[35]
シルバーウィーク明けの朝。
校庭を渡る風は少しだけ軽くなり、窓から差し込む光が教室の空気をゆるく揺らしていた。
連休明け特有の、どこか気だるいざわめき。
「あー・・学校だぁ・・」
玲子が机に突っ伏す。
「わかるー、まだ休み気分抜けてないんだけど」
香織も同調しながら椅子にだらんと寄りかかった。
そんな中。
真子だけは妙に機嫌がいい。
机に頬杖をつきながら、ニコニコしている。
「いやー、楽しかったねー、この連休はー」
その言葉に、由美の肩がぴくっと揺れた。
(・・・・楽しかったっていうか・・怖かったっていうか・・)
頭の中に、あの夜の光景が蘇る。
夜の校舎。
見えないはずの存在。
そして――
光の剣を振るうケンケン。
「・・・・」
思い出して、無意識に視線が教室の後方へ向く。
そこには。
いつものようにメガネをクイクイしながら、静かに座って雑誌を読んでいるケンケンの姿。
「・・・・」
目が合いそうになり、慌てて逸らした。
(なに意識してんの私!?)
顔が少し熱くなる。
その様子を――
真子だけが見ていた。
(あー・・始まってるねー)
心の中で小さく笑う。
そこへ。
理絵が机に身を乗り出してきた。
「ねえねえ、聞いた?連休中の噂」
「なに?」
玲子が顔を上げる。
「夜の学校、なんか出たって話」
その言葉に、由美の手がピタッと止まった。
「え、なにそれ怖いんだけど」
「誰かが見たとか言ってたよ。廊下で光が走ったとか」
教室の空気がざわっとする。
真子はボールペンをくるくる回しながら、知らん顔。
ケンケンは背筋を伸ばし、雑誌を読み続けている。
「まこち、なんか知らない?」
突然話を振られた。
「んー?」
少し考えるフリをしてから、
「さらば青春の光じゃない?」
「絶対違うわ! ってか、なにそれ!?」
ツッコミが飛ぶ。
(・・・・ありゃ? まだリリース前だったっけ・・しまった)
真子はハニカミ笑いを浮かべた。
しかし、なぜかそのズレた発言に、教室には笑いが広がっていた。
その時。
由美がちらっとケンケンを見る。
ケンケンも同時に由美を見る。
一瞬、目が合った。
「・・・・!」
二人同時に視線を逸らす。
それを見た玲子がニヤニヤして由美を見た。
「・・・・あれ?」
「なに?」
由美は気まずそうに玲子を見返す。
「なんかさぁ〜?」
ーーにやにや。
「な、なによ」
由美が警戒する。
「いやー、なんでもないけどぉ?」
ーーさらにニヤニヤ。
周囲もなんとなく察し始める。
「え、なになに?」
「ちょっと待って、何かあるの?」
空気が一気に恋愛モードへ傾き始めた。
その中心で。
真子だけが、静かに目を細めていた。
由美の視線。
逸らすケンケン。
そしてまた戻る視線。
(まだだよー)
(今はまだ、早い)
(この2人はねー・・・・)
(ほっといても、ちゃんと繋がるから)
真子は一瞬溜息をつき、わざと話題を変える。
「そういえばさー、今日の放課後ヒマなひとーー?」
「え?急に?」
一同の視線が真子に集まる。
「駅前のたこ焼き食べに行きたーい」
「おっ!いいねー」
「行こう、行こう」
「たこ焼きと言えばーー?」
「たこからーー!」
恋バナはたこ焼き談義へと移り変わる。




