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駅前の『たこから』は、放課後の学生たちでいつも賑わっている。
ソースの香ばしい匂いと、鉄板の上で踊るように焼かれるたこ焼きの音。
ジュッ、ジュッ、と軽快なリズムが店内に響いていた。
窓際の席には、真子たち7人――そして1匹(自称)が並んで座っている。
「やっぱり、『たこから』は塩マヨネーズが一番だよねー」
真子が嬉しそうに言いながら、たこ焼きを頬張る。
「あー、それわかるー」
玲子が頷く。
「ソースもいいけど、塩マヨは正義」
澪も同意しながら箸を伸ばした。
たわいもない会話。
笑い声。
連休明けの気だるさも、いつの間にか消えていた。
そんな中。
由美が、スッと真子の横へ寄ってきた。
「まこち・・ちょっと相談があるんだけど」
真子は口いっぱいにたこ焼きを頬張ったまま返事する。
「はふ、はふ・・アッツ・・あー、ごめん、んで、なに?」
口元を手で扇ぎながら聞き返す。
由美は少し周りを気にしてから、小さな声で言った。
「あの日さ・・・・まこちが手、握ったじゃん?」
「んー?」
「・・・・あれからね、まだ見えるの」
真子の手が一瞬止まる。
「・・・・見える?」
「うん・・・・霊、っていうか・・なんか・・」
深刻な顔。
対照的に、真子はもう次のたこ焼きを狙っていた。
「ねぇ、まこち?聞いてる?」
「うんうん、聞いてるよー」
ひょいっとたこ焼きを口に運ぶ。
「まぁ、ゆみっちにそういう力があったってことだよー」
あっさり。
軽すぎる返答。
由美の眉がピクリと動いた。
「嫌だよー!こんなの!元に戻してよー!」
小声ながら必死の抗議。
真子はやれやれ、と肩を竦めた。
そして、由美の耳元へ顔を近づける。
「・・・・ゆーみっ」
たこ焼きで囁く声が温かい。
「視えてる方が、ケンケンと話しやすいよ?」
一瞬、時間が止まった。
由美の顔が、みるみる赤くなる。
「な、な、なに言ってんのっ!?」
小声なのに勢いだけは全開。
その様子を、莉英奈が見逃すはずもない。
「はーい、そこー。コソコソ何してるー?」
ニヤニヤしながら身を乗り出してくる。
「個人的な占い結果を伝えてただけー」
真子はしれっと答える。
その一言で、全員のスイッチが入った。
「えー!ゆうみだけずーるーいー!」
「わたしも視てー!」
「わたしもー!」
「私もお願いっ!」
声が一斉に重なる。
そして。
「・・・・わ、われ、も・・・・」
小鳥の囀りのような声。
全員の視線が、ゆっくりケンケンへ向く。
メガネをクイクイしながら、控えめに手を挙げている。
沈黙。
次の瞬間。
「犬は見なくてよしっ」
理絵が即答。
「・・・・」
ケンケン、撃沈。
しゅん、と肩を落とす。
その様子に、店内が爆笑に包まれた。
たこ焼きの湯気の中。
笑い声が弾ける。
放課後の、何気ない時間。
でも。
真子だけは気づいていた。
由美が、ほんの少しだけケンケンを見る回数が増えていることに。
そして――
ケンケンもまた、無意識に由美を目で追っていることに。
(うんうん)
(いい感じ、いい感じ)
真子はニヤリと笑いながら、最後のたこ焼きを口に放り込んだ。




