外出前
——ミカドとラナは、今日初めての外出をしようとしていた。
「ミカドっ! 外にはどんなものがあるんだ?」
「俺とお前が出会った道路の近くのコンビニとか、スーパーっていう色んな物が売ってる場所とか、少し遠くには公園とか色々と……」
「聞いた私が悪いけど、知らない単語ばかりで頭が痛い……」
しかし、外へ出る前から問題は山積みだった。
「それよりお前、その格好で行くのか……?」
「こっちの世界では、こういう服が一般的なのだろう?」
「まあ、確かに一般的だし、割と似合ってはいるんだが……」
ここ数日、ラナが家に来てからというもの、ミカドは『服』という問題に直面していた。
当然ながら、ラナはこの世界へ来た時の服以外を持っていない。
そのため今はミカドの服を着ているのだが——
どうにもミカドは落ち着かなかった。
家の中ならまだいい。
だが、自分が着ていた服を美少女が着て外を歩くのは、なんとなく気恥ずかしいのだ。
「なあ、ラナ……服屋に行かないか?」
ミカドは提案した。
「服屋? それなら私の世界にもあったし、もっと見たことのない場所に行きたいぞ」
ミカドは考える。
(このままじゃ、これからずっと俺の服を着せて外に出ることになる……それだけはなんとなく嫌だ……!)
「服屋に寄って、お前に似合う服を買ってから遊びに行こう! な?」
「そ、そんなにこの服装はダメなのか……?」
「ダメってわけじゃないんだが、もっと女の子らしい服を着てもいいと思うんだ。人にも見られるわけだし」
「でもミカドは、そのじゃーじってやつしか着ないじゃないか。お前もお洒落するべきだろ」
(ごもっとも!!!)
ミカドは悔しくも認めた。
——しかし、それでも嫌なものは嫌なのだ。
ミカドは意地でもラナを服屋へ連れて行く決意を固めていた。
「じゃあ俺も服買うから、ついでにお前のも買って、そのまま遊ぼう……」
「んー……まあ、仕方ないな。そうしよう!」
「よっしゃぁっ!」
ミカドの押し切りは見事成功した。
——だが、次なる問題が立ちはだかる。
(靴がねぇ……!!)
深刻な問題だった。
(忘れていた……服のことばっか考えてたせいで忘れてた! あいつと出会った時、確かに裸足だった!)
あるのは白いスニーカーとクロックス。
どちらを履かせるかは明白だった。
(金も母さんが残してくれてたのがまだたんまりあるし、服買って、色々回って、こいつを満足させたら任務完了だ……)
玄関でそう考えていたミカドの前で、ラナは裸足のまま立っていた。
「早く行こう! 服買ったら探検だぞっ!」
裸足ではしゃぐラナを見て、ミカドの視線は完全に足元へ吸い寄せられる。
「あの……ラナさん? なぜ裸足?」
「? 裸足じゃダメなのか?」
「お前らの世界にも靴ぐらいあったろ!!」
「私は基本、靴は履かないんだ。あっちの世界では裸足でも何も言われなかったしな!」
(本当にこいつ、王国仕えの魔法士なのかっ……!?)
「こっちの世界では皆靴を履くんだ! このスニーカーやるから履け! ……いや待て、お前、靴下は?」
「ん? あれなら恐らく洗濯に……」
「なんでお前、家来てから一度も履いてないのに洗濯に出してんだ!?」
そう叫ぶと、ミカドは洗濯機の前へ猛ダッシュした。
「そおらぁッ!」
勢いよく洗濯機を開ける。
そして——
「なっ……ないっ……」
探す。
「ない」
ひっくり返す。
「ない」
洗濯かごも見る。
「ない」
「靴下がなぁぁぁい!!!」
そう、靴下はよくある消失マジックによって消えていた。
(いや待て!? 一回も履いてない靴下が何故消える!? ていうか洗濯した覚えすらないぞ!?)
「そういえばなミカド」
「なんだ!?」
「この前掃除していた時、なんか小さい布だったから雑巾置き場に——」
「お前かぁぁぁぁ!!!」
犯人発見だった。
(外に出るって言った手前、ここで引くことは不可能……ならば!!)
ミカドは決断する。
「ラナ……そこのクロックスを履いてくれ……」
「え?」
「クロックスっ! 裸足で履けるから!」
「え? ま、まあ良いが……」
そうして、なんとかミカドたちの準備は整った。
(いやしかし……どう見ても俺より男みたいな服装してるよな、こいつ……)
ミカドはラナの姿を見つめる。
そんな視線に気づいたラナは、小さく首を傾げた。
「あぁ……とりあえず良い服、探そうな……」
「ん? あ、あぁ。こっちの世界の服も少し興味が出てきたからな、楽しみだ!」
こうして、少しおかしな二人は玄関の扉を開け、夏の陽が照る世界へ踏み出した。
ドタバタはきっと、まだまだ続く——




