[64]
春。
新しい制服に袖を通した初々しい生徒たちが、次々と校門をくぐっていく。
空は澄んでいて、風もどこか軽い。
今日から――
3年生。
真子は、玲子、澪、莉英奈と並んで歩いていた。
玲子が伸びをする。
「ついに3年かぁー」
澪が笑う。
「早いよねー」
莉英奈は少し現実的だった。
「受験とか考えると、全然笑えないけどね」
真子はのんびりしている。
「まぁなんとかなるっしょ」
玲子が即ツッコミ。
「お前はなっ」
少し間。
澪がふと口にする。
「てかさ、また同じクラスになりたいよねー」
莉英奈が肩を竦める。
「さすがに無理じゃない?」
玲子も頷く。
「8人も固まるとか、ありえんでしょ」
真子はあっさり言う。
「あるかもよ?」
3人が同時に真子を見る。
「「「ないないない」」」
そんな話をしながら、昇降口に到着する。
人だかり。
掲示板の前に、生徒たちが群がっていた。
「うわ、人多っ」
「見えないってー!」
あちこちから声が上がる。
「やった!同じクラス!」
「あー、別のクラスかーー!」
一喜一憂が飛び交っていた。
真子たちも人混みに紛れて覗き込む。
数秒後――
玲子が固まる。
「・・・・あれ?」
澪が横から覗く。
「なに?」
玲子は紙をもう一度見る。
「いや・・ちょっと待って・・・・」
莉英奈も覗き込む。
「・・・・どうしたのよ」
真子は普通に言った。
「みんな同じクラスじゃん、ほら」
3人が一斉に振り向く。
「「「えっ?」」」
玲子が指差す。
「3年・・4組・・?」
澪
「組も?前と一緒なんだけど・・・・」
莉英奈
「いやいや、そんなことある?」
真子は肩を竦める。
「あるじゃん、ここに」
沈黙。
玲子が呟く。
「・・・・どういうこと?」
⸻
4組の教室へ向かう。
だが――
廊下の様子がおかしかった。
人が溢れている。
しかも、全員が教室の前で止まっている。
「・・・・なにこれ」
澪が不安そうに言う。
玲子が近くの生徒に声をかける。
「ねぇ、どうしたの?」
振り返った生徒が小声で言う。
「いや・・その・・・・」
「教室に・・・・ヤバい人がいる」
「怖くて入れないんだよ・・・・」
「は?」
玲子が眉をひそめる。
莉英奈が前に出て、教室の中を覗き込む。
そして――固まる。
「・・・・え?」
澪が後ろから聞く。
「どうしたの? りーな」
莉英奈がゆっくり言った。
「・・・・入来先輩がいる」
「「えぇぇぇぇ!?」」
ざわめきが広がる。
そんな中――
真子だけが普通だった。
人混みをかき分ける。
「ちょ、まこち!?」
そのまま教室へ入る。
そして。
「せんぱーい、おはよー」
当たり前のように声をかけた。
窓際の席に座って外を眺めていた入来が真子に顔を向ける。
「・・・・おう」
玲子が叫ぶ。
「あんたなんでそんな普通なのよ!?」
真子は首を傾げる。
「ん?」
そして、さらっと言った。
「先輩、留年したからね」
空気が止まる。
周りの生徒たちが一斉に隣同士目を合わせ合う。
入来は頭を掻く。
「出席日数足りなかったんだよ」
「仕方ねぇ」
澪が小声でツッコミを入れる。
「てか・・学校来てなかったんかーい」
入来は平然としている。
「授業出なくてもテスト余裕だったしな」
「学校来なくても卒業できると思ってたんだが」
少し間。
「ダメだったらしい」
莉英奈が呆れる。
「いやいや、そりゃダメでしょ・・・・」
真子はニヤリとする。
「てかさー」
「もう先輩じゃないじゃん」
入来が眉をひそめる。
「はぁ?」
真子は楽しそうに言う。
「呼び方変えないとねー」
一歩近づいて。
「これからは――『ショーくん』でっ」
その瞬間。
空気が凍る。
入来がゆっくりと真子を見る。
殺気。
教室中がざわつく。
「ちょ、まこち・・・・!」
玲子が焦る。
だが――
数秒後。
スッと力が抜けた。
入来はため息をつく。
「・・・・好きにしろ」
真子は満面の笑み。
「よしっ、ショーくんで決まりね」
周りには、なんとも言えない空気が流れる。




