[76]
その場に、しばらく誰も動かなかった。
風の音だけが、草原を撫でていく。
真子は、満面の笑みのまま首を傾げる。
「え?」
反応がない。
「・・・・あれ?」
軽く手を振る。
「もしもーーし?」
沈黙。
次の瞬間――
「ふっざけんなあああああああ!!!!」
玲子だった。
地面に手をついたまま、顔を上げる。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔。
だが、その目は完全にブチ切れていた。
「なにこれ!!」
「なにこれえええええ!!!」
立ち上がる。
生まれたての子鹿のように足を震わせながら、一直線に真子へ向かう。
巫女服の襟を掴む。
「死ぬと思ったんだけど!?」
「ガチで!!」
「崖から飛ばされると思ったんだけどー!?」
真子はきょとんとしている。
「えー、でも飛ばしてないじゃん」
「結果論だろうがああああ!!」
玲子のツッコミが炸裂する。
横から澪も立ち上がる。
「無理無理無理!!」
「心臓止まるって!!」
「途中からおかしいと思ったもん!!」
「いや思ってないけど!!」
混乱している。
理絵はその場で泣きながら叫ぶ。
「うわーーーーん!!」
「怖かったああああああああ!!」
「ほんとに死ぬと思ったのーー!!」
香織も涙目で震えている。
「人殺しとか普通にやってたし・・・・!」
「校長先生、刺されたし!!」
その言葉で、全員が一瞬止まる。
ゆっくりと、視線が校長先生へ向く。
校長――
普通に起き上がっていた。
「いやぁ、いい演技だったでしょ?」
「・・・・・・」
「お前もグルかあああああああ!!」
玲子、再び爆発。
莉英奈はその場に座り込んだまま、額に手を当てていた。
「・・・・はぁ・・・・」
深いため息。
「全部・・仕組んでたってこと?」
真子はニコニコしている。
「うん」
即答だった。
莉英奈のこめかみに青筋が浮かぶ。
「うん、じゃない」
静かに立ち上がる。
ゆっくり歩いて、真子の前に立つ。
「説明」
低い声。
真子は少しだけ姿勢を正す。
「あ、はい」
指を一本立てる。
「今回のテーマはね――」
「いらない」
即切り捨て。
「なんでこんなことしたのかだけ言って」
真子はぶりっ子の素振りを見せる。
「だってー」
「私だけー、修学旅行にー、行けないなんてー」
「悔しいからー」
「思い出作りー」
「てきなー」
・・・・
「腹いせ?」
沈黙。
玲子はふるふるしている。
「殴るぞ」
莉英奈も冷めた目つきだ。
「一回、崖から落ちろ」
「もーっ、みんなー」
「こーわーいっ」
真子はクネクネしている。
その横で、由美はまだ涙を流していた。
震える声で言う。
「・・ケンケン・・」
その一言で、空気が変わる。
真子は少しだけ表情を緩める。
「大丈夫だよ」
軽く指を鳴らして名前を呼ぶ。
「ケンケーーン」
すると――
黒装束の中から一人が前に出てくる。
その男がフードを取る。
「・・・・ケンケン!!」
由美が駆け寄り、ケンケンを抱きしめる。
ケンケンは頭をかきながら笑う。
「いやぁ・・なかなかハードでござった」
「無事でよかったぁ!」
由美は抱きついたまま泣き崩れる。
ケンケンは少し困った顔をしながらも、優しく由美の背中を叩く。
その光景を見て――
全員の緊張が、ようやくほどけた。
だが。
「・・・・で?」
玲子が腕を組む。
「まだ終わってないよね?」
6人が真子を睨む。
莉英奈はまだ冷めた目だ。
「まこ・・・・」
「正座!!」
ドスの効いた莉英奈の言葉に真子は反射的に巫女姿のまま正座する。
「ちゃんと全部説明しなさい」
「はい、すません」
莉英奈
「まずさ、あのガイド、何者?」
「あー、彼女はー、そのー」
真子はしどろもどろ
すると鬼が歩み寄って面を外しながら話しだす。
「俺の彼女だ」
6人驚愕
「「「「「「えーーーーっ!!」」」」」」
鬼の正体は入来だった。
入来の横でピースサインをするガイド
「中西冴子だよ」
「同じ高校通ってたのに知らなかったんだね」
皆は言葉にできず口をパクパクさせている。
玲子はハッと意識を戻す。
「原田は?原田先生」
真子は正座したまま上を見上げる。
「原田せんせー、出てきていいよー」
ガサッ
草むらからカメラを片手に原田が現れる。
「いやーー、いい動画が取れたよー」
「この動画、カンヌいけるんじゃない?」
そう言いながら歩み寄る原田に玲子は苛立った。
「コイツ・・本当に殺すか」
皆は納得と言わんばかり頷く。
香織が尋ねる。
「じゃあ、クラスのみんなも?」
真子は続けて見上げる。
「みんなー」
黒装束全員がフードを取る
クラスのメンバーだった
玲子
「えーっ!」
「みんなもグルだったのーー?」
クラス全員首を横に振る
「いやいや、俺たちもやられた方だ」
「バスの中でテッテレーーってな」
莉英奈はまだまだ怒り心頭であった。
「まこ、ちょっとやり過ぎだよ」
真子は正座をしているが反省の色はない。
「えーーっ」
「でもさー」
「途中でバラしてるんだよ」
莉英奈
「なにをさ?」
真子
「ドッキリだって」
莉英奈
「はっ?」
「意味がわからないんだけど」
真子は溜息をつく
「御三方ー」
その声に堂崎、津田、桐谷が真子の横に並ぶ
莉英奈は真子が何を言いたいのか全くわからず、首を傾げる。
真子は肩を竦める。
「はい、3人、自己紹介」
「堂崎です」
「津田です」
「桐谷です」
莉英奈だけでなく、クラス全員何を言いたいのかわからなかった。
真子は深い溜息をつく。
「みんな頭硬すぎー」
「3人のなーまーえつ」
3人は再び自己紹介をする。
「ど・うざきです」
「つ・だです」
「きり・たにです」
真子はドヤ顔で説明する
「ど・つ・きり」
「ドッキリだよー」
一同驚愕
「はーーーーっ!?」
玲子
「んなもん、わかるかーーーぃ」
莉英奈はふるふると首を横に振る
「ほんと、この子・・・・」
「ぶっ飛んでるわ・・・・」
真子は褒め言葉と受け取り正座のままテヘペロポーズを決める。
「テヘペロ」
莉英奈は即突っ込み
「いや、褒めてないから」
澪は腕を組みながら溜息をつく。
「この子、このまま正座させとくか」
玲子は頷く
「そこで当分反省してなさい」
「みんな、こいつ放っておいて行こ」
そう言って歩き出そうとする。
真子は慌てて皆を止める
「あっ、みんな、ちょっと待って」
莉英奈は足を止めて顔だけを真子に向ける。
「なに?まだ何かあるの」
真子は東の方向へ指を差す
「あれ、あれを、みんなで見たかったんだ」
皆は、ゆっくりとその方向へ顔を向ける。
一瞬――
誰も、言葉を発しなかった。
水平線の向こう。
暗かった空が、わずかに色を変え始めていた。
深い群青が、
ゆっくりと、薄れていく。
その境界線から――
光が、滲むように溢れ出す。
やがて。
細い一筋の光が、
海と空の境界を切り裂くように現れた。
「……あ……」
誰かが、小さく声を漏らす。
次の瞬間――
太陽が、顔を出した。
眩しいほどの光。
海面が、一気に輝き出す。
金色の道が、
水平線から、こちらへと伸びてくる。
風が、吹く。
さっきまで感じていた恐怖も、
怒りも、
すべてを洗い流すように。
ただ、静かに。
ただ、優しく。
光が、その場にいる者すべてを包み込んでいく。
誰も、もう怒鳴らなかった。
誰も、泣いていなかった。
ただ――
その景色を、見ていた。
真子は、少しだけ微笑む。
「ね?」
その一言に、
誰も答えなかった。
けれど――
その場にいた全員が、
同じものを、見ていた。
同じ時間を、感じていた。
この瞬間は、
きっと、忘れない。
どんな形であれ――
一生、忘れられない思い出になる。
朝日は、静かに昇り続ける。
まるで――
新しい一日の始まりを告げるように。




