↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をやり直しますか? 〜YES or NO〜 【みんなの心の中が読み取れる少女は、やり直し高校生活でやりたい放題です】  作者: 相賜 奏合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/98

[89]

梅雨の夜だった。


空は分厚い雲に覆われ、

街灯の光さえ滲むような雨が降っている。


アスファルトを叩く雨音だけが、

夜の街に重く響いていた。


入来翔は――


傘もささずに歩いていた。


制服はとっくに濡れ切っている。


前髪から滴る雨水が、

頬を伝い、顎から落ちていく。


だが、気にも留めない。


今日の屋上での会話が、

頭から離れなかった。


「・・・・くそっ」


小さく吐き捨て、

タイムリープ前の自分を思い返す。


梶田をぶっ殺して――

少年院に入った。


刑期を終え、出所した頃には

時代はもう変わっていた。


昔の仲間も、

社会も、

冴子までも、

何もかも。


勉強ができても意味はない。

頭が良くても、

世間の目は変わらない。


“人殺し”


そのレッテルは、一生ついて回る。


どんな理由があろうとも、

人を殺めた時点で終わりだった。


だから俺は――

ヤクザになるしかなかった。


「・・・・」


雨が強くなる。

入来は、ゆっくりと空を見上げた。


あっちの世界で、

俺は結果を残した。


腕っぷしもある。

頭脳もある。


組に入ってからは、

あっという間だった。


信用を勝ち取り、

25で若頭。


30で組長。


そこから先は破竹だった。


勢力は拡大し、

俺の組は巨大組織の中で成り上がっていった。


そして――


俺は、巨大組織の頂点の一歩手前まで辿り着いた。


誰もが俺を恐れ、

誰もが頭を下げた。


金も。

女も。

権力も。


全部、手に入った。


なのに――


「・・・・渇いてた」


ぽつりと呟く。


心の奥が、

ずっと乾いたままだった。


何を手に入れても、

満たされない。


何かが、

決定的に欠けていた。


50になった頃。

組織のトップが死んだ。


それをキッカケに、

大抗争が始まる。


血と暴力の連鎖。


毎日、誰かが死んでいく。


そして俺も、最後は鉄砲玉に――


「チッ・・・・」


腹を撃たれ、

血を吐きながら倒れた。


薄れていく意識の中で、

思った。


なんなんだよ、俺の人生。


あの時――


冴子の家庭教師を、

梶田を殺さなかったら。


違う人生が、

あったんじゃないのか。


渇かない人生が。

普通に笑える人生が。


やり直したい。

あの頃に戻りたい。


そう願って意識を失った――


そして、目を覚ましたら、

高校生になっていた。


「・・・・」


雨の中、

入来は歩き続ける。


今度は。


今度こそ。


梶田を殺さない人生を送ろう。


そう決めていた。


そんな時だった。


“なんでも視えるヤツがいる”


そんな噂を聞いた。


石本真子。


最初は半信半疑だった。


だが、

実際に見て確信した。


「あいつ・・・・チートすぎるだろ・・・・」


すべての未来が見ているような言動。

異常な勘。

人の心を聞き取る常識外れの力。


自由で。

好き勝手で。

人生を楽しんでやがる。


「・・・・渇いてねぇ」


羨ましかった。


俺も欲しい。


あんな力が。


あんな自由が。


あんな人生が。


でも――


同時に、

違和感もあった。


"視えるだけなのか?"


妙に大人びた仕草。

言葉。

考え方。


授業も、

俺と同じでまともに聞いていない。


なのに点数は高い。


「・・・・まさか」


こいつも、

やり直してるんじゃねぇか?


そう思った。


屋上で聞いた。

やっぱりやり直してやがった。


だったら――


俺にも、

何か能力があってもおかしくない。


そう思った。


なのに。


あいつは言いやがった。


『能力は持たない方がいい』


「・・・・くそっ」

「あいつには俺の未来が見えている」

「碌なことにならないって・・・・」


入来の顔が歪む。


「なんなんだよ・・・・」

「俺は・・・・」

「どうすればいいんだよ・・・・!!」


ドンッ!!!


電柱に拳を叩きつける。


鈍い音。


拳の皮が裂け、

血が滲む。


雨と混ざり、

赤い雫が地面へ落ちていく。


その時だった。


――シャァン・・・・


静かな音。


金属が澄んで鳴るような、

不思議な音色。


入来の動きが止まる。


――シャァン・・・・


再び。


その瞬間。


ブワッ――


入来の周囲に、

半透明の結界が広がった。


「・・・・んっ!?」


雨音が消える。


世界が、

急に静まり返った。


雨は降っている。


だが、

結界の内側には一滴も入ってこない。


音も、

風も、

気配すら遮断されていた。


「なんだ・・・・これ・・・・」


入来は周りを見渡していると、暗闇から人影が向かってくる。


ゆっくり。


静かに。


そして、結界を何事もないようにすり抜けて中へ入ってきた。


その姿は僧侶のような衣。

長柄の煌びやかな錫杖を右手で持ち。

深く被った藁帽子。

顔は見えない。

雨の中歩み寄ってきたにも関わらず、一切濡れていない。


入来は目を細める。

「・・・・誰だ?」

「お前・・・・」


沈黙。


やがて。


僧侶は静かに藁帽子を外した。


入来の目が大きく見開かれる。


長い黒髪の女性。

整った顔立ち。

歳を重ねているように見えるが、

年齢は読み取れない。

しかし、見ていると惹かれてしまう。


入来は見惚れてしまうが、違和感を感じる。その女性僧には人間らしい感情がほとんどない。


無である。


ただ、静かな存在感だけがあった。


女性僧はゆっくりと口を開く。

「はじめまして、入来翔」

「私は――天音と申します」


「・・・・」

入来は言葉を失った。


ただ、

目の前の天音を見惚れることしかできない。


天音は静かに続ける。

「真子から能力を欲するなと言われて、悩んでいるのですね」


入来は即座に察した。


「・・・・お前」

「真子の知り合いか?」


「知り合い・・」


ほんの僅かに間。


「真子は、私の弟子です」


入来の口元が歪む。

「へぇ・・・・」

「なんだ?」

「俺に能力を授けてくれるのか?」


だが、

天音の表情は変わらない。


無。


まるで、

感情そのものが存在しないようだった。


「能力を欲すれば――」


静かな声。


「あなたは、このサーバーの“異物”と見做されます」

「それでも、良いのですか?」


「・・・・は?」

入来は眉をひそめる。


「サーバー?」

「何言ってんだお前・・・・」

「ここは地球だぞ?」

「パソコン世界じゃねぇ」

「訳わかんねぇ・・・・」


天音の目が、

僅かに細くなる。


「・・・・パソコン世界ですか・・・・」


――シャァン・・・・


錫杖の音。


「面白い発想の持ち主ですね」

「あなたを削除してもらう予定でしたが、気が変わりました」

「しかし、あなたをこの地に置いておくことはできません」

「一時隔離します」


――シャァン・・・・


「隔離場所で、ゆっくり話しましょう」


――シャァン・・・・


その瞬間。


天音の隣に黒い扉が現れた。


闇そのもののような扉。


見ているだけで本能が拒絶する。


死の恐怖。


理解不能の恐怖。


それが扉の奥から滲み出ていた。


天音はその扉へ歩いていく。


そして、振り返りもせずに言った。


「入来翔・・こちらへ来なさい」


スゥッ――


天音の姿が扉の中へ消える。


「・・・・っ」


入来は黒い扉を見つめる。


冷や汗が止まらない。


本能が叫ぶ。


“行くな”

“あれはダメだ”


だが――


血が滴る拳を握り締める。


「・・・・くそっ」


震える脚を無理矢理前へ押し出す。


「ここで逃げたら・・・・」

「何も変わらねぇ・・・・!!」


覚悟を決める。


そして――


入来は黒い扉の中へ足を踏み入れた。


入来が扉に吸い込まれたその瞬間。


結界も、

扉も、

まるで最初から存在しなかったかのように消え去る。


残ったのは――


降り続ける雨だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。