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夕陽が赤く差し込む、どこかも分からぬ空間。
真子と、顔の見えない男が向かい合っていた。
真子は悪い顔をしている。
「ということでいかがでしょう?」
男も悪い顔をしている。
「お主も相当な、ワルよのー」
真子は薄ら笑いを浮かべる。
「いえいえ、お代官様に比べれば、私なんて足元にも及びませんぜ」
互いに見つめ合い、不適な笑いが響く。
「クァーっ、ハッハッハッハー」
⸻
ここはーー
東都・夜の初芝埠頭。
黄色い大型客船が停泊しており、出発前のざわめきに包まれていた。
西岡高校3年生
計300人は船に乗って一路、六丈島へと向かう準備をしていた。
玲子
「やっぱり、まこちが居ないのは寂しいね」
香織
「駅まで見送りに来た時は、そのままついて来るかと思ったけどね」
莉英奈
「まこちなら、やりかねんと思ったけど、案外素直に見送ったね」
由美
「まこちの分まで修学旅行たのしもうよ」
全員
「そうだねー」
澪
「船は何時間乗るのー」
理絵
「10時間だって」
澪
「なげっ!」
ケンケン
「朝、起きたら着いてるでござるよ」
担任の原田が声を上げる
「よーし、おまえらー、船に乗り込むぞー」
一同は楽しみという期待を胸に、六丈島へと向かうのであった。
高校生活で忘れられない旅のーー
幕開けである。
⸻
夜が明ける。
水平線の向こうから、ゆっくりと光が差し込み始めていた。
淡いオレンジが、海の上を静かに広がっていく。
波は穏やかで、空気はどこまでも澄んでいた。
そして――
巨大な船体が、その光の中から滑り込んでいく。
黄色い船体は、朝日と溶け合うように輝きながら、ゆっくりと港へと入港していった。
六丈島、到着である。
⸻
一行は港へと降り立つ。
潮の匂い。
少し強い風。
見慣れない景色に、自然とテンションが上がる。
澪
「クァ〜、着いたー」
由美
「寝てたとはいえ、長旅だったね」
玲子は背伸びをする。
「うわー、空気いいー」
香織は海を見ながら微笑む。
「ほんとだね」
皆は眠い目を擦りながら、朝日を浴びて集まっていた。
だが――
ケンケンだけが、少しだけ周囲を見回していた。
「・・・・?」
ほんの一瞬だけ、
何かに引っかかったような感覚。
(なんだ? この違和感・・・・)
だがすぐに、
気のせいかとメガネをクイクイさせながら流した。
⸻
原田が声を張る。
「よーし、4組集まれー!」
「ここからバスで移動するぞー!」
生徒たちがゾロゾロと集まる。
原田はキョロキョロと周囲を見回す。
「・・・・あれ、バスは?」
その時――
「4組の皆さまですかー?」
明るい声。
振り向くと、
“4”と書かれた旗を掲げたガイドが近づいてきていた。
にこやかな笑顔。
どこか作られたような声色。
「ご案内いたしますぅー」
原田は少し安心したように頷く。
「おお、助かります」
一同はガイドの後をついて歩き出す。
ザッ、ザッ、と足音が続く。
しばらく歩いたところで、
ガイドはぴたりと立ち止まった。
そして、くるりと振り返る。
「それでは皆さま」
笑顔のまま、手を差し出す。
「こちらにご乗船くださーい」
原田は固まる。
「・・・・え?」
目の前にあったのは――
船。
「いやいやいや」
「バスでホテルに行く予定じゃ・・・・?」
ガイドは変わらぬ笑顔で答える。
「校長先生からのご指示で」
「4組の皆さまは、先に遊覧船で観光するようにとお伺いしておりますぅー」
原田は眉をひそめる。
「そんな話は――」
だが、その声は掻き消された。
「うぉぉぉ!!」
「マジかよ!!」
「特別待遇じゃん!!」
「校長神!!」
「この船『黒潮号』だって!」
「カッケー!!」
一気にテンションが跳ね上がる。
眠気など完全に吹き飛んでいた。
原田は周囲を見渡す。
止められる空気ではない。
「・・・・はぁ」
ため息。
「・・・・まっ、いいか」
押し切られた。
⸻
4組一行は、次々と船へ乗り込んでいく。
ギィ……と、船体が波に乗ってわずかに軋む。
最後に――
ガイドが乗り込む。
その瞬間。
ふと、ガイドの口元が歪んだ。
――笑っていた。
だがその笑みは、
先ほどまでの“作られた笑顔”とは、
どこか違って、
不敵な笑みであった。




