[21]
本堂は静まり返っていた。
昼を過ぎ、外の光はやわらかく差し込み、木の床に長い影を落としている。
夏休みで修行体験に来ている数名と一緒に坐禅を組んでいて、真子と真実は並んで瞑想に入る準備をしていた。
背筋を伸ばし、目を半眼にして呼吸を整える。
風の音。
木々の揺れる気配。
遠くで鳴く鳥の声。
それ以外は何もない。
静寂。
――いや。
真実にとっては、静寂ではなかった。
【・・・・瞑想ってどうするの?】
【とりあえず目を瞑るか】
【あ、やば、足がヒリヒリしてきた】
外からの心の声が、途切れることなく流れ込む。
(・・・・うぅ・・・・)
呼吸が乱れそうになる。
意識を内側へ。
線を絞る。
先日、教わった通りに。
しかし――
雑音は消えない。
むしろ、静けさの中で余計に際立つ。
「・・・・っ」
わずかに肩が揺れた。
その瞬間。
――パシンッ。
乾いた音が本堂に響いた。
「いっ!」
真実の肩に鋭い衝撃。
思わず目を開ける。
後ろに立っていたのは天音だった。
音もなく、いつの間にか背後にいる。
手には警策[けいさく]。
細長い叩き棒。
「姿勢が崩れています。」
淡々とした声。
感情はない。
真実は慌てて背筋を伸ばす。
再び目を閉じる。
呼吸。
呼吸。
――パシンッ。
「痛っ!」
「思考に引きずられています。」
再び叩かれる。
真子は横で微動だにしない。
呼吸だけが静かに続いている。
真実は必死だった。
静かなはずの空間で、心の声が増幅する。
(逃げ場がない)
(遮断できない)
集中しようとするほど、余計に意識してしまう。
(・・無理だ・・・・)
――パシンッ。
「言葉に逃げない。」
天音の声は低いが強くはない。
ただ、否定できない響きがあった。
真実は歯を食いしばる。
呼吸。
吸って。
吐いて。
吸って。
吐いて。
時間の感覚が曖昧になる。
やがて――
ふっと。
一瞬だけ。
音が遠のいた。
静けさ。
ほんの刹那。
次の瞬間、また雑音が戻る。
「・・・・はぁ・・・・」
思わず肩が落ちる。
真子が小さく声を落とす。
「・・・・今の、感覚だよ」
目は閉じたまま。
「え・・・・?」
その言葉を聞いた瞬間。
――パシンッ。
今度は真子の背に軽く一撃。
「私語。」
天音が淡々と言う。
真子は小さく舌を出した。
再び静寂が戻る。
本堂には、呼吸だけが残っていた。




