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お館様の代理人 呪いの館を相続したはずが館にめちゃくちゃ世話焼かれてるんですけど!  作者: zingibercolor
3章

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一応2人にも説明しておきたいんですけど

 月曜日。矢車ちゃんと薄荷ちゃんに事情を話し、お昼は庭でみんなで食べたいと言ったら快諾してくれた。


「きれいなお庭ですもんね」

「お花見ですね! バラですけど」


 私は言った。


「じゃ、お昼はなんか運びやすいものお願いね。あと、ヤカはいろんな人に庭見てほしいみたいだから、写真撮っていろんな人に見せてほしいし、うちの庭だってわかんない程度の写真だったらSNSにもあげてほしいな」

「「はい!」」


 お昼。言葉通り、2人はお弁当みたいなメニューを作って1人分ずつ大きな皿に盛ってくれた。卵焼き、一口大に切った鶏モモの照焼き、ゴボウとニンジンのきんぴら、ピーマンのおかか和え、あとご飯。


「東屋まで運びますね」

「ヤカ様の分はどうしましょうか?」

「あー、そういえば聞いてないな、どうしようか……」


 私は……ヤカが他の人とも普通に話せるようになったら嬉しいし、ヤカを交えて普通にご飯食べれたら嬉しいんだよね。一応、庭で食べようって誘うか。


「ヤカ! 一応4人分東屋に運んでもらうからね、嫌だったらご飯後で厨房の隅に置いといてもらうから、適当に食べて」


 一応そう呼びかけておいたけど、どうなることやら。

 私はご飯を運ぶ薄荷ちゃんと一緒に東屋へ行った。残りのご飯は後から矢車ちゃんが持ってきてくれるって。

 東屋は色とりどりのバラがさらに咲き誇り、訪れる人を待ち望んでいるかのよう。矢車ちゃんがご飯を載せたお盆を持って歩いてきたが、東屋に一瞬見とれて、そのせいでつまづいた。まずい、転ぶ! こぼす!と思ったけど、地面から素早く透明な触手が伸びて、矢車ちゃんもお盆も受け止めた。矢車ちゃんはびっくりした。


「え!? 何!?」


 触手は矢車ちゃんを立ち直らせて、お盆も矢車ちゃんに渡し、一度引っ込んでからもう一度出てきて、白いフード付きロングコートを被って顔が見えない人型になった。おっ、ご飯食べに出てきたかな。

 矢車ちゃんも薄荷ちゃんも声を上げた。


「「ヤカ様!?」」


 ヤカはビクッとし、滑るように地面を移動して私の背に隠れようとした。


「いや、その大きさで私の後ろに隠れるのは無理でしょ」

{それは……そうだが……}


 今の姿のヤカは私より背が高く、普通の男性くらいの背丈があるのだ。折良く、矢車ちゃんは全然ヤカを怖がっていない。


「ヤカ様、ありがとうございます、助かりました!」

{ど、どういたしまして……}


 ヤカはビビっていたが、私は「一緒に食べようよ」と席を勧めた。ヤカも食べようという気持ちはあったらしくて、私の隣に座った。矢車ちゃんと薄荷ちゃんは私たちの対面の席につき、なんだかんだでお昼になった。私はまず卵焼きをかじった。


「おいしいー」


 甘じょっぱい系で、出汁が効いている。このままでもご飯のお供にしてもおいしい。

 薄荷ちゃんが笑った。


「良かったです、それ私が作ったんですよ」


 矢車ちゃんが対抗するように言った。


「副菜もおいしいですよ! 私が作ったんです!」

「食べる食べる、おいしそう」


 ヤカも大人しく鶏の照り焼きをフードの中に入れている。


「ヤカはどう?」

{柔らかく仕上げられていて、メイラード反応が十分に起きている。塩分濃度は人間の味覚にとって適切で、アミノ酸も豊富だ。いわゆる、「ご飯に合う」と言うやつではないだろうか}

「めっちゃいいじゃない」


 そう言ってから、私は解説が必要だと思って薄荷ちゃんに伝えた。


「ヤカね、人間の味覚はあんまりピンときてないの。人間がおいしいと思うものは分かるけど、後天的に学んだんだって」

「そうなんです!?」

「理屈っぽい感想と思ったかもしれないけど、すごくほめてるからね」

「よかったです」


 ヤカは小さくなって{わかりにくくてすまない……}とつぶやいた。

 きんぴらもごま油が効いてておいしい。ピーマンもかつお節をぜいたくに使ってておいしい。材料ケチらない物はやっぱりおいしいなあ。

 矢車ちゃんに感想を伝え、喜ばれていると、薄荷ちゃんが柿の葉茶を注ぎつつ聞いてきた。


「牧之原様は、おじいさまからこの館を相続されたんですよね?」

「うん、まあ会ったことないからあんまり祖父って感じしないけど」

「?」

「?」


 不思議そうにする二人に、私は事情を話した。


「掛川さんと離婚したのが私の祖母で、祖母が連れて行った娘が私の母なんだよね。正直、私にとっておじいちゃんは祖母の再婚相手の方。かわいがってくれたし」

「そうなんですか」


 薄荷ちゃんは頷いたが、矢車ちゃんは気づいたようだった。


「じゃあ、牧之原様のお母様じゃなくて牧之原様が相続したってことは、お母様はもしかして、お亡くなりに?」


 まあ、ちょっと考えれば行き着く結論だな。


「うん、5年前に。父と一緒に交通事故でね」

「それは……聞いてごめんなさい」


 矢車ちゃんはしゅんとした。


「いいのよ、別に隠すようなことじゃないし。掛川さんの遺産は、順当にいけば母の兄……長男と次男が受け継ぐところだったんだけど、長男が館を壊してタワマン建てようとしてたからヤカが追い出して、次男他も館壊そうとしてたからヤカが追い出しちゃって」


 ヤカが身を小さくした。


{乱暴な手を使ったのは悪いと思っているが、ここを壊されたら私は他に行くところがない}

「まあ、そうよね。掛川さんの遺言は、館に住まないと遺産を受け継がせない、だったの。で、私はこの館に住むことにして、それでヤカに会ったわけ」


 矢車ちゃんは「すごいですね……」とつぶやき、薄荷ちゃんも「へえー……」と感慨深いため息を漏らした。

 私は、思い出して言った。


「でさ。私、生活が落ち着いたらやりたいことがあってね」


 薄荷ちゃんが「なんですか?」と首を傾げる。


「私ね、諸事情で、親が残した3億をどうでもいいバカバカしいくだらないことで全部使い切りたいの」

「なんでです!?」

「3億!?」


 掛川さんの遺産に比べたら端金だけど、一般的には十分驚かれる金額ではあるよね。細かい理由はあんまり言う気がしなかったので、私は「諸事情でね」とだけ言った。


「そういう訳で、なんかいい案ない?」

「ええー……」

「ううーん……」


 2人は顔を見合わせた。薄荷ちゃんが言った。


「矢車ちゃんなら使い道思いつくんじゃない?」

「でもどうでもいいことって言われると思いつかない……面白そうなことなら考えつかなくもないけど……」


 私は言った。


「面白いの禁止、非生産的なことで使い切りたいから」


 矢車ちゃんはへなへなになった。


「無理ですう……」


 ヤカが私を見た。


{散財したいのなら、高い食べ物を買うのはどうだろう?}

「おいしいもの食べるのはくだらなくないもん」


 おいしいものを食べてこその人生なのです。


{そうか……}

「あと正直……中の下くらいの経済観念で暮らしてきたから、高い食べ物ってよくわかんない。キャビア? トリュフ? フォアグラ?」

{まあ、経済的な不安はないのだから、普段の食べ物を少しいいものにしてもいいと思うが}


 私は矢車ちゃんと薄荷ちゃんを見て「2人ともよろしくね」と言っておいた。薄荷ちゃんが不思議そうに言った。


「私たちも食べますけどいいんですか?」


 矢車ちゃんもためらいがあるようだ。


「興味ある食材はたくさんありますけど……」


 私は言っておいた。


「食材無駄にしないなら、いろいろ買っていいよ。ただしぼったくり価格のはダメ。食材の使い切りは、ヤカとも相談してね」


 薄荷ちゃんはホッとし、矢車ちゃんは目を輝かせた。


「ヤカ様! よろしくお願いします!」


 直接話を振られて、ヤカはまたビビって私の後ろに隠れそうになった。


{よ、よろしく……}


 ヤカ、私以外の人とのコミュニケーションにはまだ難がありそうだな……まあ、ゆっくり慣れてくれればいいけどね。

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