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お館様の代理人 呪いの館を相続したはずが館にめちゃくちゃ世話焼かれてるんですけど!  作者: zingibercolor
第1章

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8/24

人生がずっと止まってるんですけど

 洗濯物が溜まってきたので、館に据え付けてあった洗濯機を回す。比較的新しくて大きいドラム式洗濯機、とても老人の一人暮らしだったとは思えない。食堂に大きいテーブルがいくつかあって、どれも洗いたてみたいなテーブルクロスがかかってるけど、これとか洗ってたのかな?

 ずっと一部屋しか使わないのももったいないので、体調がいい日に台所を物色してみたりした。ステンレスぴっかぴかの広くてきれいなキッチン、流しは清潔だし作業台は広いし。塩・砂糖・コショウその他一通りの調味料が棚に揃っているし、冷蔵庫には味噌や醤油やみりんも入っているし。さすがに傷む食材はお館様がなくなったあと処分したみたいだけど、材料さえ買ってくれば、今すぐ料理を作れそう。

 しかしこの館、各部屋はともかく、廊下や玄関ホールにエアコンないのに全然暑くない。この夏の中で!? なんかの魔法!?

 夏の日差しなんで焼かれそうだけど、窓の採光は良くて明るく、窓からはきれいに手入れされた庭も見えて、他の季節だったら風光明媚と言ってよさそう。呪いの館なんて聞いてなかったら、最初からもっとこの素敵な館を楽しめだろうな。

 前に頼んでたバラの肥料だけど、玄関先に来たとお館様に伝えたら、いつの間にかなくなっていて、段ボールだけ畳んで家に入れてあった。家の裏に物置があって、そこに園芸用具がいっぱい詰まってるみたいなので、多分そこに入れたんだろう。

 いろいろ動いてたら疲れて眠くなっちゃったけど、まだ寝るのが惜しくて、私は台所を物色して見つけたコーヒー豆を全自動コーヒーメーカーにセットした。マグカップにコーヒーを注いで、挽きたて淹れたての豆の芳しい香りを味わう。この香りを嗅ぐとコーヒーが嗜好品っていうのが頷けるなあ、ハタチで倒れるまでは安いインスタントコーヒーばっかり飲んでて、味なんて二の次、眠気覚ましとしての効果しか求めてなかったけど。

 ……ハタチで倒れてから。本当になんにもできなくなって、いろんな病院にかかった。身体面はあらゆるところをきっちり検査したけど、全く異常なし。ただただ体力がないだけ。

 メンタルも疑って心療内科や精神病院も訪ねたけど、いろんな抗うつ剤と向精神薬を試して、全くの成果なし。

 7年間。私の人生の時間は止まったまま。何も進んでいない。

 中学の友だち、高校の友だち、大学の友達は順調に人生を進めている。下手にいい大学に通ってたもんだから、大学の友達みんなそれなりにいいところに就職してて、インスタとかキラキラすぎてもう全然見れない。仕事に推し活に結婚に、早い子だともう妊娠してて、みんなそれぞれの人生を歩んでいる。Twitterでも、だいたいそんな感じ。

 ……友達の中には、一人だけインスタでもTwitterでもなく、YouTubeで声を聞くのが一番早い子がいる。でもあの子はおもしれー女すぎて、だれよりも眩しくて、遠くに行っちゃって、私はもうとても友達とは言えないな……。

 私は、Twitterもインスタもリアル垢はとうに投稿をやめた。ちょっと前までは、Twitterのアライさん界隈(けものフレンズのキャラクター「アライさん」のなりきり界隈)に作った裏垢を稼働させてた。アライさん界隈は、もともと面白い職業や趣味の人がいて、それのあと病気や精神疾患や仕事などで人生が辛い人たちが多く集まって、人生挫折した私にはとても居心地が良かった。だから、体力がなさすぎて無職なことの愚痴をぽちぽちツイートしてたけど、とんでもない遺産を継ぐことになってから、何を言っても口を滑らせる気がして何も投稿していない。見るだけはまだしてるけど。

 好きな漫画家や小説家、イラストレーターがいると聞いてMisskeyやBlueskyにも登録してみたけど、登録してあるだけ。

 そう、引きこもってインターネットすることしか娯楽がない。遊び回るにはあまりにも体力がない。

 お金に困らない身分になった。お館様、掛川右京氏の財産は、人生7回遊んで暮らしてもまだまだ余る。

 その他に、親の残した貯金3億。親とはいろいろあったし、掛川右京氏の財産で暮らしに困らなくなったから、私は親の3億をどうでもいいバカバカしいくだらないことに使いつぶしてやりたい。絶対に建設的なことなんかに使いたくない。

 でも、建設的なことであっても非建設的なことであっても、お金を使うための体力が、全くない……。

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