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叡智の結晶、すまーとふぉん!

 ミカドはまた頭を抱えていた。


(ラナが家にやって来てから一週間……こちらの世界にも慣れてきたのか、最近はやけに楽しそうにしている……俺が教えた機械も完全に扱えるようになってるし、まあそれは良いことなんだが……なんか居候って感じがしない……)


 そう、ミカドはラナの働きっぷりに感心しつつも、少し心配していたのだ。


(ここまで色々してもらうと、流石に申し訳なくなってくる……俺なんてここに住んでるのに、遅寝遅起きのポテチ生活を送っていたワケだし、なんなら俺の方が居候まである……そうだ!)


 ミカドは何かを思いついたように、自分の部屋から飛び出した。


 部屋を出てリビングへ向かうと、相変わらず掃除をしているラナがいた。


「ラナ!」


「お? 起きたのかミカド、おはよう!」


「おはよう!……じゃなくて! ラナに話がある!」


「わ、私に話? 何かまたやらかしてしまったのか……!?」


「違う! 全っ然そんなことない、むしろその逆だ!! ラナ、お前は働きすぎだ!」


 まるで親のように、ミカドはラナへ言ってみせた。


「い、いやでも私、ここに居させてもらってる立場だし、少しでも役に立たないと……」


「だからってこんなに色々することない! もうリビングどころか俺の部屋も! 風呂場も! トイレも! ベランダも全部! 誰もが驚くぐらいピカピカなんだぞ!!」


「私はまだそんなことしかできていない。まだまだ働かないとダメだろ?」


「んなこたない! そんなに働かれると俺の存在が消えそうで逆に困る!」


「な、何を言ってるんだ?」


 キョトンとした表情でラナはミカドを見つめた。


 ミカドは身振り手振りを交えながら言う。


「と、とにかく! ラナは一回休め! 一週間ずっと無休で無給だろ!? そんなブラックなとこじゃないぞ、うちは!」


「休むだなんてそんな……これくらい朝飯前だぞ?」


 謙遜するラナへ、ミカドは言い放った。


「やっ! すっ! めっ!」


「わ、分かったよ……でも休むったって、特にすることもないだろ?」


(確かに……俺の部屋にはPCとかあるからアニメやゲームやら色々できるけど、こいつには普段の娯楽がまだ存在してない……強いて言えばテレビぐらいだろう。なんかないか……なんか……)


 ミカドは考える人の像のように固まって考え込んだ。


(……娯楽。俺は基本インドアだからな、アニメゲーム漫画等々なら満載なのだが、ラナが好きかどうか分からん……はっ!?)


 その瞬間、頭に眩い光が走った。


 まるでDBの孫◯飯が覚醒した時のように。


「そうだラナ! お前に良いものをやろう!」


「いいもの……?」


 そうして持ってきたものは——


「じゃんじゃじゃーんっ!! たまたま余ってたスマートフォン~!!」


「すまーとふぉん? なんだそれは?」


「聞いて驚け、見ても驚け! このスマートフォン、通称スマホは、人類の叡智が全て詰まっているのだ!!」


 そうしてミカドは、スマホのホームボタンをポチッ! と押した。


「お、おおぉぉ!?」


 そう、人類の叡智。その化身は——


「……なんにもならないぞ?」


「あっ、充電切れてた」


 充電がゼロパーセントだった。


 ——しばらくして。


「充電完了! これがスマホだ!」


 もう一度ホームボタンを押す。


「お、おおぉ!」


 今度は確かに画面が光った。


「こ、これは一体何ができるんだ?」


 ラナはワクワクした表情でスマホを見つめる。


「まずは、そうだな。このカメラって書いてあるアイコンを押してみてくれ」


「かめら? あいこん? もしかしてこれのことか?」


「そうだ! それを指で軽く押すんだ!」


「軽く押す……!? ミカドっ! なんか急に画面が変わって、これは一体!?」


「そのスマホを俺の方に向けてみろっ!」


「分かった……な!? ミ、ミカドと瓜二つ、というかもう同一人物が映ってるぞ!? 鏡か何かなのか!?」


「よし! そしてその下にある白丸を、俺の顔が映るように押してみろ!」


 ラナは言われた通りに動く。


「白丸……これか!」


 ラナがポチッと白丸を押すと、カシャッ! という音がリビングに響いた。


「な、なんか音が鳴ったぞ? 大丈夫なのか?」


「よし、ちょっと貸してみろ」


 ミカドはラナからスマホを受け取ると、先ほど撮った写真を開いて見せた。


「こ、これはなんだ? さっき押した時の……」


「これは写真だ。このカメラってモードで白丸を押すと、このスマホの先にある物を画像として保存できるんだ!」


「つ、つまり私はさっきミカドを撮ったってことなのか?」


「そーゆうこと」


 それを聞いたラナの目がキラキラと輝く。


「なあなあミカド! 私を撮ってくれないか!」


「え? あ、ああ良いぞ、何枚でも撮ってやる!」


 そうしてミカドは、ソファに座るラナへスマホを向けた。


「その、チーズとかしなくて良いのか?」


「ちーず? あの食べ物のことか?」


「あー、違くて……あれだ! なんかポーズを取ってくれってことだ!」


「ポ、ポーズか……そう言われると中々困るな……」


 ラナはソファの上でモゾモゾしながらポーズを模索する。


 そして、一つの形へ辿り着いた。


「こ、これ……とか……」


 ラナはソファの前に置かれた机へ手を置き、その上に顔を乗せた。


 ミカドは思った。


(か、かわいいッッッ!!!)


 どの漫画にも、アニメにも、ラノベにも、こんなに可愛い少女がいただろうか、と。


「な、なあミカド……なるべく早く撮ってくれないか?……結構恥ずかしい……」


 少し赤面しながら視線を逸らすラナに、ミカドは——


(めちゃくちゃかわいいッッッ!!!!)


 完全に脳を焼かれていた。


「わ、分かった! 撮るぞ!」


 ミカドが気を取り直すように声を張ると、


「お、おう! どっからでもこいっ!」


 と、ラナも対抗するように声を張った。


「い、いくぞ……はい! チーズ!」


 カシャッ! という音が鳴る。


「も、もういいぞ! そのしゃしんを見せてくれ!」


 ミカドは写真フォルダから、先ほど撮った写真をラナへ見せた。


「……なあ、ミカド……」


 ラナは少し俯いた。


 ミカドは思わず身構える。


「は、はい……?」


 ラナは落ち着いた声で呟いた。


「私、すっごく可愛くないか……?」


「めっっっっちゃかわいいッッッ!!」


 ミカドは即答で叫んだ。


「本当にこれが私か!? 元いた世界の、いや、こっちの世界でもだが、鏡で見た時よりもうんと可愛く見えるぞ!?」


「このポーズだよ! これ完全にかわいいもん! いや可愛すぎる!」


「だよな! 私可愛い……」


 無邪気に喜んでいたラナが、ふと何かに気づいたように顔を真っ赤に染めた。


「かわいい……私、今かわいいって言われて……」


 ラナは小声で呟く。


「ん? なんて?」


 聞き取れなかったミカドが問い返す。


「な、なんでもない! それにしてもこれはすごいな! このすまほというのは!」


 ラナは話を戻すように言った。


「ああそうだろ! なんたってこんなにラナを可愛く撮れるんだからなっ!」


 ミカドはもう、自分がどんなことを言っているのか理解できていなかった。


「なっ、かわっ!?」


 ラナは思わず声を漏らす。


「も、もういい! 可愛いのは分かったからもう言わなくて良い!」


 しかし、その抵抗する姿すらミカドには——


(ダメだ……どう見たって写真より今目の前にいるラナの方がかわいい……)


 そう思えてしまっていた。


(いや確かに、拾ってきた時からずっと美少女だとは思ってたし、今までも可愛いとは思ってたけど! でも! なんか今ものすごく、補正がかかったように可愛く見える!)


「いやでも、やっぱりかわいっ……!?」


「もう言うな! 言わなくて良い!」


 ラナは咄嗟にミカドの口を押さえた。


「私から言い出したのは確かに悪かった。だけど! 言わなくても良いって言ってるのに言いたがるミカドは少し意地悪だと思うぞ! もう少し私のような健気な女の子の気持ちを理解しようとした方が——ミカド?」


 ミカドは押さえつけられた口と、ついでに巻き込まれた鼻のせいで完全に呼吸ができず、白目を剥いていた。


「ミ、ミカドっ!? ご、ごめんミカド! わざとじゃなくて!」


「ぷはぁっ!! はぁ、はぁ……いや、良いんだ、おかげで我に帰った……」


 ミカドは、自分の行いを思い返して恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 そして過ちを償うように——


「よし! とりあえずスマホでやれることを全部教えよう!」


「ま、まだやれることがあるのか!?」


 意気揚々とスマホを掲げながら、ミカドはラナへスマホについて教え込んだ。


 一時間、二時間、四時間——


「はぁ……死にそう……」


 どんな質問にも答え続けたスマホ教室により、ミカドはあの時のように死にかけていた。


「ありがとうミカド! この叡智の集合体をこんな私にくれるだなんて!」


 また目を輝かせるラナを見て、ミカドは微笑む。


「あぁ、いいさそんなもん……」


「そういえば、さっき教えてくれたこのL◯NEってやつ、これミカドもやってるのか?」


「一応な……」


「なあミカド! 友達になろう!」


 その言葉を聞いて、ミカドはなんとも言えない気持ちになった。


 L◯NEの話であることは分かっている。


 それでも、なんだか現実の今を指しているようで——


 居候と家主という関係じゃなくて。


 今日で一歩、距離を深めたようで。


「……そうだな、友達になろう」


 ガムテープが貼られたリビングの窓。


 綺麗に片付けられた漫画。


 そして、ソファの上で友達になる二人。


「よし、これで遠くでも話せるぞ」


「そうだな! これでミカドが夜コンビニに行ってても話せるぞ!」


「いくらなんでも、ちょっとの外出の間も話すのは……」


 綺麗な夕方の陽が、二人を仄かに照らしている。


「でも……これで友達だな……これでいつでも話せる……そうだ!」


 ミカドはまた何かを思いついた。


「ど、どうしたミカド?」


「明日、外へ出よう!」


 そしてラナは、新たなる世界へ一歩踏み出すことになる——


「え?」


「出ようッ!!」


「え~ッ!?!?」

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