[91]
3年4組。
ガラッ――
教室の扉を開け、
ケンケンと由美が中へ入る。
「おはよー」
「うーっす」
クラスメイト達はいつも通りだった。
笑い声。
雑談。
騒がしい朝。
だが――
2人は、
すぐに異変へ気づく。
「・・・・」
「・・・・あれ?」
教室の一角。
本来なら、
そこにいるはずの人物。
入来翔の席。
そこが――
綺麗さっぱり消えていた。
席そのものが無い。
最初から、
存在しなかったかのように。
由美の顔が青ざめる。
「・・・・ケンケン」
ケンケンも、
表情を強張らせていた。
「・・・・ござるな」
周囲を見渡す。
誰も、入来が居ないという違和感を抱いていない。
まるでそれが当然の景色と言わんばかりに・・。
由美は恐る恐る周囲へ聞いた。
「ねぇ・・・・」
「ショーくんは・・・・?」
「・・・・?」
クラスメイト達がキョトンとする。
「ショーくん?」
「誰それ?」
「芸能人?」
ザワッ――
由美の背筋に寒気が走る。
ケンケンも唇を噛み締める。
莉英奈が不思議そうに首を傾げた。
「ゆみ、どうしたの?」
「その“ショーくん”って人」
「えっ? りーなまで?」
「いや、だから入来先輩だよ!!」
由美は思わず声を上げる。
だが――
莉英奈の反応も同じだった。
「入来・・・・?」
「そんな人いたっけ?」
「転校生?」
「てか先輩なのに同学年って何?」
完全に入来の存在が認識されていない。
この一夜で消されてしまっている。
ケンケンと由美は、顔を見合わせた。
嫌な汗が流れる。
その時――
由美がハッとする。
「・・・・まこち」
教室を見渡す。
真子の席。
机はあるが真子は居ない。
由美の顔がさらに青ざめる。
「ま、まさか・・・・」
ケンケンも息を飲む。
香織はあっけらかんとしていた。
「あー、まこち?」
「まだ来てないだけじゃない?」
澪も頷く。
「学年1位様だからなー」
「余裕ぶっこいて寝てるんじゃね?」
クラスに笑いが起こる。
「たしかにー」
「真子ならありえる」
「朝弱そうだしー」
その反応を見て――
由美は少しだけホッと息を吐いた。
少なくとも。
真子はまだ皆の記憶に存在している。
ケンケンも小さく呟く。
「・・・・よかったでござる」
2人に安堵の空気が入ってきた瞬間。
ピコーン――
ケンケンのLIMOに通知が入る。
ケンケンはスマホを見る。
送信者――【真子】
由美も画面を覗き込む。
そこには短く書かれていた。
【ゆーみと屋上に来て】
「・・・・っ」
ケンケンと由美の表情が変わる。
玲子が不思議そうに見る。
「どしたの?」
ケンケンはサッとスマホをしまう。
「な、なんでもないでござる」
由美も慌てて頷く。
「う、うん・・・・!」
だが、2人とも焦っていた。
そして――
2人は顔を見合わせると、ほとんど同時に踵を返し教室の扉へ向かう。
「ちょ、2人ともー、どこ行くの?」
澪が聞く。
ケンケンは振り返らず答えた。
「ちょっと・・・・」
「用を思い出したでござる」
そのまま2人は、
急ぐように教室を飛び出していった。
そんな2人を見て理絵は羨ましそうに眺める。
「仲の良いお二人だことー」
澪は腕を組んで頷く。
「朝から見せつけてくれるよねー」
教室中に和やかな笑いが起きる。
そんな中、廊下を走る2人の足音が、妙に嶮しく響いていた。




