そんならいくらだって買うんですけど
いろいろ話して割と疲れたけど、私ヤカの話も聞きたい。でも喋ってのど渇いたな。
「あのさ、私ヤカの話も聞きたいな、お茶淹れたら飲む?」
ヤカの触手は頷き、それからペンで文章を書き付けた。
{このところ熱量不足で、何か熱量の高いものがあると嬉しい}
熱量? ああ、カロリーのことか。カロリーいるんだな……え、普通に飲食する存在なの!?
「えっ今までどうしてたの!? 何も食べてなかったよね!? 大丈夫!? お腹空いてない!?」
{食べてはいる}
「え、そうなの? 何食べてるの?」
{ちりやホコリや庭の雑草や剪定した枝、生えてきたキノコや虫やネズミの死骸など}
「それ食べ物じゃないよ!!」
ここ最近で一番の大声が出た。私は慌てた。
「えっどうしよう、買い置きそんなにない……いや、とりあえずあるもの食べて! 食べ物なんていくらでも買うから!」
私はあわてて食料を出してきた。カロリーメイトの残り、納豆、パックご飯、それから冷凍パスタ、練乳チューブ、野菜ジュース。
「全部食べていいから! 今ご飯とパスタあっためるね!」
{そのまま食べられる、心配いらない、ありがとう}
ヤカの触手は2つに分かれ、器用にカロリーメイトの袋を空けた。触手の根本から透明なスライムがあふれ出し、カロリーメイトをなめていく。カロリーメイトはさらさらとスライムの中に溶けていき、瞬くまに透明になって消化されてしまった。納豆もパックご飯も同様にさらさらと溶けていき、冷凍パスタは凍ったまま、練乳も野菜ジュースもあっという間に消化されてしまった。触手はまた文章を書き付けた。
{容器も食べてしまって構わないか?}
「食べれるの!? いや、まあ、ヤカが構わないなら好きにしてくれていいけど……」
するとスライムはあっという間にビニールやプラスチックを包み込み、やはり消化してしまった。すごいな……。
「足りた? もっといる?」
{当座はこれで済むが、定期的に熱量の高いものをもらえると嬉しい}
「それもう、普通に毎日ご飯食べたほうがよくない?」
{そうかもしれない}
「じゃあ、これから2人分ご飯いるなあ。買い足すか……」
とりあえず紅茶を淹れ、マグカップを2つ出してヤカにも勧める。それから私はスマホを取り出した。
「何でも買うよ、何食べたい?」
ヤカの触手はスマホを覗き込んだ。そしてメモに書き付ける。
{それもインターネットにつながるものなのか?}
「え、うん」
{パソコンでしかできないと思っていた}
「そうなの?」
掛川さん、スマホもタブレットも持ってなかったのかな?
「まあ、スマホもタブレットもネットに繋ぎ放題よ。とりあえず、お昼を選ぼうか」
私はUberを開き、ヤカの触手に見せた。
「何か食べたいものある?」
ヤカの触手は戸惑ったように揺れ、メモにまた書きつけた。
{たくさんありすぎてよくわからない。熱量が高そうなものなら何でもいい}
「そう? じゃあ、揚げ物でも買おうか。私も久々に揚げ物食べちゃおうかな」
適当に探すと、ケンタッキーがちょうどよさそうだった。ヤカ用にフライドチキン6ピースのボックスとフライドポテト盛り盛りのボックスをカートに入れ、ビスケットとチョコパイも足す。ダブルチキンフィレバーガーと、飲み物にレモネードも足しとこうか。私はセットの、照り焼きツイスターとフライドポテトSと烏龍茶でいいや。
一応、ヤカに注文内容を説明しておく。
「フライドチキンとフライドポテトたくさん、甘くて熱量ありそうなお菓子2つ、あとおっきいチキンバーガーとレモネード。これでいい?」
{素晴らしい}
「じゃあこれで注文しとくね」
置き配で注文。それから、私は思いついてタブレットを持ってきた。とりあえずAmazonを開いて、ヤカの触手に見せる。
「操作方法わかる? お金だけはあるから、好きなものなんでも自由に買っていいから」
ヤカの触手は、びっくりしたように伸びた。
「どうしたの?」
ヤカの触手はまた書きつけた。
{自由にというのは初めてだ}
「そうなの?」
{おこぼれか、許可制しかなかった}
「許可制? 許可するような人がいたの?」
{掛川氏に買ってほしいもののメモを書いていた、却下されることもあった}
「そうなんだ……」
買い物も自由にできないの、きついな……。
私はヤカの触手が見やすい位置にタブレットを置いた。
「本当になんでも買ってよ、楽天もヨドバシもいくらでも使っていいからね」
ヤカの触手はタブレットに触れ、最初はたどたどしかったが、タップのコツを飲み込んだらしくて、すぐにいろいろなページを見始めた。
{パソコンとさほど変わらないな}
「パソコン使ったことあるの?」
{掛川氏が寝ている間によく調べ物をしていた}
「そうなんだ……Amazonのアカウント、私と共有で悪いけど、自分のアカウント欲しかったら適当に作ってね、クレジットカードとか改めて作るし」
{そんなにいいのか?}
「見られたくない買い物とかあるでしょ?」
{あるかもしれない}
そんなこんなで、私はUber経由でスーパーの食べ物を買い込み、ヤカのリクエストの品も買った。ヤカはタブレットをいじってAmazonや楽天を見て回っていて、しばらく2人で作業していたら、Uberで買ったお昼が届いた。ヤカが玄関からケンタッキーの包みを持ってきてくれて、2人でのお昼にした。いただきますをして、ヤカの触手はフライドチキンをひとつ取って、それから照り焼きツイスターの包みを開けてる私を見て何か書きつけた。
{あなたにはもっと食べてほしい}
「えー? これで十分よ?」
{明らかに十分食べていない、体格的に}
「そうかなあ」
ヤカは持ってるフライドチキンを私に差し出した。
「え? くれるの?」
{食べてほしい}
「じゃ、ありがたくいただきます……」
私はフライドチキンを受け取り、かじった。久々の油の味。全然サクサクしてない衣なんだけど、油と塩気がたっぷりで、快楽が脳にダイレクトでくる。肉は柔らかくてしっとり。たまに食べるとおいしいな、いや、誰かと食べてるからおいしいのかもね。
照り焼きツイスターもかじる。これは衣サクサクでピリ辛。レタスたっぷりなのもさわやかでいい。
ヤカはフライドチキンを骨ごと消化してしまって、フライドポテトにも手を付け始めた。私は烏龍茶を飲んで、大きく息をついた。
「いろいろやって疲れちゃった、午後寝ちゃうかも……」
{疲れさせてすまない}
「いいの、これは嬉しい疲れなの」
私はヤカに笑いかけた。
久々に人とたくさん話した、疲れたけど、とってもメンタルにいい。午後も、明日も、明後日も、こんな風にたくさん話して過ごせたらいいな。




