別視点 {お館様}とコミュニケーション
真希氏は朝起きてきて、しばらくぼんやりして、のそのそとベッドから出て、それからやっと私の書いたメモに気づいたらしくて、机にすっ飛んで行った。
彼女は信じられないといった顔でメモを読んで、そして、また泣き出してしまった。なぜ!? 安心させようと思ったのに!
真希氏は泣きながら「よ、よかった、よかったぁ……」とうめいている。これは……嬉し涙? そんなに心配してくれていたのか?
真希氏はやっと泣き止んで、鼻をすすりながらティッシュを取って顔を拭き、鼻もかみ、まともな顔になってから「あの」と虚空に向かって話しかけた。いや、虚空ではないか、{私}に話しかけているんだ。
「あの、本当によかった、あなたが無事で本当に嬉しいです……その、無理に姿現さなくても全然大丈夫です、でも、メモでたくさんやり取りできたらとっても嬉しいです……」
それは……やぶさかではないが。しかしどうしようか、大量のやりとりは顔を合わせてでないと難しいと思う。
いや。真希氏は、私の姿を見て、透明でぐにゃぐにゃで粘液めいた姿を見て、それでも私に怯えないでくれていた。むしろ心配してくれていて、私が無事だと伝えたら嬉し泣きしたくらいだ。どうしようか……触手のひとつくらいなら、出してみてもいいだろうか?
私は思い切って、机の隙間からにゅるりと触手を出した。真希氏は目をまん丸くした。
「お館様!?」
真希氏は驚いてはいるが、おびえてはいないようだ。
「お、お館様ですよね!? そんなところにいたんですか!?」
嫌悪感も感じない。よかった。
声を出すのは慣れていないから、私はまたペンに頼ることにした。触手でペンを取り、こう書き込む。
{やり取りならいくらでも。私はここにだけいるわけではなくて、館のすべてに染み渡っている。声でやり取りするのは、もう少し待って欲しい。しばらくはこの形で}
それを読んだ真希氏は、「本当ですか!?」と騒いで、それで、「わっ、私そういえば自分のことなんにも話してなくて!」と言い始めた。
「あっあのっ、よければ改めて自己紹介しあったりとか……どうですか、ダメですか?」
私はペンで返事を書いた。
{やぶさかではないが、その前にしっかりと朝食をとってほしい}
放っておくと、真希氏は本当に食べない。あまりにも細いのは絶対にそのせいだから、本当になんとかしてほしい。
真希氏は私の返事を見て目をぱちくりとさせ、自身でも食べていないことに思い当たりがあるのかしょんぼりして、「いつもすみません……食べます……」と冷蔵庫に向かった。




