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春休み。
学校は、いつもより静かだった。
廊下には生徒の姿がなく、窓から差し込む春の光だけが床をゆっくりと滑っている。
掲示板には「新学期準備」の紙が貼られ、
教室の後ろには新しい教科書の段ボールが積まれていた。
誰もいない教室。
机と椅子はきちんと並び、黒板は綺麗に消されている。
まるで――
次の学年を迎える準備を、静かに待っているようだった。
季節は、少しずつ春へ向かっている。
立ち止まってしまい、
そのまま同じ場所に残る者もいるが、
ほとんどは学年が上がっていく。
時間は止まらない。
人も、場所も、少しずつ変わっていく。
そんな静かな春休みのある日――
真子たちは、駅前の商店街に集まっていた。
学校は静かだったが、町は対照的に賑わいを見せている。
駅前の商店街では「春の福来祭」と書かれた旗が風に揺れていた。
焼きそばの匂い。
お客を呼び込む声。
福引きのガラガラ音。
町内では毎年恒例のお祭りである。
その商店街を歩いていたのは――
真子、玲子、莉英奈、香織、理絵、澪、由美、そしてケンケン。
真子が腕を組んで言う。
「いやー、春休みって暇だよね」
澪がクレープを頬張る。
「暇だから来たんじゃん」
香織は屋台を見ながら笑う。
「毎年恒例で賑わってるね」
その時。
ケンケンが急に立ち止まった。
「・・・・む」
真子が振り向く。
「どしたのケンケン」
ケンケンは商店街の端を指差した。
そこには誰も居ないが、
小さなテーブルが置いてある。
その上には段ボール。
そこに手書きの紙。
【占い 100円】
玲子が笑った。
「なにこれ、怪しっ」
ケンケンは真子を見た。
「真子殿」
「これは真子殿の出番では?」
真子が首を傾げる。
「え?」
ケンケンは真顔で言う。
「真子殿、霊視でござる」
由美が吹き出した。
「たしかに」
理絵も笑う。
「ガチ占いじゃん」
玲子はニヤッと笑った。
「まこち、やれよ」
真子
「えー?」
莉英奈が肩をすくめる。
「暇なんでしょ?」
香織も笑う。
「やってみたら?」
真子は少し嫌そうな顔をするが、
周りがやるしかない空気になっていた。
「わかったよ・・じゃあ、やってみるよ」
⸻
数分後。
テーブルの前に置物のように座る真子。
紙を書き直す。
【霊視占い 100円】
ケンケンが呼び込みを始める。
「霊視占いでござるー!」
「当たるでござるー!」
玲子が笑う。
「商売人かっ、お前」
⸻
最初の客は、主婦だった。
「結婚指輪を失くしちゃって・・」
「旦那にバレたら怒られるのよ」
「どこにあるか、占ってくれない?」
真子は一切迷わず言った。
「財布、出して」
「えっ?」
主婦は戸惑いながらも、バッグから財布を取り出す。
真子はそれを指差す。
「小銭入れの中、破れてない?」
「そこから入り込んでる」
主婦は慌てて中を確認する。
「あっ、ほんとだ、破れてる・・」
「えっ、ちょっと待って・・」
指を入れて探る。
そして――
「あった!!」
指輪を取り出した。
周囲がざわつく。
玲子が顔を引きつらせる。
「マジ・・・・?」
「やっぱヤバいよ、まこち・・・・」
真子はドヤ顔で玲子を見る。
そのやり取りを見ていた通行人が足を止める。
気づけば、周りに人だかりができ始めていた。
⸻
次に座ったのは、男子高校生だった。
「恋愛運、見てもらえます?」
真子は男子の顔をじっと見る。
少しだけ間を置いて――
言った。
「彼女、できるよ」
男子の顔が一気に明るくなる。
「マジ!?」
「いつ!?」
真子はあっさり答える。
「いま」
男子
「・・・・は?」
周囲からざわめきが起こる。
「いやいや」
「ありえないだろ」
真子は周りを見渡し――
ひとりの女の子を指差した。
「その子」
クレープを食べていた女子が、
視線に気づいて振り返る。
「え?」
男子も振り向く。
「え?」
玲子も混乱する。
「え?」
真子はさらに追い打ちをかける。
「あの子ね、あなたのこと好きなの」
「ねっ?」
その一言で、女の子の顔が一気に赤くなる。
数秒の沈黙のあと――
小さく頷いた。
「・・・・うん」
周囲がざわつく。
「マジで!?」
「うそだろ!?」
そして――
本当に、その場で付き合うことになった。
誰もがドン引きである。
⸻
真子の周りを取り囲む人集りは、真子の能力に驚愕し、認めざるを得ない空気だった。
しかし、その空気を切り裂くように、男の声が響いた。
「おいおい、そんなヤラセ誰が信じるんだよ」
20代くらいの男が、もう1人と一緒に前に出てくる。
「くだらねーな」
周囲が少し静まり返る。
真子は気にした様子もなく口を開いた。
「右のあんた」
指を差す。
「今からソフトクリーム、服にベッタリつくよ」
そして、もう1人を見る。
「左の人は――」
「怖い人に連れて行かれる」
2人は顔を見合わせて笑った。
「は?」
「意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ」
「くだらねー、行こうぜ」
「おいっ、どけよ、邪魔だっ」
そう言って人混みを掻き分けて歩き出す。
――その瞬間。
ドンッ
ソフトクリームを持った子供がぶつかった。
「うわっ!」
白いクリームが、男の服にベッタリと付く。
「うわああああ!!」
その声に驚いたもう1人が、後ろへ下がる。
その足が、誰かの足を踏んだ。
「痛っ」
低い声。
振り返ると、いかにもな男が立っている。
「おい・・ちょっと来いや」
「えっ・・いや・・・・」
腕を掴まれる。
「ちょっ・・・・!」
そのまま、ずるずると連れていかれる。
⸻
静寂。
誰も言葉を発せない。
そして――
1人が、ぽつりと呟いた。
「・・・・すげぇ」
次の瞬間。
「うぉぉぉぉぉ!!」
大歓声が巻き起こる。
「なんだこれ!!」
「言った通りだよー!!」
「マジで当たってる!!」
商店街は、一気に熱狂に包まれた。
噂は瞬く間に広がっていく。
「西岡商店街に必ず当たる占い師がいる」
⸻
その後も、真子は学校終わりに商店街に駆り出されて占いを続ける。
知らぬ間に異名がつく。
『西岡の母』と・・・・
行列を捌く真子を横目に、
澪が素で突っ込む。
「高校生が母っておかしくね?」
莉英奈が溜息をつく。
「もうさ、なんでもいいんじゃね」
玲子も呆れる。
「お前もう人生相談所じゃん」
理絵はジュースを飲みながら言う。
「みんな未来気になるんだね」
⸻
その時。
後ろから声がした。
「石本ォォォォ!!!」
全員振り向く。
そこにいたのは――
担任の原田だ。
腕を組んで怒っている。
「お前なにしてるんだ?」
真子は素で答える。
「社会貢献」
玲子が即答
「絶対違う」
⸻
その日。
商店街の占い屋セットは教師に回収された。
しかし――
商店街ではしばらくこんな噂が流れた。
『春休みに現れた伝説の占い師』
『的中率は驚異の100%』
西岡市民は口を揃えて言う。
『あの娘は神の子』
――と。
その頃、本人は――
担任にガチで怒られていた。




