ランキングという名の「おままごと」
学園内の掲示板に貼り出された『ルミナス・ランキング』の表を、私はジークと一緒に眺めていた。
「へえ、ジーク。この学園には、生徒を順位付けするおままごとがあるのね。上位に入れば生徒会入りできるって書いてあるけれど」
「……お嬢様、それは『おままごと』ではありません。学園武闘祭のランキング戦です。上位5名は生徒会執行部への参加資格を得ますが、それは単なる名誉ではありませんよ」
ジークが深い深い溜息をついた。
「この国の『世界の調律システム』に対するアクセス権を持つ者は、ただ三人。国の主である『国王』、中立の管理者である『生徒会』、そして誰にも正体が明かされていない『市民代表』。この三つの権利のうち、過半数を掌握した者が、この国のシステムの決定権を握ります。生徒会はその一つを担う、極めて重要な機関なのです」
「……は? なにそれ。私が直接、生徒会長室の扉を『全貫通』して、書類を全部燃やせば解決するじゃない」
「……お嬢様。それをやれば学園の結界が暴走し、王都の半分が消し飛びます。それに、生徒会室はシステム調整用の唯一のコンソールであり、正当な権限なしに破壊すれば国家反逆罪として指名手配です」
ジークは真顔で恐ろしい事実を淡々と解説した。
なるほど。力押しで扉を破れば、即座に国を敵に回す仕組みか。よくできているわね、この腐ったシステムは。
そんな会話をしていたときだった。
「おままごと、か。……随分と物騒な例えをするものだな、転校生」
静かな廊下に、規則正しい革靴の音が響く。プラチナブロンドの髪に、まるで氷のような冷たい瞳を持つ青年――現生徒会長のオスカーが、背後に立っていた。
「生徒会長のオスカーだ。……君が最近、学園で『全貫通』などと騒がれている【黒華】か」
オスカーは私を値踏みするように見つめると、冷笑を浮かべた。
「この国のシステムは、国王、生徒会、そして正体不明の市民代表による多数決で管理されている。私たちが中立という建前で権限を委譲されているのは、独裁を防ぐための『均衡』が必要だからだ。市民代表が誰であるか、王家ですら突き止められぬ以上、我々は常に『2対1』の心理戦を強いられている」
オスカーの瞳が、わずかに揺らぐ。傲慢な支配者ではなく、巨大な重圧に耐え続ける者の目だ。
「権限が欲しいならランキングを駆け上がれ。君という不確定要素が、この中立の秤をどう揺らすのか、管理者として見ていてやろう」
オスカーが去った後、私は拳を握りしめた。
国王、生徒会、そして市民代表。
その三つの柱を知れば知るほど、この国がいかに脆いバランスの上に成り立っているかがわかる。
「……ジーク。聞こえた? 生徒会になれば、国の裏側の決定権の一つが手に入るのよ」
「……はい。ですが、お嬢様。それは同時に『国王派からも黒幕からも命を狙われる』というサインでもあります」
「望むところよ。市民代表の正体すら突き止めて、その権利ごと全部まとめてハッキングしてやるわ」
その時、廊下の向こうからエリオットが走ってきた。彼はレオナの好物である高級焼き菓子を携え、少し焦った様子で駆け寄ってくる。
「レオナ、聞いてくれ! ランキング上位陣が君を排除しようと結託しているんだ。だが……君なら、その罠ごと全部粉砕してくれると信じているよ」
エリオットは菓子を置くと、情熱的に微笑んだ。
「僕は君が頂点に立つ姿が見たい。……君の隣が、一番心地よいからね」
「……随分と遠回しな告白ね、エリオット。……でも、ありがとう」
エリオットが去った後、私は窓の外を見下ろした。
【黒華】。
学園の生徒たちは、いつの間にか私をそう呼ぶようになっていた。
(待ってなさい。生徒会長も、その裏にいる黒幕も。……どんなに堅い結界だろうと、私の魔法が全てを暴いて書き換えてあげるわ)




