表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない ~家の裏の第零迷宮から世界を攻略する~  作者: HATENA 
第四章 全迷宮の根

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/25

第十六話 一万の入口

 四月九日の朝、点滴の管が寝返りに引かれて目が覚めた。


 右肩は縫い直され、左腿にも新しい糸が入っている。肋骨は折れていなかったが、深く息を吸うと昨日よりはっきり痛んだ。


 枕元でステータスを開く。


――――――――――

HP:19/76

MP:3/18

――――――――――


 一日近く眠り、補液と食事を入れても戻ったのはこれだけだった。傷口は閉じられている。だからといって、身体を起こせる数字ではない。


 スマートフォンには、父から動画が三本届いていた。


 一本目は庭だった。午前六時十二分。物置の壁際でガルが伏せている。古い鍋に水と肉を置いても、父が近くにいる間は顔を上げるだけで口をつけない。


 二本目は木戸の鍵を映していた。外から掛けた南京錠を揺らし、父の声が入る。


『木戸は閉まる。ただ、奥の壁はそのままだ。消防には連絡した』


 三本目を開く。


 工具棚の奥へ、黒い核保管室が続いていた。父は中へ入らず、物置側から撮っている。画面の右端に青白い輪が半分だけ映り、左の壁には昨日なかった光が広がっていた。


 動画を一度止め、再生位置を少し戻す。


 父が工具棚へカメラを向ける直前、右側に何か映っていた。


 拡大すると、黒い壁へ大陸の形が浮いている。地図としては輪郭が粗く、国境も都市名もない。それでも日本列島と、その周囲へ散った光点は分かった。


 父の足音が近づくと、壁の文字が明るくなった。


――――――――――

地表接続概況


世界地表への接続反応:14,612

魔物流出警告:286

第零迷宮接続:1


個別位置情報は未開放です。

――――――――――


 動画の中で、父が何か言った。


 音量を上げて最初から聞き直す。


『これ、お前には読めるのか』


 文字は動画にも映っている。俺だけに見えているわけではないらしい。


 地震直後、入口らしきものの報告は一万を超えたところで集計中へ戻った。あれから一週間、公的に確認された数もまだ一万余りとしか発表されていない。


 壁にあるのは、一万四千六百十二。


 海上にも、山の中にも光がある。細い島には何もないように見えて、拡大すると端へ小さな点が重なっていた。


 まだ誰にも見つかっていない入口がある。


 そのうち二百八十六箇所では、もう何かが外へ出ようとしている。


 病室のテレビでは、海外の空港へ現れた入口を軍が封鎖したという映像が流れていた。滑走路へ並んだ車両の向こうで、黒いものが一度だけ起き上がる。画面はすぐ官房長官の会見へ切り替わった。


 テレビを消した。


 父へ電話をかける。


『起きたか』


「三本目の壁、文字まで映ってる」


『読めた。一万四千って、入口の数か』


「たぶん」


『たぶんで消防に見せろって言うのか』


「隠しても、物置ごと見つかるだろ」


『明日の十一時に来る。昨日、お前を運んだ隊の人だ』


「誰」


『神崎さん。前に学校の方へ入った隊員らしい』


 聞いたことのない名前だった。


『あと、ガルは食ってない。お前がいないからか、俺が見てるからかは知らん』


「置いとけば食う」


『お前が置いたみたいに言うな。肉を買ったのは俺だ』


 通話が切れた。


 父は命令するなと言われたのを気にしているのか、ガルへ近づかずに動画を撮っていた。肉を庭へ置いて離れるところまでは、自分で考えたらしい。


 午前十時を過ぎると、大学から何度も通知が来た。


 新入生ガイダンスは再延期。履修登録の期限も延び、代わりに一年生だけの接続確認を行うという。参加できない場合は後日でもよいと書かれていた。


 欠席の理由へ「入院」と入力しかけ、消した。


 病室のベッドからでも接続はできる。カメラを切り、表示名だけ本名へ直した。


 画面には十人ほどの名前が並んだ。担当教員の声は何度か途切れ、そのたび誰かの生活音が入る。食器を洗う水、子供の声、遠くの防災無線。大学の教室へ一度も集まっていないのに、全員が同じ一年生として扱われていた。


 共有された資料が四ページ目で止まる。


『大月さん、見えてます?』


 女の声がした。


 参加者一覧で、三枝千紘という名前の横だけ音声の印が動いている。小さく開いた映像には、肩までの髪と、片耳だけに入れた白い有線イヤホンが映っていた。


「見えてる」


『よかった。返事なかったから、固まったのかと思って。先生の方が止まってるみたいです』


 言われてから、担当教員の映像が同じ顔のまま動いていないことに気づいた。


「別の動画見てた」


『じゃあ、資料は見えてるんですね。あ、提出、今日じゃなくなったそうです。月曜まで』


「分かった。ありがとう」


 三枝は頷き、画面の外へ目を向けた。


 そのまま動かなくなる。


「今度はそっちが止まった?」


『止まってないです。今、音がしたから』


「何の」


 三枝はイヤホンを外し、窓の方へ顔を向けた。マイクへ入るのは風と、どこかの車が走る音だけだった。


『久世駅の二番線です。発車する時の音』


「駅、動いてないだろ」


『はい。四月二日から一度も』


 答えながら、机の上へ別のスマートフォンを置く。録音画面らしい赤い丸が一瞬だけ見えた。


「聞き間違いじゃなくて?」


『毎朝聞いてたので。いつもの音より、最後に低い音が一つ多かったですけど』


 三枝は窓を少し開けた。外の音が大きくなり、カーテンが画面へ入る。


『もう一回鳴るか、少し待ちます』


 担当教員の接続が戻り、途中だった説明を何事もなかったように始めた。


 三枝の音声は消えた。小さな映像は残り、机の端へ置かれたスマートフォンの赤い録音表示が点いている。


 父の動画へ戻る。


 日本列島の中央付近で、ほかより少し大きな光が明滅していた。久世市かどうかまでは分からない。


 光は一度消え、少し遅れて同じ場所へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ