表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をやり直しますか? 〜YES or NO〜 【みんなの心の中が読み取れる少女は、やり直し高校生活でやりたい放題です】  作者: 相賜 奏合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/90

[60]

真子に冷たくあしらわれた香織は、教室に戻らず、そのまま廊下を歩いていた。


ふと気が付けば体育館に入口に辿り着いていた。


部活の声。


ボールが床を叩く音。


それを聞くだけで、胸が締め付けられた。


(黒田先輩・・・・)


その名前を思い浮かべるだけで、胸が苦しい。


(やっぱり・・・・やめようかな)


ふと、そんな考えが浮かぶ。

どうせダメだと分かっているなら。


言わないまま終わる方が楽かもしれない。


何も言わなければ、振られることもない。

傷つくこともない。


そう思った瞬間――


体育館から歓声が上がり、ふと体育館の中を覗き込む。


バスケ部員達が試合さながらの練習をしている。

しかし、そこに黒田の姿はないが、

香織の目には黒田の姿が映し出されていた。


シュートを決めてガッツポーズをする。

チームメイトと笑ってハイタッチをする。


その映像が鮮明に見えていた。


胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


(あぁ、好きだなぁ・・・・)


思わず、そう呟きそうになった。


今まで、遠くから見ているだけだった。

練習も。

試合も。

ずっと、ただ見ているだけ。


それでも楽しかった。


先輩が笑っているだけで、嬉しかった。


でも――


(このまま終わるのは・・・・)


香織は拳を握る。

胸の奥がじんわり熱くなる。


(振られるかもしれない・・)

(うん・・きっと振られる・・)


(でも・・それでも・・・・)


ふと、呟く。

「言わなかったら、きっと、ずっと後悔する」


何年経っても、

『あの時言えばよかった』って、

そう思い続ける気がした。


香織は俯きながらゆっくり息を吐く。


そして顔を上げた。


(よしっ)


心の中で、小さく呟く。


(言おう)


結果なんてどうでもいい。


ただ――


この気持ちだけは、ちゃんと伝えたい。


香織は踵を返し、教室へ向かって歩き出した。


一歩ずつ。


迷いを振り切るように。



それから数日後。


体育館の裏。


黒田拓巳が香織の前に立っていた。


香織は深く頭を下げる。


「黒田先輩、好きです!」

「お付き合いしてくれませんか!?」


黒田は困った顔をした。


そして――


「ごめん」

「俺、好きな人がいるんだ・・」

短い言葉だった。


香織は頭を下げたまま動けなかった。

しばらくして顔を上げて、無理矢理に笑顔をつくる。

「ですよね・・」

「ごめんなさい・・」

「ありがとうございました」


もう一度深くお辞儀をして、黒田の顔を見ることなく走り出した。


とにかくこの場から離れたかった。

どこか人気のない場所に行きたかった。

逃げるように走り去る。



香織が泣きそうな顔をして走っていく姿を見つけた男子がいた。


バスケ部2年生。


三浦 淳也(みうら じゅんや)


体育館袖を見ると、黒田先輩が頭を掻きながら困った顔をして歩いて来ていた。


三浦は何となく嫌な予感がして、香織を追いかけた。



校舎裏。


三浦は俯いて座り込んでいる香織を見つける。


ゆっくり近づき、何も言わず、スッと横に座った。


香織は顔を上げない。

肩が震えていた。


三浦は知っていた。

香織が黒田先輩のことを好きだったこと。


香織は聞いていた。

三浦が黒田先輩の情報を教えていた。


しばらく沈黙が続く。


三浦がぽつりと言う。


「・・・・ダメだったのか?」


香織は無言で頷いた。


「そっかー」


また沈黙。


そして突然。


香織は声を上げて泣き出した。


抑えていたものが全部溢れたようだった。


大号泣だった。


三浦は何も言わなかった。

ただ、ずっと横に座っていた。


ーー


少し離れた場所。


真子と莉英奈がその光景を見ていた。


莉英奈が小さく言う。

「・・・・三浦くん?」


真子は頷いた。

「うん」

「未来の旦那さん」


莉英奈は驚いた顔をする。

「え、今?」


真子は静かに言った。

「そう、今」


ーー


香織はまだ泣いている。

三浦は何も言わず、隣に座っている。


しばらくして香織が、


声を押し殺すように、

肩を震わせながら、

ぽつりと言う。


「・・・・わかってたんだよ」


三浦は黙って聞いている。


「先輩、好きな人いるの・・・・」

「・・・・知ってた」


涙がぽろぽろ落ちる。


「でも・・・・」


香織は顔を覆う。


「言わないと終われなかった」


三浦は少し視線を落とす。


それから首に掛けていた

バスケ部のタオルを香織に差し出した。


「ほら」


香織は少し驚いた顔をしてから受け取る。


「・・・・あでぃがど(ありがと)


少し時間が流れる。


香織の泣き声が、だんだん小さくなっていく。


三浦が立ち上がった。


「あーっ、腹減ったなぁー」


香織が顔を上げる。


「ぐすっ・・・・は?」


三浦は肩をすくめる。


「失恋した日はさ・・」

「・・なんか食った方がいい」


香織は少しだけ笑った。

涙でぐしゃぐしゃの顔のまま。


「ぐすっ、・・だにそれ(なにそれ)・・」


三浦は歩き出す。


「行くぞっ」

「ラーメンくらい奢ってやるよ」


香織は少し迷ってから立ち上がった。

「・・・・うん」


2人は並んで歩き出す。


ーー


その様子を、少し離れた場所で見ていた真子が言う。


「ほらね」


莉英奈が小さく呟く。

「・・・・ほんとだ」


真子は静かに笑った。

「トリガー引いたね」


2人の背中を見ながら呟いた。


「人の人生ってさ」

「こういう瞬間で変わるんだよ」


真子の目には、2人の線がもう静かに重なり始めていた。


冬の夕焼けが、静かに校舎を染めている。

真子と莉英奈はそっと、その場を離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ