップ』ですね」
「と、いう事はあの速さはステータスに因るモノか?それとも『スキル』か?」
「どちらも・・・という事になりますが、元の速さはトッププレイヤーとしてはザラにいるレベルですね」
「という事は『スキル』頼りだという事になるが・・・『ファストアップ』そこまでの物だったか?」
「それを私も、いえ、私達も確認している所です」
「と言うと?」
「初心者スキルについての情報が殆どと言っていい程で回っていないんです」
「ウィキはどうなんだ?いや、この際ブログでも何でもいい」
「『初心者スキル研究所』と言うサイトがあり、『俺はまだ追求する』と言う二年前の書き込みを最後に更新されていません」
「ふむ・・・」
「初めはそれなりに人数も居たようですが、余りの成長率の悪さ、使い勝手の悪さにだんだんとリタイアしていったようです」
「まて、初心者スキルだぞ?成長率はまだ分かるが、使い勝手の悪さ?どういう事だ?」
「そうですね・・・まず彼が良く使っている『投擲』についてですが・・・彼は簡単にハンマーとかを投げてますが、『投擲』ではその武器を軽々と扱える程度の筋力ステータスが必要最低限必要とされています。軽く二倍です、二倍。更に正確に投げるためには個人のセンスもそうですが、技量ステータスも求められます。当たり前ですが、大きなものになればなるほどそれは高くなります」
「ふむ、まぁそれ位は何とかなるな」
「次に『スラッシュ』これは極端に伸び率が悪かったみたいです。1レベル上がる毎にクールタイムが0.25秒しか短くならなかったみたいです。同じくダメージ補正も1レベル毎に0.25%の上昇程度だったようです」
「待て待て待て待て・・・その計算だと最終的にはクールタイムは0.25秒でまさに秒速だが、ダメージ補正150%は流石に無いだろう。少なすぎる。それなら武器攻撃ダメージ補正系取った方がいいじゃないか」
「そうです。これで『スラッシュ』は早々に切られる流れになったんですよね。今じゃ常識です」
「そんな事があったのか、知らなかった」
「いや、団長は知っといてくださいよ」
「すまん。で、続きを頼む」
「あぁはいはい。最後に『ファストアップ』これは使い勝手は良かったですよね」
「そうだな、始めの移動手段としてはなかなか良かった。まぁ、効果時間は短かったが」
「ですよね。まず効果時間が延びるのはまぁ普通ですよね」
「まぁそうだろうな」
「効果その物が上がるのも」
「うむ」
「それなんですよ。そこが問題なんです」
「どういうこ・・・あぁなるほど、ついて行けなかったのか自分の速さに、自分自身が」
「速くなり過ぎてしまうそうです。勿論、思考加速なんてものはありません。その技術を作るためのVRでもある訳ですしね」
「体はどうとでもなっても、あの高速機動を処理する脳はどうする事も出来ないのな・・・」
「そういうことです」
「つまりアイツは・・・チートか、思考加速の技術を持った者なのか、ただ脳の回転の速いだけの奴なのか・・・まぁチートはなさそう・・・いや逆にその方がチート臭いぞこれ」
「今の実況掲示板でも似たような議論がなされています。まぁ、その辺は『スキル』の全力使用をしなければ問題ない話なんですけどね」
「あ、そうか。なるほどな。てことは、マックスのスピードじゃないのかアレ。え、マジで?どんだけ速いんだよ全力使用時」
「分かりません。あ、それと高レベル『ファストアップ』を全力使用した感想が載っていました」
「ふうん?」
「吹っ飛んだそうです」
「は?」
「砲弾と化したようです」
「ううん?」
「風になったそうです」
「いやいやいやいや待て。抽象的過ぎる。具体的に言ってくれ」
「車は急に止まれない」
「オーケー把握した。吹っ飛びそうな体を無理やり筋力ステータスで抑え付けてるのか。力技にも程があるだろ」
「ですよね」
「でもまぁ、まぁ分かった。分かったが・・・普通じゃねえな。少なくとも、初心者じゃねぇ・・・あれはバケモンだ」
■■■■■
何やら不本意な事を言われていた気がする!!いや普段から言われてるけど。
「『アイテム引出:ホワイトドラゴンの皮』!!」
ホワイトドラゴンは光属性に対して高い耐性を持つドラゴンだ。その素材は光属性防御の高い防具に使用される。つまり、素材そのまま使っても問題は無いという事だ。
「なんでそんな物持ってるんですかねぇ!?」
「念のため?」
「そういう事じゃ無いんですけど!?」
じゃあどういう事さ。全く持って分からん。
皮で魔法を払い接近する。
「目くらましの意味もあるのか!!」
「そうですともっ!!」
皮で隠すようにしていたバス停|(衝撃大の効果を持ったなかなか使えるネタ武器)で盾を狙う。
「『ライトシールド』!!」
「くっ!!」
パラディン系限定スキル『ライトシールド』、盾を持っていないと発動させることが出来ない『スキル』で、その効果は一瞬だが非常に高い防御性能を誇る。
「貰った!!」
僕の胸に剣が突きつけられる。しかしそれは固い衝撃と共に弾かれる。
「鱗だよ」
「やっぱりか!!」
『メタルドラゴンの鱗』、物理防御力ではトップクラスのそれを僕は胸に挟んでおいた。あ、胸だけじゃないよ。手首とか足首とか体の各部に挟んでいる。ちょっとした盾の代わりだ。
「やるね。なかなか」
「同じ事言おうとしてた自分に腹が立つな!!」
■■■■■
「はー・・・。いやいや、なんとまぁ、すごいねぇ」
「アイテムの使い方、参考になりますね」
「ま、普通素材アイテムを戦闘に使おうとは思わんよな」
「あ、新しい情報です」
「何々?『ファストアップ運用考察』?」
「はい。ファストアップはそもそもスピードを上げる『スキル』で・・・」
「長そうだな、短く纏めてくれ」
「はい。『ファストアップ』の速さ故の体の吹っ飛びをどうにかしたら使えるのでは?という事で考えられた運用法ですが、壁を用いるというもので、壁を利用し停止・旋回をしようというものです」
「何かその方法で使ってんの想像したらスーパーボールが目に浮かんだぜ」
「そのものですこれを『スーパーボール法』と言うようです」
「ふむ。名前はともかくなかなか使えそうだな、実際スピードタイプの奴はこれを使ってるっぽいな」
「はい。ですがこれには重大な欠点があります」
「壁だな?」
「はい。壁のある空間でしか使用出来ないところです。それもかなり狭い場所でしか使えません。使用できるのは、屋内かダンジョン内という事になります」
「ふーむ・・・あ・・・」
「どうしました?」
「アレ、『壁』じゃね?」
■■■■■
場は整った。後はこれを使うだけだ。
「『アイテム引出:黄昏の砂時計』」
『黄昏の砂時計』使用後一定時間周囲のスピードが遅くなる効果を持つアイテムだ。ちなみにSAでは状態異常の打ち消し合いは存在しない。特定の方法でしか状態異常を解除できないという事だ。と言っても、普段なる状態異常の殆どを解除する『万能薬』と言ったアイテムや、『スキル』効果を打ち消す『スキル』と言ったものがあるので、そこまで困る事は無い。
周囲のスピードが根こそぎ遅くなる。自分もアイツも含めて。だが、自分は元々速いままこの状態に突っ込んでいる。問題なく動ける。
遅くなった時の中、僕は自由に駆け回る。フルパワー『ファストアップ』は普段速すぎておいそれと使えないが、この状態でなら万遍なく使える。大量の武器で作った壁もある。最高の状態だ。
突き立てた剣の腹を足場にし跳ぶ。すれ違いざまに『スラッシュ』で斬りつける。ハンマーの柄に着地する。僕の剣を防ごうとあいつが盾を動かす。それを確認した僕は、身の丈ほどもある大剣に飛び移り、再び跳ぶ。
■■■■■
「うわ、うわうわうわ~。えげつねぇ」
「『黄昏の砂時計』ですか、自分も巻き込まれるゴミアイテムとして有名な物ですね」
「もしかして、このためにあったんじゃねぇの?」
「そうと考えられるのが怖いところですね」
「そうだな。SAならやりかねん」
「決着付きましたね」
「あぁ。・・・しっかし、『オプサラス』もまたとんでもねぇモン隠してたな」
「要注意ですね」
「うむ・・・あぁそうだ。ヤツ自身の情報は無いのか?」
「すいません・・・本名すら分かりません。噂話板では時々話されているようですが、呼び名が毎回違うので本人かは分かりません」
「せめて本名がわかりゃなぁ・・・なんでこんな仕様なんだろうなSAは・・・他のゲームみたく頭の上に名前でも出れば分かり易いのに・・・」
「まぁ仕方ありませんよ。真名つまり本名がかなり重要なゲームのようですので」
「そりゃあなぁ、でも使ったことあるか?」
「私は無いですね」
「俺もだ・・・って事は今後使うかもしれないってことだよなぁ」
「そうですね」
「何すんだろ?」
「さぁ?私には分かりかねます」
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『勝者、ワカ!!』
僕があいつの頭に自転車による一撃を喰らわせたときにそのアナウンスは流れた。
ふぅ、終わったのか。戦闘終了の鐘と共に時は元の速さに戻る。結構ギリギリだったな。『黄昏の砂時計』は一つしか持ってなかったから危なかった。
アイツは頭部ダメージによって気絶している。少し話したかったが、係の人間に運び出されてしまった。残念だ。
『ワカさんには優勝されましたので、賞金とチャンピオンに挑戦する権利が与えられます!!チャンピオンに挑戦なされますか?』
ふむ・・・。折角ここまで来たのだ、受けるとするか。
「はい!!」
僕は大きな声でそう答えた。
『それではこれよりチャンピオンの座を掛けたエキシビションマッチが開催されます!!挑戦者はコロシアム初出場にて優勝したワカ!!さぁ、我らがチャンピオンの登場だぁあああああ!!』
すると突然会場の四方から煙が噴出される。会場の真ん中がぽっかりと開き、ゆっくりと人影がせり上がってくる。
『チャンピオンはコロシアムに流星の如く現れ、見たことも無い技と刀を持って最短勝利数でチャンピオンになった男だ!!つまり、今回挑戦するワカと同じ道筋を辿っているのです!!チャンピオンが勝利し、座を防衛するのか!?それとも挑戦者が勝利し、新たなチャンピオンとなるのか!?今、対戦のゴングが鳴ります!!』
煙が晴れると、そこには見覚えのある姿があった。と言うか師匠だった。
「あ、やっぱ棄権します!!」
自転車は武器です。




