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お館様の代理人 呪いの館を相続したはずが館にめちゃくちゃ世話焼かれてるんですけど!  作者: zingibercolor
第2章

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これからも楽しくやれたらいいんですけど

 昼寝して、起きて、そしたらベッドの隅からヤカの触手がにゅるりと出て、メモに何か書いてあるのを示した。


{納屋の部分の私で、しばらく人型になるのと声を出す練習をする}

「そうなの?」

{あなたと普通に話がしてみたい}

「そっか」


 私は嬉しくなった。ヤカとちゃんとおしゃべりできるんだ。

 すると、Uber経由でスーパーで買ったものが届いた通知がきたので、玄関まで2人で取りに行った。私も持ったけど、大部分はヤカが部屋まで運んでくれた。助かる。

 私は買い物の品をガサガサしつつ言った。


「練乳はやっぱマストでしょ、後で1kgのやつAmazonで買おっと」


 ビニール袋から次々と取り出し、冷蔵が必要なものを片端から冷蔵庫に放り込む。牛乳、野菜ジュース、すぐ食べれるミニトマト、パックご飯、納豆、食パン、ジャムとバター、冷凍パスタ、タンパク質にロースハムとシャウエッセンと餃子と肉団子。私一人なら食べないで済ませちゃうこともあるけど、これからはヤカと二人、私はともかくヤカにはちゃんと食べてほしい。ヤカがリクエストした品、卵とセロリとグレープフルーツも冷蔵が必要だな。

 ヤカに「これ食べたいんでしょ? 今食べる?」とセロリを見せたら、触手は違うというように首を振った。それから何か書きつけた。


 {それで明日作りたいものがある}

「え、料理できるの!?」

{掛川氏の食事を用意していたから}

「そうなの!?」

{彼は館が生きていると思っていたらしい}

「そりゃ、そこまでされたらそうなるよ……」


 掛川さん、一人で暮らせてたはずだわ。最強のハウスキーパーがいたんだもんな……。

 ヤカはまた何か書きつけた。


{あなたがいつも作っているミルクティーのレシピを教えてほしい}

「え? 適当よ、レンジの隣に置いてある紅茶の箱あるでしょ、あそこからティーバッグ2個取ってマグカップに入れて、熱湯注いでシリコン蓋して蒸らして、あとは練乳絞り入れてよく混ぜて、いい感じのミルクティー色になったら完成」


 ティーバッグはPG tipsっていうメーカーの奴。イギリスの大衆的なティーバッグらしくて、高くないのに濃く出てミルクと合うんだよね。

 触手は頷いた。


「夕飯何食べたい?」


 触手は返事のかわりに、冷凍パスタのカルボナーラとペペロンチーノを取って持ち上げた。


「じゃ、私はボロネーゼ食べようかな」


 スマホで時間を見ると、17時。早い時間だけど、私は19時寝なので普通に夕飯の時間である。


「冷たいとおいしくないでしょ、今度はあっためて食べよう?」


 触手が頷いたので、私はまずヤカのカルボナーラから温めた。ペペロンチーノも温めて、最後にボロネーゼも温める。ヤカは私のボロネーゼが温まるまで待ってくれていた。

 私は服にトマトソースを飛ばさないよう気をつけてパスタを食べて、ヤカはスライムでパスタを包んできれいに消化したあと、容器もきれいに消化してしまった。何でも食べるな……。

 食べたらまた眠くなってしまって、私は適当にシャワーを浴びて、髪も乾かさず寝てしまった。何とか、ヤカに「お休みなさい」だけは言った。

 それで、翌朝の7時。スマホのアラームに起こされて目覚めると、ヤカの触手が私の顔を覗き込んだ。


「あ、おはよう……」


 起き上がって朝の挨拶をすると、床から透明なスライムが滲み出してきて、盛り上がり、人の背丈くらいの高さになった。スライムが気泡を飲み込んだかと思うと、それをあっという間に細かくしてしまって、スライムは気泡で真っ白になった。スライムはさらに変形して、白いシーツを被った人型になった。びっくりして見ていると、低い女性の声とも高い男性の声ともとれる声がした。


{おはよう、人の姿はちゃんとできていないが、一応声で話せる程度には調整した。あなたが気に入ってくれるといいが}

「ええ!? 一日でできることだったの!?」

{いや、人の骨格はなんとなく作ったが、顔や表情はまだ全くできていない}

「でも、それでも嬉しい! おしゃべりできて!」

{あなたが喜んでくれて嬉しい。それで、朝食の用意ができているから、今持ってくる}

「朝ご飯!? えっ、そこまでやってくれるの!?」


 すると、冷蔵庫の奥からまた別の触手が出てきて、湯気を立てるマグカップを持ってきて、私に差し出してくれた。え! この香り、茶葉2倍練乳ドバ入れミルクティーだ!


「えっ、淹れてくれたの!? ありがとう!」


 ヤカの声は照れくさそうだ。


{最初の館の持ち主が、親しい仲の人に、朝紅茶を持ってくるということをしていて……あなたと親しくなりたくて……}

「すっごくうれしい! ありがとう!」

{その、夫妻でしていたことなのだが、他意はまったくなく、ただ近しい関係になりたくて}

「私もヤカと仲良くなりたいもん! ありがとう!」


 ヤカに笑いかけると、ヤカはホッとしたように膨らんだ。


{よかった。ゆっくり飲んでいてほしい、今料理を運ぶから}


 すると部屋のドアが開き、また別の触手がお盆にいろいろ乗せて何か運んできた。そして木製の机に配膳していく。平皿に乗ったハムエッグとトースト、バターナイフが添えられたバター、ティースプーン付きのジャム瓶、それからガラスの器に盛られた、グレープフルーツの果肉とセロリの薄切りを和えたサラダ。


「わー! 豪華!」

{口に合うといいのだが}

「えっ、絶対おいしいでしょこんなの」


 料理は2人分運ばれてきた。2人でいただきますをして、私は早速トーストにバターを塗ってかじった。ひゃー、サクサクなのに中もちもち! 香ばしさにバターの香りが合う!たいして高い食パンじゃないのに、なんでこんなにおいしくなってるの?


「すっごくおいしい」

{コンベクションオーブンの力だ}

「え、厨房のオーブンそれなんだ!」


 あの、パンがふわふわに焼けるやつ!

 ヤカは、トーストにジャムを盛り盛りにして、シーツをかぶっているような中に入れてしまった。


「昨日みたいに食べないの?」

{人らしく見える食べ方を探求している}

「そうなんだ?」


 私は別のトーストを取り、今度はハムエッグを乗せてかじった。ハムの塩気と旨味を吸った白身がたまらない。黄身もほどよく半熟でおいしい。最後にセロリとグレープフルーツのサラダを食べたけど、甘酸っぱくて、セロリの香りがグレープフルーツのさわやかさに合って、さっぱりでたいへんよろしい。


「ごちそうさま! すっごくおいしかった!」

{あなたにちゃんとした食事をさせられて嬉しい}

「そんなに心配されてたんだ、私」

{カフェオレしか口にしないで寝ていたときは、本当にどうしようかと思った}


 改めて人から言われると、壊滅的だな私の食生活……。

 私は言い訳するように言った。


「いや……ちゃんと健康的な食生活をやってたこともあるんだけど、体なんにも良くならないから、最近はどうでもよくなってきちゃってたんだよね……」


 マルチビタミンミネラルのサプリだけは飲んでるけど、それだけじゃどうにもならないよね……。


{とりあえず、1日3食ちゃんと食べて欲しい}

「はい……」

{材料があればそれなりに作るから}

「はい……ありがとうございます……」


 私は小さくなった。説教されて当然の食生活だったからな。


{後片付けはしておくから、あなたはあなたのやることをしてほしい}

「ありがとう」


 とりあえず、歯を磨いて顔も洗ってスキンケアその他身繕いをして。ヤカと二人暮らしになるわけだけど、今後どうしたらちゃんと仲良くうまくやっていけるかな?

 ヤカは……食べるものにも事欠いてたんだよね、自由に買い物もできなかった。とりあえずその辺りは何とかしてあげたいし、何とかする手段も思いつく。でも、他に何かあるかな?

 洗面所から出たら、ヤカは机にいたので、私は聞いてみることにした。


「あのさ、ヤカ。お礼とかじゃなくて、これは私がしたいことなんだけど、ヤカは私に何かしてほしいことある?」

{してほしいこと?}

「一応さ、私、お金も館の権利も持ってるから、ヤカには何でもしてあげたいの」

{…………}


 ヤカは、考え込むように首を傾げた。


{……いや、あまり簡単なことではないから}

「話すだけ話してみて?」

{難しいことだから……}

「ドンピシャのことができなくても、近いことならできるかもしれないし」


 私が促すと、ヤカはようやく言った。


{……館に、もう少し人が欲しい。にぎやかだといい。人が少ないと寂しい}

「そうなんだ?」


 ヤカ、意外と寂しがりなんだ。館壊すような人じゃなければ、住人は歓迎なんだ?


「じゃあ、誰か雇おうか? それとも住む人が欲しい?」

{とりあえず雇ってほしい、ずっと人型をしていると、館の手入れが行き届かないかもしれないから}

「そっか、じゃあ、今日は雇う人にやってほしいこと整理しよ? 人を雇うにも、求人内容しっかり作んないといけないし」


 何だか、日々が少しずつ動き始めた気がする。ちゃんとした人雇わないとな、どこで探せばいいだろう?

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