[73]
重苦しい沈黙の中――
莉英奈が、ぽつりと呟いた。
「ここは・・・・日本だよね・・・・」
玲子は顔を引き攣らせながら頷く。
「この人たち・・・・平気で人を殺してくる・・・・」
ケンケンが低く言う。
「りーな殿、打開策はござらんか・・・・?」
莉英奈は俯いたまま――
静かに首を横に振った。
そんなやり取りをしている間も狐巫女は桐谷に耳打ちをしていた。
やがて。
桐谷が口を開いた。
「お前たち7人は――」
「1日おきに人柱として、沢池様に身を捧げてもらう」
「まず、1人目、名乗り出ろ」
7人はまったく理解が追いつかず言葉が出ず、動けずにいた。
その時ーー
女性の声が響き渡る。
「早く1人目の人柱を出しなさいよー」
場違いなほど軽い声。
全員の視線が向く。
声は鬼の面をつけた者の背後からした。
すると後ろからひょこっと女性が顔を出す。
その顔を見た瞬間、7人は凍りついた。
「あっ・・・・!」
ガイドの女性だった。
莉英奈は唇を噛み締める。
玲子が指を差す。
「原田をやったのはアンタだろ?」
ガイドは肩を竦める
「やだー、私じゃないわよー」
一瞬で表情が冷たく変わる。
「証拠・・あんの?」
「くっ・・・・」
玲子は苦悶の顔を浮かべる。
ガイドはニコニコ顔に戻る。
「あなた達はこの島の噴火を鎮めるための人柱に選ばれたのよ」
「だから私が六丈島から連れて来たの」
「光栄なことよー」
「喜んで人柱になりなさい」
理絵は声を振り絞る。
「ふざけるんじゃない」
「人柱なんかになってたまるかー」
ガイドは高笑いを始める
「アーッハハハハハ」
「おめでたい子ね」
「この状況でよくそんな言葉が出てくるわね」
笑いが止んで、空気が冷える。
ガイドは肩を竦めて溜息を吐く。
「じゃあ、わたしが決めてあげる」
スッ……
指が向けられる。
ガイドが指を差したのは
ケンケンだった
「おい、そこのオタクメガネ」
「お前、1人目な」
皆がケンケンを見る
ケンケンは小刻みに震えている。
「桐谷!あいつを捕らえな」
ガイドがそう言うと
桐谷と島民が、一歩ずつ距離を詰めてくる。
靴音が、やけに大きく響く。
ザッ……ザッ……
逃げ場はない。
誰も、動けない。
ケンケンの呼吸が荒くなる。
(・・・・このままでは)
(本当に・・・・終わる)
脳裏に浮かぶ。
鬼人。
そして――入来。
(怖くても・・・・)
(行くしかないでござる・・・・!)
桐谷と島民がケンケンに近づいてきた。
ケンケンに手を掛けようとした時。
ケンケンが叫ぶ
「由美殿!!」
由美は反射的に、ケンケンの周りに結界を張った。
結界を身に纏ったケンケンは光の剣を出しながら踏み込む。
一直線。
狙いは――狐巫女。
そして狐巫女めがけて光の剣を振りおろす。
――バチィィィン!!
――止まった。
狐巫女の左手が、
その一撃を、受け止めていた。
光と光が、ぶつかり合う。
「なっ・・・・?」
ケンケンの目が見開かれる。
狐巫女の手は、
淡く光に覆われていた。
そして右手に持っている神楽鈴をひと鳴らす
シャン……
パリィィィン
由美が作った結界が、粉々に砕け散る。
光の破片が、空中に弾ける。
由美の声が、震える。
「えっ?うそ!」
守ったはずのものが、
“音ひとつ”で壊された。
ケンケンは狐巫女を見て驚愕する。
「えっ? まさか? 貴殿は・・・・」
その時、横から暴風のような拳がケンケンの横腹に突き刺さる。
「がはっ・・・・」
鬼の拳であった。
ケンケンの体が宙を舞う。
地面を転がり、
そのまま――
動かなくなった。
玲子、香織、理絵が悲鳴をあげる
「「「きゃーーーーっ」」」
桐谷が無言でケンケンを抱えて、
そのまま社の中に消えていく。
由美が涙を流しながら叫ぶ
「いやーーーーっ」
「ケンケーーーーン」
そして崩れ落ちる
「ケンケン・・・・返して・・・・」
そんな悲惨な光景があったとしても、ガイドは冷酷である。
「はーい、そしたら明日は由美だっけ?」
「アンタで決定ねー」
軽い口調。
あまりにも、軽い。
「んじゃ、またあしたー」
狐巫女、鬼、ガイドは踵を返してゆっくり歩き、森の中へと消えていった。




