やることしっかりやっておくんですけど
ああ、こんなときが来たか。侵入者の女の子を見て、私はそう思った。
莫大な遺産を相続すると、お金目当てに近寄ってくる人が絶えないと聞いた。親、兄弟、親戚、親戚を名乗る見知らぬ人。私の場合、血縁的に私より相続を優先されるはずだった人もいる。そりゃ、自分によこせって人もいるよねえ。
で、掛川右京さんをおじいちゃんって呼ぶってことは、掛川さんの長男もしくは次男の娘か。
ヤカは見知らぬ人にビビっていたけど、私を守ろうという気持ちを持ってくれたみたいで私の一歩前に出た。女の子は私たちの姿を認め、さらに叫んだ。
「返せ! 遺産がないせいでうちは破産しそうなんだ!!」
何が返せだ、別に私奪ってないし。私は、低い声で言った。
「私は法律に則って正式な手続きで相続してる。訴えても私が勝つよ」
「うるさい!」
「どうせお父さんの事務所が貧乏神がついたみたいにうまくいかなくなって、それで遺産で補填したいんでしょ」
「なんで知ってるんだよ!」
女の子は吠えた。もしかしたらとカマかけただけだったけど、掛川仙さんの方の娘だな、こりゃ。
私は女の子を睨みつけた。
「もう少し穏当に来てくれれば、こっちも援助くらい考えたのに。そんな態度で来るなら、なんにもしてあげない。あんたがお父さんの破産の原因」
「なんでだよ!」
「ていうか、迷惑だから警察呼ぶわ」
私はスマホを取り出した。
「えっ……」
女の子は唖然とした。私は言った。
「何? 朝っぱらから人んちに押しかけて、何のお咎めもないと思ったの? あんたの親にも連絡するからね」
「ま、待って! ちょっと待って……」
女の子は慌てて靴を脱いで私に駆け寄ろうとしたが、ヤカがさっと女の子をブロックした。女の子の手首をつかんで、離さない。
{真希氏に何かするなら許さない}
「し、しない! 離して! 警察はやめて!」
女の子がもがく中、私は容赦なく通報した。それから、朝っぱらから悪いなーとは思ったけど、西野さんにも電話して掛川仙さんの連絡先を教えてもらった。西野さんは、寝起きだったらしくてぽやぽや声だった。
「何かあったんですか?」
「掛川仙さんの娘さんが、遺産を返せってうちに侵入してきて」
「ええ!?」
「警察呼んで、親も呼び出そうと思いまして」
「……遺恨を残すようなこと、しないほうがいいですよ?」
「掛川仙さんの対応次第ですね」
で、次に掛川仙さんに連絡。と言っても、今のご時世、知らない人の電話番号に出る人少ないよな……案の定出なかったので、留守電にこう入れておいた。
「朝から申し訳ありません、あなたの姪で館その他を相続した牧之原真希と申します。あなたの娘さんが「おじいちゃんの遺産を返せ」と言ってうちの館に侵入してきたので通報しました。引き取りに来てください」
これでよし。通話を切ると、女の子はもう半泣きだった。
「だって! 遺産うちのお父さんがもらうはずだったって! おじいちゃんが呪ってきたからもらえなかったって! なんであんたは呪われてないの!?」
私はため息をついた。この子、多分後先なんにも考えないでうちに来たな。
「一応言っとくけど、呪ったのは掛川右京さんじゃない」
{その、呪ったというか、館を壊そうとした人々を追い出したのは私だ}
「あんたが!?」
目をまん丸くする女の子。別に事情を話してもよかったけど、私はいいかげんこの子の名前を知りたかった。
「名乗りもしない人に教えてあげる義理はない」
女の子をぎろっと睨むと、女の子はおびえつつ言った。
「か、掛川ゆず……」
「そう、ゆずさん。掛川右京さんの遺言では、血縁かつ館に住むことが遺産の相続条件だったの。でもあなたのお父さんは館を壊してタワマンを建てようとした。だからヤカ……この、館にずっといた人は手段を選ばないであなたのお父さんたちを追い出した。その後血縁の私に話が来て、私は館に住んで館を壊そうとしなかったから、ちゃんと相続してるし呪われてないの」
「な、何それ」
ゆずさんはぽかんとした。ヤカのことを詳しく話すべきかどうすべきか迷ったとき、私のスマホに着信があった。
「はい、もしもし」
「もしもし!? うちの娘そっちにいるんですか!?」
「いますよ、掛川ゆずさん。そのうち警察来ます」
「警察は! 警察だけは勘弁してください!」
「いやもう通報しちゃいましたし……あ、来ちゃいました」
窓から、門扉を開けて入ってくる警官が2人見えた。私は靴をつっかけて玄関のドアを開けた。警官が私を認めて寄ってきた。
「牧之原真希さんですか?」
「はい、侵入してきたの、そこの子です。親とは連絡ついたので、そのうち来ると思いますが」
ヤカはまた知らない人が来て固まり、掛川仙さんは「来ちゃったんですか!?」と騒いでいた。
「引き取りに来てくださいよ」
「と、とりあえずそちらに行きます!」
電話は切れ、警官はゆずさんに身元を聞き始め、ゆずさんは泣きながら「ごめんなさい!ごめんなさい!」と叫ぶ。ヤカは自分の用は済んだと思ったらしく、私の方へ寄ってきて私の後ろに隠れようとした。その大きさじゃ無理だってば。
{これで一段落だろうか?}
「んー、掛川仙さんが来てちゃんと対応してくれたらかなー。掛川仙さんってどんな人かわかる?」
{小さい頃はごく普通の、よく勉強ができる少年だった。18のときに家を出て、それからほとんど館に帰らず、しかし掛川氏から金銭的援助は受けていたようで、それほど遠くないところに住んでいる}
「ふーん」
そうか、幼少期を知ってるのか。そう言えば、ヤカ100歳超えてるんだもんね……。
警官は泣きじゃくるゆずさんを一生懸命なだめて名前や住所、親の連絡先を聞き出そうとし、だいぶ難航していたので、私は申し出た。
「父親の連絡先分かります、掛川仙さんって言って、電話番号は……」
その時門扉がまた開いて、知らない男性が駆け寄ってきて、しかし玄関からだいぶ離れたところで土下座をかました。
「申し訳ない! 被害届だけは! 被害届だけは勘弁してください!」
……掛川仙さんか。まあ、娘思いの父親ではあるみたいだ。




