どうせだから全部やらせたいんですけど
ゆずさんはだいぶおびえた顔をした。
「な、何すれば……?」
別に、未成年にやらせちゃいけないようなえっちなことじゃないってば。私は言った。
「うちにあるお酒を売って処分して。あと、お酒が入ってる棚も処分して」
私は2人に館に入るよう促した。ゆずさんは不安げに、仙さんはおびえつつ館に入る。ヤカは私の隣についてきてくれた。私は遊戯室へ向かい、ドアを開けてウイスキーコレクションを見せた。
「ゆずさん。このお酒を全部売って、売り上げは全額耳揃えて私に渡して。お酒売ったら、棚も全部処分して」
「え、ええ……?」
ゆずさんは面食らっている。私は厳しめの声で言った。
「どこで売れるかくらい、スマホで調べられるでしょ? それに、棚の解体くらい自分でできるよね? もし自分で解体できなくても、スマホで便利屋なりなんなり探して頼めばできるでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「一応、それやったらお金出しますの書面作るね、できたらサインして。サインしたらお金は先払いするけど、やらなかったら全額返してもらいます」
「や、やります!」
ゆずさんはスマホを取り出し、調べ始めた。私は再び厳しめの声で言った。
「一ヶ所だけで見積もり取らせちゃダメよ、最低でも二ヶ所見積もり取らせなさい。一ヶ所だけだと買い叩かれるからね」
「は、はい……」
「検索トップに出た買い取り店とか、スポンサーで出た買い取り店とかも鵜呑みにしちゃダメよ、少なくとも検索1ページ目に出たやつは全部目を通すくらいの心づもりでいて」
「はい……」
「私なるべくここにいるから、業者にすぐ来てもらっていいし、今日じゃなくても来るときは私も立ち会うから」
「はい……」
私はその辺にあった椅子を出してきて座り、一息ついてからヤカを見た。
「ごめん、私ここで見張っときたいから、悪いけど私の部屋からノーパソ持ってきてくれない? 書面作りたいの」
{わかった}
ヤカは床にすっと染み込み、少しして東館からノートパソコンを持ってやってきた。
「ありがとう」
仙さんは調べるゆずさんにあれこれ助言していたが、一段落ついたあとに私に言った。
「本当にありがとうございます、娘を許してくださって……」
「やることやったらですよ。それに最初から普通に頼んでくだされば、こんな事しないで普通に融通しましたよ。あなたは私の伯父ですから」
「本当にありがとうございます……」
で、私はWordを開いて書面を作り出した。仙さんに必要な金額を聞き、いろいろ相談し、ただお金渡すだけだと贈与税とか事務所の経営とかでめんどくさいことになるから、最低金利での融資、返済期間もできる限り長く取る、ということで合意した。ゆずさんがちゃんとやらなかったら返してもらう旨も書面に書いておく。一通り済んだところで、遊戯室にちょこちょこと入ってくる赤い影があった。座敷童子ちゃんだ。
[お菓子をよこすのだ!]
「はいはい。ヤカ、私ここで見張っときたいから、あるものいっぱい出しといてあげてくれる?」
{わかった}
[あたちも見物したいのだ]
「じゃあ好きに見といて」
[あと、お前がちょくちょく飲んでる、練乳めちゃくちゃ入ってるミルクティーもよこすのだ]
{それも淹れてこよう}
「ありがとう、ヤカ」
仙さんは不思議そうだ。
「この子は?」
私は困った。別に嘘をつく必要もないけど、本当のことを言ったところで信じてもらえるかどうか。
「あー、その、信じてくださるかわかりませんが……この子は座敷童子ちゃんです」
「座敷童子!?」
ゆずさんもびっくりした。
「座敷童子!?」
私はため息をついた。
「ちょっと前までそちらにいたそうなのですが、なんかうちに来て……事務所が傾いたの、多分座敷童子ちゃんがいなくなったせいですよ」
仙さんは慌てだした。
「えっ……え、うちに戻ってもらうことは!? 無理かい!?」
[嫌なのだ。定年後の年寄りばっかり安く雇って、若い奴に仕事を回さないところに未来はないのだ]
「そ、それをいきなり変えるのは無理だ!」
[じゃあ知らないのだ]
スキルがある人を再雇用で安く使って、でも若い世代を育てることをしてないのか……それはどうなのと思うけど、でも今の御時世、皆なかなか育てる余裕ないよね、世知辛い世の中だ……。
座敷童子ちゃんの意思は固いと見たし、でも多少は何とかしてあげたいしで、私は座敷童子ちゃんに聞いた。
「掛川仙さんのところ、貧乏神さんもついちゃってるのよね? 貧乏神さんだけでも、出てってもらうことはできないのかな?」
[んー、今言ったことをどうにかするって約束するなら、追い出し方を教えるのだ]
仙さんは叫んだ。
「どうにかする! どうにかします!」
[ふーん。じゃあ、まず、焼き飯を大盛り、焼き味噌をほんのちょっと作って、それをお盆に乗せるのだ。で、お盆を持って裏口から出て、一番近くの川にそのお盆を流すのだ。そしたら貧乏神は出ていくのだ]
「わ、わかりました……」
ゆずさんは、まだやりとりをびっくりして見ていた。私はまた厳しめの声を出した。
「手を止めないの」
「す、すみません!」
ゆずさんは慌ててスマホ操作に戻った。
まあ、これでなんとかなるかな。あとは、書面を書き上げて、お互い内容を確認して、いろいろ修正したら2枚プリントアウトして、両方にサインもらってサインしてお互い一枚ずつ保存して、休日明けたら融資の手続きのために仙さんと銀行に行って……めんどくさ! でもやっとかないと、何かあったときもっとめんどくさくなるからね!




